ENo.3492 グランデルド

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ENo.3494 Elisabeth = Aruhnの日記と繋がっています。

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次の獲物だ。なんてことはない。いつもと変わらない。
例えば、それは呼吸をすることのように当たり前で、食事をするように必要なことで。
私は狩人として生まれ、狩人としてその生を全うする。それに疑問を覚えたことはなく、それに抗うこともない。

嗚呼、今日も空は美しいな。

けどそれじゃ満たされない。飛び散る血液だけが私を私へ引き戻してくれる。
そうして私は次の獲物を探す。動物を殺し、人を殺し、国を殺し。
そうして、私はまた一つ私へ近づき、また一つヒトから離れていく。
行き着く先は神か悪魔か。どちらでもいい。どうせなら行けるところまで行ってしまおう。

「グランデルド、お前は天才なのだ。さあ、私を殺せ。私を越えるのだ。」

なんだこれは。あの忌々しい父親の声が聞こえてくる。
私が殺した父親。親殺しなどというくだらない仕来りに縛られた馬鹿らしい一族が私は嫌いだった。
しかしどうだろうか。あっさりと、いつものように獲物を狩るのと同じく、私は父を殺した。
そう、結局の所、私は血に抗うことなどできなかったのだ。
そうして私は抗うことをやめた。それは私の意思であり、私の意志ではなかった。

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「ん……」

目を覚ます。どうやら夢を見ていたようだ。
なんてことはない。何度も見てきた夢。私が父を殺した時の夢。
罪の意識にでも駆られているのだろうか。

「ふん、馬鹿馬鹿しい。」

自分自身を嘲笑うように呟く。言葉は風となり世界へ吸い込まれた。
今まで何度だって人を殺してきた。そこに意味や感情などなかった。
あるのは私だけ。私の意思だけだ。
私はヴァンデルガルデの一族に生まれたことを誇りに思っている。
それならば、命を奪うことに疑問をいだいてはいけない。強きモノが生き残り、弱きモノは死ぬ。

手早く準備をしていく。
この世界に降り立ってまだ日は浅いが、確実にこの世界は私を歓迎してくれている。

「あら、おはよう。もう準備もできてるのね。」

不意に声をかけられ意識が固定されていく。微睡みで実態がなかった世界に色が入くような感覚。
ふわふわとした感覚が名残惜しみながら声のした方向へ顔を向けた。

「君も早いのだな。」
「そうかしら、いつもと変わらないと思うけど。」
「ふむ、そうであったか。」
「ふぅん……ま、何でもいいけど。いつもの貴方らしくないわね。」
「ふふん？面白いことを言うではないか。らしくなかったのは先日の君であろう？」
「はいはい、じゃあ私もすぐ準備しちゃうから、ちょっと待ってて。」

身だしなみを整える彼女を見ながら今のセリフを思い返す。
ふむ、らしくないか。
そういえば、この世界で父の夢を見るのは初めての事だったか――

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「とりあえず街へ戻りましょう。運良くいい素材も採取できたしね。この辺は人が少ないから装備を作ることができないし、食料もそろそろ底をつく。」

今後の方向について彼女が提案したのは街へ戻るというものだった。

「街で食料を装備を調達。その頃には山を越えられるようになってるんじゃないかしら。」

なにも問題はない。この世界について詳しくない私は基本的に彼女に従ってきた。
しかし、はっきりとさせておきたいことがあった。

「一つだけ、聞きたいことがあるのだが」
「――貴方の言いたいことはわかるわ。でも冒険者狩りには反対よ。ただでさえ装備が整ってないから人の力を借りないと行けないのに、変な方向で有名になるのは困るわ。」

私の質問は、言葉にする前に拒否されてしまった。

「それに、冒険者は大事な情報源よ。もし戦いを挑むようなことがあっても、殺してしまうなんてもったいないじゃない。」

そう言ってから、彼女はしまったというような表情をする。

「ふむ、君からその様な言葉を聞くとはな。」

彼女がいつもの不機嫌な顔をする。
しかし、それは私の言葉に反応したのではなさそうだ。むしろ自分にイラついているような表情。

「私には、もう四の五の言っていられる余裕はないの。エルフとして、道を外れると決めたのだから。」

険しい表情をしながら焦るように自分へ言い聞かせる彼女からは、今までの高圧的な気迫は感じなかった。
余裕が無い、か。
深く問いただすことはないが、やはり彼女もこの世界にいるのだ。他人には理解できないような悩みを抱えていてもおかしくはない。
特に興味もない。そもそもこの世界で余裕がある方がおかしいのだ。

「私は自分の目的を達成するためなら手段を選ばないつもりよ。貴方だってそうでしょう？
　今になって綺麗事を並べられても困るし、そんな偽善者な訳ないわよね？」
「君の言いたいことは理解した。そこまで言われてしまったら同意するしかあるまい。」
「……もちろん貴方の目的を無視するつもりはないわ。でも今はその時じゃないだけ。貴方が私に協力してくれるなら、私だって貴方に協力するわ。
　情報が集まってしまえば、貴方の好きなように冒険者狩りでもなんでもやってやろうじゃない。」
「なに、言われなくてもそうするつもりだ。」

そういって彼女はバツが悪そうに目を逸らす。
甘いな。自分で手段を選ばないと言いながらまだ罪悪感を感じているようだ。
間違いない。この娘は強くなる。
私の本能がそう告げる。理屈なんてない直感。彼女からは強くなる未来を感じる。

「さあ、それじゃあ街へ戻りましょう。装備ができたら本格的に山を越える計画を立てるから、タルタスに入るのは最後になるはずよ。これが最終調整になるわね。」
「そういえば、君はタルタスに住んでいたのではないのか？」
「そうだけど、家は空き家を勝手に借りてたし、大事なものも特にないわね。必要なものなんてかばんに収まるだけで十分よ。」
「なかなか男らしい考え方であるな。」
「あら、ありがと。」

彼女は興味がなさそうに呟くと、街のある方向へ歩き出した。
先ほどまであった負の空気はなくなっており、何時もの気丈な彼女へと戻っていた。
私には余裕が無いと呟いた彼女とはもう別人になってしまったようだ。

―――！

強烈な吐き気を覚え咄嗟に口を抑える。
抑えた手をふと見ると血液がべっとりと張り付いていた。それは紛れも無く私の体内から出てきたものだった。
幸いなことに彼女には気付かれていない。そそくさと隠すように手のひらを拭き、何事もなかったかのように歩き出す。

「余裕が無いのは私も同じ、か。」

この身が朽ちる前に。