ENo.179 雑草王女

歩行雑草「モッサアアアアアッ！」

　山を越え谷を越え、僕らの街にやって来た。歩行雑草がやって来た。
殺人鬼マッドスマイルに次々と倒される雑草軍団。
果たして雑草王女は生き延びることができるのか！？

　お馴染み雑草軍団が今度は街を巻き込んでの大暴れ！
斬殺！刺殺！絞殺！爆殺！
歩行雑草が次から次に、右から左に死ぬ！死ぬ！死ぬ！

　歩行雑草シリーズ初、市街地を舞台にした異色の最新作。

『雑草王女ＶＳ殺人鬼〜オルゼ街の悪夢〜』

　近日大公開！乞うご期待！
先着順で喋る歩行雑草ストラップがもらえます。
歩行雑草の断末魔が聞ける！

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第１４話『雑草王女ＶＳ殺人鬼〜オルゼ街の悪夢〜』

　当時オルゼの警備に当たっていた自警団の一人は述懐す。

「あれは稀有なケースだった。」

　と。

「セルフォリーフを訪れた救援者らとマッド・スマイルが交戦するケースはままありました。
　その殆どが野外で起こったものでしたが、中には、少ないながらも街の中で交戦に至るケースもあった。
　しかし、そうしたケースの中でも、これは実に特異なのです。」

　彼ははそう言うと、数冊のノートを取り出した。

「物音を聞いた、緑色の化物が大量発生した、家よりも大きな巨人を見た、その他諸々・・・
　細かいものも含めれば証言者は数百人に上ります。
　その中でも私が注目したのは、これらです。」

『凄く、草っぽい香りがしたわ。お店にはいい野菜がなかったでしょ？
　だからあれで余計にお腹が空いちゃって・・・』

「匂いに関する証言というのは、他に無かったです。馬ならではということでしょうね。
　もし翌日にでも彼女の協力を得られたなら、当事者らに面会できていたかもしれません。」

『姐さんは祭りだって言ってたが・・・とてもそんな様子じゃなかったね。どう見てもガチ戦闘だったぜ。
　しかし、俺が言うのも何だが、何とも気味の悪い連中だったよ。溶けて蒸発したりもしてたしな。』

「南方の森で暴れ回っていたアップルさんという種族からの証言です。
　遠目に見聞きしたという証言は多数あったんですが、近くで見たという証言は意外に少なくてね。
　ただ、最も詳細な証言ということなら・・・」

『モッサァ、モッサァって、緑色で筋肉質の歩行植物がたくさん・・・
　マッド・スマイルに倒されても、たくさんたくさん・・・
　建物くらい大きな歩行植物の手の平から湧いて出て来て・・・
　夢じゃないかとも思ったけど、翌日にはその話題で持ち切りで・・・
　こっ、怖かったわけじゃないんだからねッ！！気持ち悪いと思っただけよッ！！』

「年端もゆかぬ少女だからということもあったのでしょうが、
　口では強がってみせたものの、相当怯えていましたね。」

　男は苦笑いしながらそう言った。

「確かに証言者らの言うような不気味な生物が動き回っていたのだとすると、まあ、無理のない事でしょう。
　事実、恐怖に駆られヒステリックに騒ぎ立てる住民が後を絶たなかった。
　だからこそ、我々も調査に当たったのですがね。」

　ノートがぱらぱらとめくられていく。

「確かにマッド・スマイルは脅威に違いありませんでした。
　しかし、そんなことなどどうでもいい程に、街は混乱を極めていたのです。
　あの化物たちの所為でね。」

　ノートの一番後ろのページ。
そこには不気味な化け物姿が描かれている。　

「歩行雑草。
　セルフォリーフではまずお目にかかることがありませんが、
　他の世界ではそこらじゅうに当たり前に居るのだそうです。
　救援者の中には数々の世界を渡り歩いて来た者も少なくなかったですが、
　その中で歩行雑草を見たことがある者はさして驚きはしなかったようです。
　しかし、街の住人らにそのような免疫は無い。
　後でそれはある救援者らの手に因って引き起こされたと判明しますが、あの混乱の後です。
　真実を発表した所で掻き消されてしまう。
　それに、真実がどうあれ不安の色を強めた住人らの声を無視するわけにもいかず、
　警備はより強化されましたよ。
　それからというもの、そこまでの騒動はありませんでしたね。
　何しろ、免疫が付きましたから。
　皆常に不安を抱えてはいるものの、一方で、少々のことでは驚かなくなっていましたよ。」

　当時のことを思い出しでもしているのか、男は暫く目を閉じ、黙った。
やがて、軽く息を吐くと、再び喋り始めた。

「雑草王女。
　救援者らの中では、そこそこに名の知れた存在だったと、後程聞きました。」

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「皆さん！街は危険です！今こそ我々は街を棄て！自然へと回帰すべきなのです！
　昨夜現れた巨人こそ世界の怒りの象徴なのです！」
「見たわー。マジ見たわー。っべーわー。セルフォリーフ終わったわー。」
「街の中で戦争？税金払ってんだからしっかり守れよオラァ！」
「ヒャッハー！やっぱりこれからは暴力が支配する時代だぜ！」
「マッド・スマイルが街の中まで？嫌だ怖いわ・・・」
「そんな危ない怪物がいるのか・・・こりゃ呑気に花見などと言ってられんな。」
「っつうか、ソレぶっちゃけ雑草王女じゃね？」
「え？何？王女？あいつらメスなの？」
「実は王女は幼女とか聞いたことあんだけどマジ？」
「いや、それだけはない。」
「聞いた聞いた。モッサァ？とか？そういうの聞こえたよ。」
「幻術とか？だって、そんな奴らが一晩で皆いなくなっちゃうとか無いでしょ？」
「はいはい、ステマステマ。」
「街は俺たちに何かを隠しているんだ。そうに違いない。これは政府の陰謀なんだよ！」

　マッド・スマイルと交戦した翌日、街は大騒ぎだった。
しかし、当時者らはそんなことなどどこ吹く風、悠々と朝食にありついていた。

みどり「どうも外が騒がしいわね。宿の中で朝食を取って正解だったわ。」

　お　前　が　言　う　な。
そう突っ込まざるを得ない『主犯』の確信犯的な発言。

「この騒ぎも計算の内？ミドリさん？」

みどり「そうね。想定の範囲内よ。」

　野外で自由にマッド・スマイルに動き回られるよりは、街で動きを制限した方が勝算が高い。
その目論見は見事に当たった。
そして、街中に歩行雑草を配置した結果引き起こされる混乱に関しても、予想通りとなった。

みどり「ただ、予定と違った部分もあったわ。」

「何か拙いことでも？」

みどり「こちらの予想よりも遥かに早く、マッド・スマイルが撤退したことよ。強力なトラップを用意していたのに、使わず終いだったわ。」

　緑は彼我戦力差を見誤った点について反省していた。
戦力差を正確に分析できればこそ、最適の戦術が立てられる。
そうした意味では、戦闘に勝ちはしたものの、これは作戦失敗である。

みどり「ちゃんと戦力差の見極めができないと、互角以上の敵には勝てないものね。」

　謙遜するでもなく、ただ冷静に緑はそう考えていた。
毎度のことながら、自分よりも年下、と言うよりは年端もいかぬ少女でありながら、
大人顔負けのストイックさを備える緑に、ライゼは感嘆しつつも、
どういう経緯を経ればこの年齢でこのような境地に至るのかを考えると、やや寒気を覚えた。
と、微妙に張り詰めた空気を破るようにドアが開いた。

えにし「緑、買って来たよ。」

　縁が両手にこんもりとパンを抱えている。

みどり「あら、ありがとう。」

　脇には山積みの皿、パンが入っていたであろうバスケット。
恰も食後の学校給食の食器の如しであるが、これは全て一人の手によるもの。
しかし、これでもまだ飽き足らなかったということ。
置かれたパンはまるで手品のように消えていく。

みどり「さて、出発までに少し眠らせてもらおうかしら・・・縁？何をしてるの？」

えにし「ああ、いや、食器を片付けて・・・」

みどり「それならルームサービスにやらせればいいでしょう。」

えにし「ああ、でも、何だか忙しそうだし・・・（緑がここの食料全部食べちゃったからね・・・）」

みどり「・・・そう。でも、無理はしないで。縁だって夜通し戦ってたんだから。」

えにし「うん、わかってるよ。大丈夫。」

　どこか微笑ましい兄妹のやり取りはライゼの表情を綻ばせた。
こうした時ばかりは、彼らが年相応の少年少女であるのだと実感できる。
普通の、仲睦まじい兄妹の姿だ。
ただ、それに反して、いや、それだからこそなのかもしれない。
妹は兄を生かすために他の犠牲を厭わぬ冷徹な戦術を立て、
兄は妹を守るため鬼神の如き戦い振りを見せる。

　願わくば、この兄妹の真実を世に知らしめたい。
いや、そこまでいかずともせめて、ろくに事情も知らずに彼らを化物扱いをする連中に、それは間違いなのだと伝えたい。
多少そうしたことを考える程度には、ライゼも緑と縁に感情移入するようになっていた。

　それが吉と出るか凶と出るかは、まだ誰も知らない。

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フッサアアアア！

歩行雑草「モッサアアアアアッ！」

　このような対決を、誰が予想しただろうか？

フッサアアアア！

歩行雑草「モッサアアアアアッ！」

　森の覇者は自分だと言わんばかりに、雄叫びを上げるダイナミック羊。
負けじと叫びを返す歩行雑草。

フッサアアアア！

歩行雑草「モッサアアアアアッ！」

　桜舞い散る樹の下で、出会ってはいけない奴らが出会ってしまった！
不倶戴天、血で血を洗う死闘が今ここに！
桜の樹の下に眠ることになるのは果たしてどちらだ？

『雑草王女ＶＳダイナミック羊〜小さな桜の樹の下で〜』

　前夜からブルーシートを敷く等の場所取り行為はご遠慮下さい。