ENo.3339 刃皇耶　竜斗

平原が砂地に変わる。
一部にまだ草は残っているがほぼ砂地だ。

竜斗「ステップ、ってよりも砂漠や砂丘って感じだな、ヤッパリ」

ユエルン「そうですね、砂のキメも細かいですし」

ステップはどっちかって言うと乾燥地帯ってイメージが強い。
草もそれなりに生えてるので余計そう思うのだろう。
中間辺りにそんなところもあるが、基本はサラサラの砂だ。

アキ「わっ」

竜斗「っと、危ないぞ」

砂に足を取られてアキさがバランスを崩す。
肩を支えたので持ち堪えたようだが
あのままだとすっ転んでたな。

アキ「ちょっ、と。何触ってんのよ。馬鹿が移るでしょ馬鹿が！」

竜斗「伝染病扱いとか……」

うつんねぇよ、馬鹿は。
とまぁ酷い扱いを受けたが、砂地は兎に角歩き難い。
ちょっとした傾斜で足が滑ったり、砂の中に嵌ったりする。
なので平地を歩くよりも体力を消耗するのだ。
もちろん、山や森の比ではないのだが。
砂地は砂地で大変なこともある。
それは

アキ「にしても、眩しいわね」

ユエルン「照り返しですね、白い砂なので」

黒っぽい砂地だと光を吸収するんだけど
白だと逆に光を反射する。
そうなると下からライトを当てられたかのような状態になるのだ。
コレでちゃんと日に焼けたりもする。
一番の問題はまぶしさで前がよく見えないってことだ。
目元に手をかざしたり、薄目にしないと目を開けていられない。
視界も悪い中、足元もおぼつかないなど
これからこけますよといってるようなもんだ。

竜斗「ま、ココを抜ければ目的地はもうすぐだ。頑張ろうか」

西側、スティルフ方面に戻るには南にある森を通るか
北側の現在地、平原から砂地へと続く道を抜けるしかない。
今までの通り道が北へ進路を取ってたこともあり、
目的の野盗が出没する地点へ向かうのにはこの砂地を通るのが一番だったのだ。

とはいえ、この砂地はそこまで悪い気候でもない。
脇に山が立っているので迷うことはなく、
反対側は湖になっていてさらに行き先を簡略化させていた。
一本道をまっすぐ進むのと広大な土地をフラフラ進むのとでは
精神的にも肉体的にもその疲労は全く別物だ。
余計な寄り道をしなければしないだけ目的地に早くついて沢山休める。
何しろ今日の目的地は野盗が出没する地点の目と鼻の先。
出来るだけ休んでおきたかったのだ。

竜斗「と、まぁ……そんな簡単にはいかないよな」

そんなこととは関係無しに邪魔者は出てくるわけで。

竜斗「って、あいつは……」

出てきた影は２つ。
１つは見覚えがあった。
赤くて丸い……と言うか、ブヨッとした感じ。
そう、あれは

キラーオクトパス「食わせろ」

竜斗「タコじゃないか」

知らず口の端が上がる。
ついこの間、苦汁を舐めさせられた相手にまた会えた。
全くの同じ個体ではないだろうが、
しかし、ここで気分だけでもお返しをすれば、
多少の溜飲は下げられる。
何せ、こいつらからちょっと負け癖が突いたのは否めない。

竜斗「憂さを晴らすには丁度いい、かなぁ」

ユエルン「まったく、子供じゃないんですから……この程度でカタルシスを得ようとしないで下さいよ」

ため息をつきながらも戦闘準備をするユンさ。
なんだかんだ言いつつもちゃんと付き合ってくれるところは有難い。
まぁ、向こうも逃がす気はなさそうだし結局やるしかないんだけど。
それと、もう１つのほうだけど……なんだあれ？

竜斗「ねこ？」

んー、猫って言うにはなんかこうもっさりと言うかすらっとって言うか。
なんか変なんだよな。
遠目から見るとなんか変な感じがする。
そして、段々と近づいてようやっとその姿が分かる。

うみねこ「我は死を告げる者、うみねこ」

竜斗「……」

ユエルン「……」

アキ「……」

ウミネコに謝れ。
顔だけ猫で下は鳥のなんかよく分からない生物だった。

うみねこ「我は死を告げる者、うみねこ」

二度言ったぞ！？

ユエルン「自己主張が激しいタイプなんですね」

アキ「うざっ」

前タコと一緒に居たのはオオウミネコだったけど。
今回は普通のウミネコ……っていう設定らしい。

うみねこ「貴方の未来は既に定まっている」

あー、これはあれか。

ユエルン「拗らせてしまったタイプですね」

アキ「可哀想……っていうか痛々しいわね」

竜斗「お前ら、さっきから容赦ないなぁ」

まぁ、確かにアレだな。
流行り病を拗らせて痛くなってしまった感はあるが。
と言うかもう既に容姿が痛々しいのだが。

竜斗「どうせだったらウミネコじゃなくって何でキメラとか言わなかったんだろうな？」

ユエルン「あまりにもかけ離れてたからじゃないですかね？」

アキ「無理ありすぎるでしょ」

まぁ、うん。
確かにそうなんだけど。
なんだろう、やるんだったらこうもうちょっと突き抜けた感じを出してほしかった。

竜斗「にしても、そう言う設定ってどうやったら出てくるんだろうな？」

ユエルン「夜中に一人で考えるんでしょうか」

アキ「何言ってんのよ二人とも、決まってんでしょ」

そういうと、アキさが謎の自信を持って断言した。

アキ「ああいうのは電波が降ってくんのよ。そう言うものだわ」

竜斗「……えっ」

ユエルン「……えっ」

なんだ、この反論できない感じ。
しかも、微妙に納得できるから困るな。
勢いだけで押し切った意見だと言うのに。

アキ「ま、そんなことは今どうでもいいし」

竜斗「oh......」

確かにその通り。
向こうさんも既にやる気みたいだし。
前の疲れ切ってたときと違って今回はかなり余裕がある。
剣を抜き、軽く振って感触を確かめる。
……問題ない。

竜斗「そんじゃ、手早く行きますかね」

ジュウゥゥゥゥゥゥ．．．．．．

辺りに香ばしい匂いが広がる。
目の前には焚き火にあぶられた足。
って言うと誤解招きそうだな、タコの触腕だ。

ユエルン「コレはそろそろ良いと思います」

アキ「ん」

ユエルン「はいはい」

素早く手を出したアキさに、ユンさが苦笑を浮かべながら串を手渡す。
タコたちは予想外に弱かった。
いや、まぁ俺たちが大分こっちに慣れたんだろうけど。
それでも前回からは一週間もたってない。
ま、一度どんな攻撃するか分かってる相手ってのはやりやすいけど。

竜斗「ま、順調でよかった」

ユエルン「無事にことが運んで僥倖です」

竜斗「そだね、大分慣れてきた感じか」

串を渡されていない手を振る。
前よりも力が入りやすくなった、ような気がする。
まぁ、そんなに実感として出るわけじゃないから難しいものはある。
けれどもいい兆候だとは思う。

竜斗「後は……」

アキ「まだなんかあんの？」

アキさがめんどくさそーに聞いてくる。
まぁ、訓練だったり装備更新だったり色々してるしな。
確かにその気持ちは分かる。

竜斗「ま、装備みたいな面倒なことはないよ」

アキ「んじゃ、他に何足りないっていうの？」

竜斗「うーん、コレがほんとは一番大事なんだけど」

アキ「？」

竜斗「俺たちの連携だよ」

アキ「あー」

納得した割りにそんなことかー的な反応だったな。
まぁ、実際その程度の認識なんだろうけど。

竜斗「大事なことだよ、少ない能力を補い特徴を生かして戦えば装備が整ってることよりも強くなれる」

アキ「そっかなー？でもそれじゃ何でそっち先にしないの？」

竜斗「うーん……まだまだ日が浅いからな」

アキ「信頼関係とか？そんなこと言ってらんないじゃん」

ユエルン「その辺は難しい所ですしね」

ユンさが助け舟を出してくれた。
連携を取るには実際、相手がどんな特性を持っていてどんな性格でどんな戦い方を好み
どうしたら文句なく動けるか、が大事だ。
つまり、相手のことをほぼ把握してないといけない。

竜斗「それをするにはまだお互いよく知らないからね、相性ってあるし。少しずつ頑張っていこうか」

アキ「まだるっこし」

気の長さに呆れた、といった感じの返答が返ってくる。
思わず苦笑。
ま、アキさのそういう性格も加味して今からなんだけどね。

竜斗「ま、これからちょっとずつね。お互いをもっと知っていこうか」

アキ「…………」

ユエルン「…………」

笑いかける自分。
火が爆ぜる音が返事となって返ってくる。
ま、今はこんくらいで言いかｎ

アキ「なんだろ、今怖気を感じたわ」

ユエルン「竜斗さん、そう言うセクハラ発言はちょっと」

竜斗「ぶち壊し！？俺のちょっといい雰囲気の大事な話ぶち壊し！？」

扱いは相変わらず最底辺だった。
連携、取れるのかな……。