ENo.3339 刃皇耶　竜斗

アキ「ご馳走様でした！」

ユエルン「ご馳走様」

竜斗「ごちそうさんです」

３人で手を合わせる。
ココはオルゼの宿屋兼酒場。
今は朝なので食堂になっている。

昨日はゆったりとした休暇をとることが出来た。
いや、ほぼなし崩し的に休暇になっただけだけど。
まぁ、こう言う日も大事だ。
いつもピリピリしてたらもたない。
いや、有事の際にはそれもできないこともないけどね。
そうでないなら気を抜くのも大切なことだ。

と言うわけで、あの後は宿でゆったりと睡眠をとり、今は朝食後。
アキさの満足顔を見ればここの料理がどれだけ美味しかったのかすぐ分かる。
いや、大変美味かった。
エスタもそうだったけど、この世界の料理人はいい仕事してる。

食後にコーヒー（女性陣二人は紅茶）を啜りながらこの後のことについて纏める。

アキ「これから買い物だっけ？」

ユエルン「そうですよ、あまり長くは外に出ない予定でしたか？」

竜斗「一応ね、取りあえずは合成用の素材を買い込むのがメインかな」

アキ「また？エスタでもそれやって大変だったじゃない」

竜斗「そうだけどね、とはいえまだまだ……」

欲しいものは沢山ある。
何分、俺らは装備が全然整っていない。
地力が足りないのもあるが、昨日一昨日の敗戦はそれがかなり大きい。
というか、俺一応前衛で壁の役割もあるのに防具がマント一枚じゃぁなぁ。

竜斗「まぁ、新しい服着られるとか、アクセサリー付けられるとか考えれば楽しいだろ？」

アキ「失礼ね、そう言う見方も出来るけど装備は装備。私だってそれくらい知ってるわよ」

竜斗「さよか、けどま楽しそうじゃないなら意味ないからな」

ユエルン「…………」

また、曖昧なことをって感じの目で見られて肩を竦める。
ユンさはよくわかってんなぁ、俺が。

竜斗「とまれ、沢山休めたんだ。また頑張らないとな」

ユエルン「ええ、そうですね」

アキ「全く、ほんとにしっかりしてよ」

手厳しい限りだなぁ。
ま、俺もこれ以上失敗はしたくないしね。
カップを置いて立ち上がる。

竜斗「んじゃ、出ようか」

アキ「何買うんだっけ？」

ユエルン「確かおにく、ですね」

市場に来て、二人は早速わいわいと始めた。
流石に女の子がこうなるとなんも出来んなー。
こっちはこっちで適当に見よう。
えーと、確か必要なのは……おにくと。
後はおにくと、
んで、おにくと
あとおにく……って、どんだけ肉好きなんだよ。

ユエルン「竜斗さん？」

アキ「ちょっと、リュート。早くこっち来なよ」

竜斗「って、なんぞい」

自分ツッコミしてる間に呼ばれていたらしい。
なんだなんだ、うちにファッションセンスとか聞かれても無理だぞ。

アキ「そんなこと聞かないわよ、はい」

ズシッ

ユエルン「ちょっとの間、お願いします」

ズシンッ

って、うぉ。

竜斗「って、荷物持ちかよ！？」

アキ「うん、少しは役に立ちなよ」

ユエルン「お願いします」

いや、まぁ……いいけどね。
って、俺の分の買い物いつすりゃ良いんだよ。

竜斗「てか、肉ばっかりだなおい」

アキ「しょーがないじゃん、そう言うレシピでしょ？」

竜斗「うん、まぁそうだが」

合成から素材を作るのだが、今回のメイン素材はこのおにくである。
なので、コイツを購入リストの大半を占めるのだ。

ユエルン「とりあえず、竜斗さんの分も纏めて買いますから……何を買いますか」

竜斗「おにくとおにくと」

アキ「ふんふん」

竜斗「おにく、それからおにく。後もう一個おにくがあればなお良いかな？」

アキ「って、どんだけ肉好きなの」

竜斗「いや、うん……それはもうさっき自分で言ったわ」

俺自身そう思うけどさ。
それから、合計で数十ｋｇのおにくを買うことになった。
中々買わないな、普通。
業務用かよ。
ただ、こっそりユンさが酒を買い物の中に忍ばせているのを目撃した。
相変わらず好きだな、この子は。
にしても、さすがにこれは重過ぎる。
さっさと合成して、ちょっと余裕持たせてから行こう。
そうしないと

アキ「ほら、早く持ちなよ。出発遅れるよ」

やっぱり持つの俺かよ……。

ある程度、荷も軽くなり問題なく持ち運べるようになった。
流石に分担して持ってもらってるが。
いや、男だからって無理だよ、無理だって。
無理無理。
鍛えるつもりでとか……。
は、その発想があったか。
いや、でもこんな扱いでいいわけがない！
断固拒否だ！！と言うわけで今は各自重めの荷物を持っております。

ユエルン「暫く道なりですか？」

竜斗「うん、森や山に沿って平原を進もう」

これから向かう道は左が森、
右は山になっている。
その間を道のように平原が続いているのだ。

アキ「結構らくちんね、途中のこの依頼には行かないの？」

竜斗「いや、それはやめよう」

アキさが出したのは巨大ミミズ捕獲依頼の書類。
確かの途中にあるんだけど……まぁ、ここは用心をして。
初めからもってる上に場所が一番遠い
野盗の退治依頼をそろそろ行って見るか、と言うことになっている。
ミミズより野盗の方が怖いだろって言う意見もあるかもだが
まぁ所詮は人である。
ここの生物はかなりの勢いで人を超えてるため、
この場合はミミズの方が脅威と感じたわけだ。

アキ「にしても、このまま良くとスティルフに近くなるね。戻るの？」

竜斗「んー、どうするかね、まだ決めてないや」

今更スティルフ戻っても追加の依頼なさそうだしなぁ。
いや、あるのかもしれないけど……んー。

ユエルン「竜斗さん、竜斗さん！」

竜斗「うぉ？」

ユエルン「向こうから、何か来ます」

ちょっとした丘の向こう。
耳を澄ませばかなり大きな重みのある音が聞こえる。
っても、普通は気付かない程度の音だ。
ユンさのこういう気配探知能力は優秀でいつも助かる。
さて、

竜斗「やりすごせそう？」

ユエルン「いえ、無理でしょう。来ます」

ズンッ

一際大きな音がして、それが丘の向こうから姿を現した。

竜斗「げ、でけぇな。象か？」

ユエルン「……いえ、違いますね。あれはマンモスです」

アキ「マンモスって、もう居ない生き物じゃないの？」

ユエルン「この世界にはいるのでしょう、良くあることです」

こともなげに言うユンさ。
まぁ実際良くあることだが。

竜斗「さて、それじゃどう攻めようか」

ユエルン「見たままの物理攻撃系でしょう、この先のことも考えると」

竜斗「うーん、無理させるね」

ユエルン「いえ、分散は必要です」

そう言って横に並ぶユンさ。
つまり、まぁいつも通りだ。
もう少しすれば俺のワントップでも良いんだが……まだ心もとない。
そして、それが良く分かるのが歯痒い。

竜斗「仕方ない、初めからちょっと狙っていくか。賭けだけど」

ユエルン「何をするんです？」

竜斗「上手く制御できることを祈っててくれよ」

ユエルン「あ、ちょっと……もう！」

刀を抜き、姿勢を低く……地面に倒れるような前傾姿勢のまま突っ込む。
相手も突進してきてるので接敵はすぐだった。
なんだかんだ言って二人ともちゃんと援護してくれてるのは有難い。
向こうの動きが多少緩やかになって計算しやすかった。
５ｍも前、踏み込みを一際大きくし姿勢を無理矢理立て、そのまま跳躍する。

竜斗「いっけ……ぇ」

マンモスの顔面、風巻く刀を叩き付けようとした視界の上端。
巨体の上に何かが見えた。
それは、少女に見えた……しかし

ガクッ．．．グルン

首が、肩が、肘が
ありえない関節の曲がり方をさせ、それはマンモスの上で奇妙な戦闘姿勢を取った。
やべ、リビングドールだ！？

竜斗「く……っそ！！」

マンモスにそのまま放っても少女人形に追撃される。
そしてこれでマンモスの勢いを殺せなければさらにもう１パンチ喰らうことになる。
ならば、と無理矢理標的をマンモスの顔面から少女人形に変える。
無理な姿勢ではなった技は、
人形が身体を捻ることによっていとも簡単に避けられる。
人間では不可能な動きが、動きづらい騎乗状態でも回避行動を容易とさせた。

竜斗「チッ」

技の反動で後退していたのを幸いに、
相対スピードが落ちたマンモスの鼻、牙を足がかりに頭部を駆け上がり跳ねた。

タタタッ

そのまま、少女人形ごとマンモスを飛び越えて着地すると後ろに振り返り叫ぶ。

竜斗「背に変なのが居るぞ！固まってぶつかんな！！左右から攻めろ！！」

ユエルン「！」

アキ「何失敗してんのよもう！？」

声に反応して二人が左右に散る。
街出て行き成りコレとは……

竜斗「ハードなことだな！！」