あの黄金色はなんだったんだろう？
上手く言えないけれど、体の奥に生えた羽が生え変わるような。
すこしの痛みと、強い異物感と、言い表しようのない高揚。
自分自身の人格すら変わってしまったようで、あの自信満々にも程がある姿を思い出すとさすがに頭が痛い。

「マァムブの力」だそうだが、この世にこんな恐ろしいエンブリオが存在していいんだろうか？
だとしたら、オレの故郷を王や領主から守っているのは山に棲むエンブリオだという
小さい頃聞いた噂も納得できなくはない。

ただ、ひとつ、思い出せない事がある。
まるで虫食いのように、希少種がどうやって戦っていたか、どんな姿でいたか。
あいつに関する記憶だけがどうしても繋がらない。



…誰も何も言わないってことは、どうともなっていないんだろう。
些細な事だな。

フライバイをチラッと見る。

ごめんなさい　の言葉で一旦はそれがおさまれば、ああ、と安堵の息を吐き。
そして吐いた直後に、傍にいたカカに驚く。
少女からすれば、とても大きな鳥人、というのは少しばかり怖くもあったのか、一瞬身を強張らせる、が。

差し出された紙。と、いうか、意味こそ全くわからないものの、こんなに流暢に喋るんだと驚いたようにカカの顔を見上げ。
ペン、ポケットの中にあったかな、などと探ろうと目線を外した——その隙に、殴られたり怒っていたり、挙句、二人は既に歩き出してしまい。

ちょっと、一瞬追いかけるかどうか悩んで、黙り。
そして結局追いかけた。後をついていって、暫くして、二人が分かれれば、……レグルス、ではなく、カカの方へと。

まずは此方を意識してもらうために声をあげる。
教わった　待って　という言葉を口にしながら、先ほど、ポケットから出したペンを持って。自分は、何かを書く意思がある、伝えたい事がある、と。訴えてみるが。

　
　ぶっちゃけ自身の戦闘能力の確認ができれば、一揆に参加してもしなくてもいい。
　それぐらいの適当さが一瞬垣間見えたような気もした。

　

　
　ベラベラ喋っていたマントを、上から口を挟んで留める。

相手をからかうように、ケタケタと笑う。

そう言うが早いか、突然魔女の身体が溶け出した。
魔女は、人の形をしたぐずぐずの肉塊となり、うねうねと動き始める。

やがて再び元の形に戻った時には、彼女の身体の傷はすっかり消えていた。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。

薄く血の付いた包丁を振り払う。

村では、大体鬼ごっこやかくれんぼ等、道具を使わない遊びはした事はあったが
”缶蹴り”　という遊びは初耳だった。　機会が無かっただけではあるが。

とりあえず、皆が話す内容に耳をそばだてておぼろげながらルールを察する。

とか何とか考えてる間にじゃんけんが始まる…！

フライバイが取り出したよくわからない缶的な生き物？エンブリオ？道具？を見ながら、一体今度は何を行うのかと不安げに声を発する。
普段言葉を教えてもらっているフライバイやクリストファーに助けを求めるような目線を向けたり、カミユの服の袖をくいくい引っ張って何をすればいいのか助言を求めたり。

ジュリ、と声をかけられ、グーだのチョキだのを見ればとりあえずじゃんけんをするのだということは理解できたようだ。うんうんっ、と何度も頷いて手を出した。

手を前に出せばグーチョキパーと形を作り。リズムぐらいは言葉はなくてもいけるだろう。多分。

…缶の存在しない山村育ちのカミユは、どうやら缶けりを知らないようだ。
服の裾を引く樹里とフライバイを交互に見、何も応えられずに動向を見守る。

　　　　　　　　　・　・　・　

声の聞こえた方に向けると、缶けりをしようだのじゃんけんだのとフライバイが騒いでいる。

混ざる気もなさそうに、輪の中央から抜けて端によった。