ぴいん

金属が爪で弾かれる音が立てられて、くるくるとコインが空中で回転する。



　　ぱしん

手の甲で受けたコインの表面を見下ろして、小さく呟く。
手遊びに打ち上げたそれは、数回繰り返しても同じ面を晒す。

摘み上げた枯蔦の意匠を眺めおろし、その表面を親指の腹で軽く辿る。









マァムブが"生贄"を欲したのはつい先日のこと。

コイントスの裏がでるか表がでるか。
たったのそれだけの違い。


けれど、目を開けたマァムブから流れ込む力は怖気が立つほどに圧倒的だった。

あの泥の中から引きずり上げられるような、身の軽さと高揚感。

知らず、僅かに待ち望むような声になった。


次がいつになるか。

それは、コインだけが知っている。

ちょろちょろそわそわとついてまわる。

もらい物は見られるか、と問われ

火を借り受けるグレイマンに口元だけで笑みを見せる。

病的な顔立ち、三白眼も合わさり『凶相』と言っても問題の無い男の視線を受けても、
なんら変わりなく無言でただ煙草を咥え直す。

そうして、グレイマンの煙草がゆるりと煙を燻らせるのを確認すると、
パチンと蓋を閉じてまた胸元に仕舞いこんだ。

ほう、と煙を吐けばグレイマンのそれとは違う甘い煙が、
吐き出された煙を包んで少しばかりグレイマンの方に押しやった。



「で、　誰だ。　あんた。」


問いを受けると、少しばかり短くなった煙草を器用に回しながら答えを返す。

後半は、聞き取れないぐらい小声だったが、とりあえず不満を吐いたのだけは解るだろう。

そう言って、また煙を細く長く吐き出した。

フライバイが取り出したよくわからない缶的な生き物？エンブリオ？道具？を見ながら、一体今度は何を行うのかと不安げに声を発する。
普段言葉を教えてもらっているフライバイやクリストファーに助けを求めるような目線を向けたり、カミユの服の袖をくいくい引っ張って何をすればいいのか助言を求めたり。

ジュリ、と声をかけられ、グーだのチョキだのを見ればとりあえずじゃんけんをするのだということは理解できたようだ。うんうんっ、と何度も頷いて手を出した。

手を前に出せばグーチョキパーと形を作り。リズムぐらいは言葉はなくてもいけるだろう。多分。

…缶の存在しない山村育ちのカミユは、どうやら缶けりを知らないようだ。
服の裾を引く樹里とフライバイを交互に見、何も応えられずに動向を見守る。

　　　　　　　　　・　・　・　

声の聞こえた方に向けると、缶けりをしようだのじゃんけんだのとフライバイが騒いでいる。

混ざる気もなさそうに、輪の中央から抜けて端によった。

村では、大体鬼ごっこやかくれんぼ等、道具を使わない遊びはした事はあったが
”缶蹴り”　という遊びは初耳だった。　機会が無かっただけではあるが。

とりあえず、皆が話す内容に耳をそばだてておぼろげながらルールを察する。

とか何とか考えてる間にじゃんけんが始まる…！