Halshuggning -5-


「おっ、ねぇ、さまー！！」

待ち合わせ予定のカフェの前、先に中で待っていようかと思っていたところで、突然のタッ

クル。
腰から、鈍い、音がした。

「お姉様から、デートにお誘い下さるなんて感激です！！」

軽くいなしながら、店内へ。
入り口に一番近い席を選び、座る。
なんか、隣りに座ってきたので前の席へと移動させた。
注文を手早く終えて、小さく息を吐く。
目の前の金色の髪の少女。
イングリッド、は僕の遠縁の親戚に当たる。
一度、それとは知らず路地裏で男共に襲われていたのを助けたことがある。
その時には、もう手遅れで事後だったのだけれど。
それ以来、僕のことをお姉様などと呼んで慕ってくるのだ。
たぶん、男に対する恐怖の反動なのだろう。

「それで、レグルス＝レグルスの……え？今日はそっちじゃないんですか？」

そう、今日呼び出したのは以前に依頼してたメンバーの調査とは別の件。
あの男。グリゴリに関することで。

「えっ、イペ族ですか？」

そう、あの男が生まれ育った場所。
産み直しという、能力を持つ少数部族。

「はい、了解しました。族長のアポイントを取ってきますね！」

族長ならば、色々と聞くことができるだろう。
そんな提案をしてきたたのはクリスだった。
それからすぐに、イングリットを呼び出し、こうして話をしているのだ。
封筒に、メッセージを書いた紙と月のコイン——と言っても、市販されているものだが——

を入れて、イングリットの方へ押し出す。

「ふふふー、任せちゃって下さいよ！上手く言ったら、ごほうび、欲しいなー」

運ばれてきたケーキと紅茶を彼女の前に差し出す。
これで、我慢しなさいと。
不満気にケーキを口に運ぶ顔を見つつ、僕も運ばれてきた苺パフェに手を付ける。

「ところで、なんで今さら、その、グリゴリ、さん？のことを……？」

その問いに、スプーンの動きが止まる。
軽く睨んでやれば、空気を読んだのか話題を変えるためにイングリットは続けて口を開いた

。


「あー、そういえば、ですね。お姉様、聞きました？南方のアルベッシュの話」

アルベッシュ。南方刑吏組合にて、幹部を務める家だ。
この前のパレードに、娘のトゥーヴァ—が来ていた。
まあ、僕が依頼したからだけど。
黒い艶やかな髪に、小麦色の健康的な肌を晒していたけれど、何かあったのだろうか。

「殺された、そうです。一族、皆」

潜むように囁かれた、その言葉。
思考が混乱する。
は？
殺された？
なぜ？

「犯人もわかっていないみたいです。分かっているのは、それぞれの額に一字ずつ刻まれた

文字。そして、トゥーヴァーさんの死体だけ見つからない、ということです」

その後も話は続いているが、上手く聞き取れない。
頭の中に浮かんだ疑問が、邪魔をする。
何故、このタイミングで？
犯人は？
トゥーヴァーはどこへ？
もしかして、僕の、せい？

「……それで、トゥーヴァーさんからお姉様宛にこれが。お姉様？」

テーブルの上に置かれた封筒が、進み過ぎた思考を引き戻してくれた。
これは、ひょっとしたら前にトゥーヴァーが言っていた面白い話とやらだろうか。
それは一枚の手配書。
顔がよく見えないが男の写真だろうか。
ペットショップ、それがこの男の通名らしい。

「生死を問わず、ですか……」

この男が、犯人だということだろうか。
それとも、この男とフライバイに何かつながりが……？
どちらにしても、このような場所で広げるものではないか。
折りたたんで封筒にしまう。
その途中で目に入る、裏側に書き込まれた文字。
黒く、鉄錆た色。


『追うな』




（なお、今回はENo.44 グリゴリ・ドミトリエヴィチ・ラージン　さんの日記におじゃましております）

フライバイをチラッと見る。

一つ一つ、新しい言葉がプラスされるたびに、小さく唇が動く。
耳をすませば、小さく、繰り返すように何度も同じ言葉を呟いているのがわかるはずで。
他の人にも、教わっているのもあり、急な新しい言葉の把握には頭の中だけではそろそろ限界が近い。

……駄目だ、と自身も気付いたのか、メモの新しいページを開き、
”てたる　＝　まって
ゑみ、　＝　かず
りみ　＝　いす
みもれ　＝　すわる”
と走り書きを。……とりあえずは、これで、忘れる事はないだろうと、ふう、と息を吐く。

とん、とん、上から順番に読み上げるようにして、会っているか？と確認するかのように首を捻った。
……触れる、クリストファーの手に。一瞬驚いて。目を丸くして目線を合わせる。
だが直ぐに目を背けた。頬が僅かに赤いのを悟られぬようにわざわざ不自然にきょろきょろと辺りを見回し。

…悩んでいたが、落ち着いたのか、最終的に相手に向き直り。
自由のきく手で、ぱんっ、と本当に軽く自分の頬を叩いた。
——その、叩いて頬に置いたばかりの手の辺りを、指差し。

独自、でも勉強をしているのだろう
動詞の活用法まではまったく出来ていないものの、本当の基礎の動詞をたどたどしく口にした。

「ええじゃないか」の群れをかきわけるようにして歩いてゆくと
　多少開けた場所に出た。
　　よく見ると即席の炊事場のようで、
　　　　調理中の鍋がずらりと一列に並べられている。

謝罪には一切反応せず、怪訝な顔のまま続ける。
尤も、元の地顔が怪訝な表情のままなのだが。

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▼察した

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少女の方を向き直り

「駄目…だったかな？」俯いて、不安そうにそう彼女に尋ねた。

こちらを見もせずに、軽く返す。

そこで、一度区切り煙を吐いて

——彼女はふざけても男性にちゃん付けをするようなタイプではない。
　　　当然、いつもクリストファーにはさん付けで呼ぶ。

　　　　　手を取られれば、なんというかひどく驚いた。

　　　　　ほとんど悲鳴みたいな声をあげて謝った。手は振りほどかなかったものの。

「悪意だらけの最低で下衆な者」。卑下の言葉の羅列と溜め息に、ばつの悪そうに視線を逸らし。

元々一揆に参加する予定ではあったようだから、当初の目的事態は果たされてるといえばそうだけど、と付け加える。

目の前の言動からして、とても妹が姉にするような態度には見えないが
無気力に揺れる「姉」を呆然と眺めながら生返事をする

ここにきて何度目かの、一揆のことについて聞かれれば呻くような声を出す

肩を竦めて ふん、と鼻を鳴らす。

薬の値について張られた予防線に、
男は不機嫌そうに煙草の吸い口を噛み潰した。

言って、置かれた間の間に煙を吐く。

ぼやくように言って問い返しに軽く眉を上げた。

俺にもわからん。と灰を落として素気無い答えを返す。

それだけだ。と、肩を竦める。

はぐらかすようにも軽く手を振って
お手上げだ、とばかりに茶化すように示した。

相手の訝し気な視線に、青年は笑みを浮かべながらも少々ギクリと目線をそらす。
嘘は苦手じゃないつもりだが、こういう時は　どう誤魔化すのだったっけ……？

何かを示すように、ちらりと目線を下に向ける。足元の人形に聞こえないよう、
目の前の男（青年の中ではそういう事になったらしい）に向かって小声で囁き微笑んだ。

さっさと『ここに居ますよ』と言ってしまえばよかったかと少し考え始めた時、
足元の赤い頭巾のエンブリオがその脚を抓りあげた。

赤い頭巾は人形を睨みつけた。
いったい何が不服で突然怒り出したのか、契約者である青年はさっぱりといった様子である。

手を差し出して

初めよりもいくらか明瞭に聞こえる発音で、竜は応える。

首をひねりながらうんうんとうなる。
ひとしきりうなり続けていたが、傍らから現れた存在に気がつくと目をぱあっと輝かせた。

林檎に対してもそうしたように、けれど林檎のときとは違い今度はゆっくりと慎重に竜は鼻先を寄せた。

上機嫌そうに喉を鳴らしたあと、さらにパイの追撃を耳にし。
座っているのが辛うじてであるのが自明であるくらいに尻尾がばたばたと音を立てて地面に叩き付けられ始めるまではそう時間を要さなかった。

返事を聞く前に、いそいそとマイクや機材を準備し始めている。

女性の姿が消えるまで下を向かずに見送り、

改めて下を向くと影から毀れ出る小柄な体躯に笑いかけた。
膝を折り、視線の高さを近づけるように工夫して、言葉を続ける。

ぶらりと揺れる、クリスティーナのことを言っているらしい。
当の本人はてんで気にしている様子はないようなので、
カタリナも冗談めいたそぶりで言ってみせた。

クリスティーナとクリストファー、２人を交互に見やり、言葉を選びながら少女は続けた。

ペッ、と大きな音を立てて地面に唾を吐いた。
そこには紳士的な風貌の面影など微塵も残されてはいない。
そして2人の姿が見えなくなる前に懐から素早くナイフを取り出して、構え。

クリストファーの頬を掠めるか掠めないか程度の位置を通過させ、そのまま近くにあった壁に勢いよく突き刺した。
その反動で地面に倒れてしまったクリスティーナのことを気に掛ける様子は一切ない。
トガノはクリストファーの髪を掴み、半ば強引に自身の方へと顔を向けさせた。
そのまま…まるでゴミを見るような形でクリストファーの瞳を覗き込む。

侮蔑の目線が赤の狂気に染まった。
相手の返事を待たぬまま、トガノはクリストファーの片腕をねじ回して地面に押し倒し。
そのまま懐から取り出した新たなナイフを突き立てようとしたが…。

ほんの少しだけ肩を斬り付ける程度に止めた。
同時に拘束していた腕も解放する。
ここは裏路地とはいえ、繁華街の一角。
殺害するのは人目に付きすぎる…そう判断した。

1枚の紙切れをクリストファーの顔に押し付けるような形で渡す。
内容は…賞金首のポスターだった。
そこにはクリストファーの姿と賞金額がハッキリと描かれている。

トガノは地面を蹴り上げるようにしてクリストファーの背を蹴り付け、その場を立ち去った。

二人をちょっと見比べて。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。