闇の先から襲い来る獰猛な獣の一撃をソレに劣らぬ巨躯が正面から受け止める。
その脇を滑るように潜り抜け合成獣とも思える混ぜ物へと攻撃が集中する。
縄が音もなく伸び、鎖が不吉な音を響かせ翻弄する。
鞘に収まったまま振るわれた刀の一撃に続きトドメとばかりに鉄の固まりの様な拳が合成獣に叩きこまれた。
完全に初動を制された形となった獣達の動揺に対し無慈悲にも振るわれた刃が数匹の獣を大きく抉り取る。
しかし、それでもそれらはこれまで対峙してきたモノとは些かの違いがあった。
身体そのものの頑強さに、思ったよりも長い時間を取られる。
漸く片付け終わった頃には頼もしく思えた巨躯の男は今までに見たことの無いフラつきを僅かに見せ。
倒れた獣に軽口を吐く男の顔にも疲労の色が浮かんでいた。
三人の男よりも僅かに後ろから戦っていた女もその様子に少し不安を感じたのが声色から伝わる。

「さっさと行きな、面倒な事になるまえにな」

独り何事も無かったかの様に地下牢の先から視線を外さずにそう言う身体を大きく欠損している男が居た。
多くの攻撃は巨躯の男が受け持ったとは言え褐色の男の様に前に立ち戦っていたその身にも軽いとは言いがたい傷を負った筈のその欠損した男にはその様な傷がほとんど見受けられなかった。
契約エンブリオ、エンジェルの治癒力———。
他者を癒やす力を持たぬ代わりにその男に与えられたのは自己治癒の力の様だ。
その言葉を聞き女は踵を返す、どこへ向かうのか、それは本人達のみ知る所。


考えても見れば欠損した男と、隊を離れていく女が構成する要素は印象的な程に真逆であった。
四肢の半分を失いながらも、エンジェルと契約し命を取り留めた男。
下半身を失いながらも、デビルと契約し、替り身体を手に入れた女。
それは契約したエンブリオに依るものか。
それとも他の何か、別のモノか。
この二人が出会ったことは偶然なのか、必然なのか。
今、それを知る者は何処にも居ない。




欠損した男の、欠けた頭の中に、嘲るような笑い声が響く。
ケタケタと、何が楽しいのか、男にしか聞こえぬ耳障りな笑い声。
その調子のまま楽しそうにその声は男に囁きかける。

もうすぐ、もうすぐ———と。

言いながらミチエの抜けた一同を見渡す。

シツジに赤いロープを差し出す