月が空を照らし、マァムブに設置された私室にも優しい光が差し込む。
姉には使い方も解らない小型音楽再生機器に手を伸ばし、イヤホンを付けて再生ボタンを押した。


村にいた頃、9歳頃に来た『異世界』の男性から貰った機械だ。


時折、ふらりと町を出て似た様な出自の人間からパーツを買い換える事もあったが、
フレームは、ずっと同じ物を使っていることになる。


流れてくるのは"ララ"というアイドルの曲。

活動はまだまだローカルと言える位ではあるけれど、応援を始めたのは多分デビュー直後か、２週間以内だと思う。


「〜〜♪　−♪　〜〜　〜〜♪」

姉さんは、『落ち着いた曲が好き』って言っていたけれど
私はこういうアップテンポな曲が好きだ。　小さな頃の男友達に言った時には
幽霊でも見た様な顔をされて、張り倒した覚えがあるけれど。


「…………」


新しい曲。
何回か聞けば、覚えられるだろうか。


ふと、読みかけの本の事を思い出して手を伸ばす。

「あ……」

けれど手をかけた位置は、姉の本の欄であることに気付いて手が止まった。
別に些細な、けれどそこにありうる可能性を鑑みれば一切笑えないその間違い。

”限界”には、まだまだ遠い事は事実だ。

けれど、そこに到達する前に”危険域”は存在する。

そして、その危険域でどれくらい活動できるかは、不明だ。
それが、何時から始まるのかも。


「……大丈夫よ、姉さん……」


夜遅くまで曲を聞き続けていたせいで、リレッタが翌朝寝坊しかけたのはまた別のお話。

　

差し出された本の方に目を向ける

どこか勘違いしてそうな雰囲気

　クロエは黒き精霊が中華包丁を取り出すのを見て、驚きの声を上げた。

　クロエはそう言いつつ、軽くシャドーを始めた。

　素早い速度で放たれた拳が、よく見ると一瞬輝くように見えるかもしれない。

リレッタの傍らに立つ影が消え、再びその姿を現した
次の瞬間チャチャカの目の前を切先が通り過ぎた
一瞬遅れて、切先を追いかけるように風が吹き抜けた

サラマンはすぐさまリレッタに顔を向けた

チャチャカはそこで少しだけ言葉を区切る

苺香はリレッタを見送るように手を振った。
その手にはブザーが握られている。

明らかにそれまでに顔をあわせていた「リレッタ」とは違う口調と態度に、
軽く眉を上げながら、差し出された火を借り受ける。

押し流された煙草の煙は特に避けず
火のついた煙草を指で挟んで、目を細めた。

ぶつぶつと呟かれる不満らしき台詞ははっきりとは聞き取れず、
次の言葉が続くまで、視線が逸れた目を見下ろす。

長く吐き出された煙がゆっくりと消えるのを眺めて、
見目はそのまま、態度だけが違う「リヴィア」を見やった。

今は随分と理性的に見えるが。と、浮かんだ疑問をひとつ差し向けた。

顔の前、何もないそこを払うような仕草をして。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。

薄く血の付いた包丁を振り払う。

二つの手で象られた猫箱がゆっくりと開かれ、
その下から運命の行く末を定める標が姿を現す

＜メルンストゥーラ＞は輝く。
山吹。橙。茜。琥珀。
その輝きが増して広がるにつれて、それは日頃親しんだ色味を帯びていく。
日暮れ刻。
太陽の残り香が、空を染める色。

その光に、その色彩に揺り起こされるように。
昆虫にも似た、けれどそれに非ざる巨躯を持った何かがその目を緩やかに開く。
閉ざされていた十三の瞳は、そのどれもが輝石の光と同じ輝きを窶していた。

開かれたコインの裏。
つい舌打ちが、漏れた。

十三の瞳が、目覚める。
放つ金色の光は旧き黄金郷の記憶だろうか。
運命の糸に絡め取られた者達の刻が、今、動き始める。

それは他の者達と同様に、女の体へも変革をもたらす。

相手が狂乱していく様子を、女は冷めた目で見ていた。
相手の大きさに脅かされた少年は、小刻みに震えていた。

目前の変化が終わる。見えるは武装した匪徒の姿。

少年の震えが止まる。左手の甲をかざし、呪文詠唱を始めた——。

少年の声に震えもなく、瞳に迷いはない。
女の口元が少し緩んだ。

女は手早くマシンピストルに銃弾を装填する。
怯えた様子も見せず、眉一つ動かさない。

女が銃を構える。ここから引く気など、微塵もないようだ。

剣呑な雰囲気に触れ，閉じられていたものが開かれようとし始める．