tie cadaie -4-

二人、街を歩く。
一緒に買物に行って欲しい、とジュリに頼まれた。

丁度、買い出しに行く必要があったし。
それに、街ならば色々な物がある。この機会に言葉を覚えてもらえれば、そう思って了承した。



『パフェ』
『ケーキ』
『シュークリーム』

ジュリの目が吸い込まれていく物には、法則性があった。
食べ物、それも甘いもの。

まあ、女同士だし気持ちはわからなくもない。
言葉が通じないようなところから来た子でも、どうやら根っこのところは変わらないようだ。
必要なものを買い終えたら、カフェにでもよってあげようか。
……賞金首が二人も揃って呑気なものだ。
自嘲の笑みが漏れてしまう。
少し、気が緩みすぎているかもしれない。

無邪気に買い物を楽しむジュリに少し毒されていたようだ。
そろそろ手配書も出回ってきている頃だろう、気をつけなければならない。
そう、たとえば、先を行こうとするジュリがこの、曲がり角を曲がって——


「ジュリ……ッ！！　あぶない！！」

角の先に感じる殺気。
咄嗟に声を上げる。

反応して、振り返えろうとするジュリ。

その頬を鋼が裂く。
丁度、顔を逸らしたのが良かったのだろう。
それよりも……。

舌打ちをする。
腕を掴んで、強引に引き寄せる。

つい、先ほどジュリがいた場所に。
大きな刃が、振り下ろされた。


「＊＊＊＊＊＊＊＊＊！！！」
「＊＊＊＊＊＊！」

数は、二。獲物は、大刃に棍。
何か怒鳴っていたようだが、訛りが酷く聞き取れない。

どうせ、大したことは喋っていないだろう。

何を言ってたとしてもどうでもいい、この二人は敵なんだから。

考えるべきはこの場をどうやって切り抜けるかだ。

男二人に、女二人。
流石に、分が悪い。

ジュリの様子を見れば、少し呆けているようだ。
こんな街中で突然襲われたことが、ショックだったのだろうか。

「ジュリ……！　逃げて！！」

退くべきだ。
そう、判断した。

そのための隙を探るにしても、ジュリは足手まといだ。
こちらに敵をひきつけ、先にジュリを逃がそう。
僕一人なら、問題はない。

男たちは、手配書に目をやっている。逃すなら、今だ。
なのに、ジュリは動かない。

男たちのぎらつく目。
その視線の先は——

「——……ッ！！！」

振るわれた棍。
鈍い音。
呼吸が詰まる。

「クリスくん……ッ？！」
「ジュリ！はやく、逃げて！！！」
「ごめ、ごめんなさい、私…っ、ああ…ッ！！」

狙いはジュリだった。
そうだ、賞金額はジュリの方が上だったか。
当のジュリは混乱して謝るばかり。
それならば……。

「……っ…！」

賭けに出る。
こちらを仕留めようと棍を振りかぶった男に、体を低くして体当たりを仕掛ける。
先ほどの感触に油断していたのだろうか、もう一人の男を巻き込んで地面へ倒れこむ。
想像以上の効果。逃げるなら、今だ。

振り返り、舞い上がった手配書を払いのけジュリの手を掴む。

「逃げよう！」

走りだそうとする。
それなのに、ジュリは何かに気を取られたように一瞬動きを止める。

「ジュリ！！」

名前を呼び、強引に手を引き無理矢理にでも脚を動かさせる。
背後から、男たちの声が聞える。

人混みに紛れて逃げるのがいいだろう。


思ったより早く息が上がる。

鈍痛。
何度か、呼吸が止まる。

どうやら肋骨が折れたようだ。
それでも、脚を止めることはできない。

治療はカミユにでも頼めばいいだろう。
ジュリはまだショックをうけているようだ。

そんなことよりも、僕の頭を占めていく者がいる。
あの男、グリゴリにどう説明をするべきか——


（今回の日記はENo.14 上月樹里　さんの日記と合わせてご覧ください）

褒められた事に、素直に嬉しそうにしている。

この中のだれか、と言われて硬直する。
しばらくそのまま固まっていたが、ぎこちない口調で答えた。

会話に割り込んできた人形の方を、驚いたように振り向く。

今は追求する気がないのか、ものを訊ねているというより
諦念のようなやれやれ、といった雰囲気。

初めて聞いたなと、なんだか真に受けている。

すこしうらやましそうにおねえさんたちをみています。

もっとききたそうにしていましたが、どこからかちいさなとりがまいおりて猫のかたにとまりました。

おうさまにおしおきすればすべてかいけつとおもっていたようで、そんなひとたちがいることにびっくりしているようです。

手の平をフードの上に載せようとすると、一瞬、体をこわばらせます。
視線を上げて、クリスとファーさんをじっと見ました。

とくに抵抗はせず、そのままおとなしく頭を撫でられるままにしています。
ヒトよりも小さな体のアムルの頭は、やはりヒトよりも小さくて、まるで人形のようです。


なにもなければ、話は続きます。

そんなことを言いながら、頭にかぶったフードを直しました。

ぺこりと頭を下げて。

目に見えてクリスの機嫌が悪くなると、こちらもやれやれとため息をつく。

傍らの獣にちらりと目をやる。獣は呆れた顔で見上げている。

-どうやら小さい方のクリスは、クリスちんと呼ぶことにしたようだ

ほっとしたように溜息をつく。

下手に動けば背中の「彼女」を落としかねない。腹ばいの格好のまま、ちらりと「彼女」の契約主を見上げ。

振り返らずに肩をすくめ、軽く手をあげる。

至極楽しそうな人形と、クリスと呼ばれた女性を眺めるが
思考の整理がつかず、うーんとうなり声をあげる。

ずり落ちかけた帽子をかぶり直しながら、
足元でくるくると身体をよじる猫と、
その背中でキャッキャと楽しそうな声をあげている人形に笑いかける。

りふじんだーー！と猫が声をあげると、それに合わせて背中の毛がモフっと逆立つのだった。

こいつら、とエンブリオたちを指して言いながら、ズレた眼鏡の向こう側、緑の瞳を見て。

「お近づき」の必須ワードを投げかけた。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。