ENo.3339 刃皇耶　竜斗

竜斗「いやー、大物だったな」

脇でマンモスが伸びている。
少女人形の方はと言うと木に寄りかかって沈黙していた。
形だけとはいえ少女の姿の物を破壊するのはちょっと気が引けたんだが
上手く黙ってくれて助かった。

ユエルン「動かないようですね、何はともあれよかったです」

アキ「全く、初撃はずすからどうなるかと思ったわ。ほんとにだっさいわね」

竜斗「行き成り酷い言われようだ」

いやうん、まぁ確かに突っ込んでった上ではずしたのはどうかと思うけどねー？

竜斗「何はともあれだ、上手く行ってよかったじゃないの」

ユエルン「ええ、行き成りマンモスが出るとは思いませんでした」

竜斗「そだね」

マンモスは結構大物の部類に入る。
いや、俺ら的には大物“だった”、かな？

アキ「ん？じゃあ何ならよかったの？」

竜斗「小象とか、かな」

アキ「小僧？」

竜斗「黙れとか言わないからな？」

ユエルン「そうでなくてもせめて、象がその前に出るかと思っていましたが……」

うん、今言った通りの強さのランクだ。
俺らの中では小象、象、マンモスの順で強さが上がると思っていた。
で、この世界の異変も始まったばかりだから
順当に行けばこの順で凶暴化すると思っていた。

ユエルン「進行、かなり早いみたいですね」

竜斗「どうやら、そのようだね」

異常成長の元凶か……一体なんだろうな。

アキ「そんなこと、今考えていてもしょうがないじゃん」

竜斗「え」

ユエルン「あ……」

アキ「早く行こうよ、いつまでもココに突っ立っててもしょうがないし」

竜斗「あー、うん。そうな」

ユエルン「はい、そうですね」

なんだかな、敵わないなこういうのは。

――その夜

道が平坦だったためかなりの距離を稼ぐことができた。
が、夜も更けたことだしあまりいそうでもしょうがないと言うことで野営することに。
前は本当に孤島だったから、野宿もやむなしだったけど
今はちゃんと人が街を作って生活している大陸だからだろうか。
女の子居るのに野営をさせるのは毎度微妙に気が引ける。

とか言うと、アキさから

アキ『何それ、馬鹿にしてんの？』

とかいわれる始末。
相変わらず、こういう微妙な所の扱いは難しい。
とか言う話をしてたらユンさが

ユエルン『…………』

とか無言の圧力をかけてくるし。
いや、なんなのさ一体……。
ユンさは昔アストローナで長いこと一緒にいたし
そういうの慣れっこだったろ、孤島にもいたし。
そう思っていたのだが

ユエルン『ええ、ええ！そうでしょうとも！』

そうならいいじゃんか……。
よくわからんね、ほんとに。
まぁ、そんな女性陣は今あっちで食材をコネコネしてる最中である。
俺も作ったり出来るんだけどなんか最近はやらせてくれない。
というか、孤島だと俺がメインで作ってたんだけどなぁ。

くるっぽー！

竜斗「ん？」

ひゅんっ．．．

ゴスゥッ！！

竜斗「ぬぉぉぉぉぉぉ！？」

は、ハト！？
ハトが額にぃ！？

竜斗「ふっ、く……ふんぬっ！」

ぶしっ

刺さったくちばしを思いっきり引き抜く。
おい、今素で血が噴き出たぞ。

くるっぽー、くるっぽー！

竜斗「ったくなんだこの、お？」

引き抜いたハトを見ると荷物が付けられている。
どうやら小包運搬用の鳩らしい。
鳥目、とよく言われるが実際夜に目が見えないのは鶏などの一部の鳥で
実際は鳥は夜も目が見える。
さすがに昼ほどは見えないだろうケドね。

まぁ、夜行性の鳥だけが特別ってわけではないのだ。
しかし、鳩は本来昼行性であり夜は寝ている。
梟なんかの夜行性猛禽類に襲われる可能性もあるし
明らかにコイツは頑張りすぎな気がするな。

竜斗「ったく、誰だよお前をこんなにこき使ってるヤツは」

荷を解いてやると首を傾げられる。
まぁ、わかんないよね。
一応、俺宛って前提で見るけど
本当は別の人だったら早く離してやんなきゃいけないしな。
さてさて、と。

『おにーさんへ

ふへへ、あの時はいい膝蹴りだったしさ！

エミーより♪』

竜斗「…………」

ＯＫ、俺宛だった。
俺宛だったが……わけがわからないよ。
ん、後コレは

竜斗「チョコ？」

手紙と一緒についていたのはチョコレートだった。
あん？なんであの子がチョコなんか送りつけ……あー。

竜斗「そっか、バレンタインか」

そういえば、そんな行事もあったなぁ。
俺は甘党なので全然有難いのだが……。
おい、この文だと俺がわざと膝蹴りしたみたいじゃないの。
ちげぇっての。
てか、あの子も態々律儀だね。
まぁ、義理だろうけど……
俺なんかに送らなくてもその労力を他にいるメインターゲットに

ユエルン「どうしたんですか？」

竜斗「Σぬぉぉぉぉぉぉ！？」

がさがさっ！

くるっぽー、くるっぽー！

ばっさばっさ

ユエルン「なんですか？今の鳩は」

竜斗「いや、うん。なんか迷い鳩？見たいな？」

ユエルン「そうですか、で……何慌ててるんですか？」

竜斗「え、ええ？いや慌ててなんか……そういや、さっきの鳩が慌てて突っ込んできてくちばしがぐさーっと」

ユエルン「ふーん？」

な、何で俺こんなに慌ててるん？
てか、勢いで隠しちゃったしな。
すっごい不審の視線が痛いんですが。

ユエルン「コホン……えーと、それよりもですね」

竜斗「は、はい？」

な、なんだ急に改まって。
さっきの続きでこの流れは怖いんだけど……。

ユエルン「……今、お腹はすいてますか？」

竜斗「……はい？」

そりゃ……ご飯前ですし。

竜斗「ええ、まぁ……」

ユエルン「そ、そうですか。それでは、これをどうぞ」

……わー、チョコレートだー。

竜斗「お、おお。ありがと」

ユエルン「…………」

竜斗「…………」

ユエルン「何でそんな微妙な反応なんですか？」

竜斗「えっ」

ユエルン「…………」

竜斗「そんなことないよ？普通普通」

ユエルン「食べたくないなんてことはないですよね？」

竜斗「そ、そうね？」

ユエルン「もしかして、もう何個か貰って今日はもういらない、とかですか？」

竜斗「んなこた、ないぞ？うん、ないない」

実際、いらないなんてことはない。
貰ってるのは確かだけど。

ユエルン「ま、いいです……食い飽きてるとか言ったら酒にしてでも流しこむ」　　ぼそっ

竜斗「あははー、俺チョコ超好きなんだよねー！」

その場で包みを開けて齧りつく。
実際チョコ好きだけど、
こんな甘いって分かってて甘く感じないチョコ初めてな気がするぞ。

ユエルン「……ま、良いでしょう。ご飯出来ましたよ」

竜斗「……ふぁい」

晩飯出来てたんなら、後でよかったんじゃ……。
口の中が凄く甘いです。
焚き火まで行くとアキさが火の番をしていた。

アキ「遅かったね、何してたの？」

竜斗「いや、ちょっと……鳩が」

アキ「鳩？まぁどうでもいいけどさっさとしてよね」

竜斗「はい」

なんだこのやるせない気分。

アキ「あ、そうだ。はい」

竜斗「こ、これは！？」

ちょ、チョコ！？

アキ「何挙動不審になってんの？」

竜斗「いや、別にそんな」

ｏＯ（苛め過ぎたかな）

アキ「ま、いいけど。3/4は私に寄越しなさい？」

竜斗「Σそれ一旦全部上げる意味あるの！？」

ほとんど返してるじゃん。

アキ「あるよ」

竜斗「ほう」

アキ「上げはしてるのでお返しが貰える」

竜斗「Σあざとい！？」

なんか今日一日でチョコ嫌いになりそうだなー俺ー！！