「なんでよ！どうして■■■を名乗っちゃいけないの！？
　■■■だって、アイネに貰った、ちえりの大切な名前なのに！」

「こら、みだりに口にするんじゃありません。
　別にママはいじわるで言ってるんじゃないのよ。
　ちゃんと説明するから、ほら、こっちにおいで。」

「この村では、子供に二つの名前をつけます。
　一つは、パパとママから子供に贈る名前……ちえりね。
　もう一つが、魂見のお婆様につけていただく名前。
　これは、パパとママ、それとお婆様しか知らない、子供の"真名"よ。」
「名前っていうのは、とっても大切なモノなの。
　それはちえりも言っているとおりね。
　ママは、ちえりの名前を知っているから、ちえりに呼びかけることができるでしょう？」

「うん……。」

「真名は、ただ呼びかけるだけじゃないの。
　ちえりの魂に作用する名前。
　だから、悪い人に知られたら困るから、名乗っちゃいけないの。」
「他人に知られなければ、この名前はちえりを守ってくれるわ。
　どんなまじないも魔法も、ちえりの本当に大切な場所までは侵せない。」

「ママは、もしちえりの名前が悪い人に利用されたらとってもとっても悲しいわ。
　そしてお婆様も、そんなことは決して望んでいないはずよ。」
「あなたがその名前を本当に大事なものだと思うのなら、どうか大切にしてほしいわ。」


「それでもどうしても名乗りたいのなら……そうね。
　一文字とって"R"……ちえり・R・アプリコット、と名乗るのはどうかしら？」

ここは……突っ込もう。

あとは吉報だった。このパーティー内の者なら誰もが知っている。

ローラスは、あなたが目線で示したガトリングをちらりと見やり。

（あなたの仲間のドラゴンに気絶させられ、まだ意識が朦朧としているようだ—）

（「ロロムさま」を聞くと、はずんだ声で—）

それから、数分後。
ふと顔を上げた彼女は、申し訳なさそうにちえりを見て。

一度だけ、年頃の少女の様に笑ったのだった。

次に口を開けば、何事も無かったかのように。

悪意皆無のキラーパスをブン投げた。
「メルンテーゼの」とわざわざ付け加えるのは、ちえりの交友関係が広いと勘違いしているのか。
はたまた自分もちえりの友人の一人だろうと考えているのかは不明であった。

　

鼻息も荒く、宣言した

魔王と言うよりは、家に残してきた幼い弟を心配する姉だった。
あるいは、幼い息子にたいする母親のそれか。
要するに彼女は、かなりの世話焼きらしかった。

ぽつり、小さく呟き。

刹那、白刃は吹き出すように呻りを上げ。
僅かな腰の捻りにより、刀はやや垂直斜め下へと振り下ろされる。
その剣先は、ちえりの側面を霞め、地の表面へ頭を付いた。

するりと構えを解き、刀身を鞘の中へ収める。

　瞳の奥を、覗き込むような視線。
　自然と、近付いた顔。勾引(かどわ)かすような姿勢。
　薄っぺらい瞳は、それこそ、その『奥』を覗き込み返してはいけないような気すらした。

　僅かな、間。
　耐え兼ねたように切り出した少女の言葉に、少年は嫌にゆっくりと声を返す。