ENo.179 雑草王女

第１３話『歩行雑草ＶＳ巨大ミミズ』

ミャアアアアアアアアアッ！

　砂漠にけたたましい鳴き声を響かせながらやって来る巨大ミミズ。

みどり「かなり大きいわね。ただ・・・負ける気はしないわ。」

えにし「モッサアアアアアッ！」

　歩行雑草化した縁の手に乗る緑。その前にずらりと並ぶ歩行雑草軍団。
その中に、一人、珍しい顔ぶれ。

「賑やかなのは結構だけど、限度っていうものがあるのよ？」

　ライゼである。
いつもは歩行雑草らの後ろから遠距離攻撃を仕掛ける彼女が前線に出張っている。
しかも、ライゼは先の大妖精との戦いで負ったダメージが癒えていない。
わざわざ手傷を負った者を前線に担ぎ出すなど、正気の沙汰ではない。
常識的に考えればそうだ。
しかし、わざわざそうしてライゼを前線に担ぎ出したのにも訳がある。

「うわあああああッ！！」

　巨大ミミズの雄叫びと共に、次々に産み落とされる何か。
巨大ミミズをそのまま小さくしたような毒蛇たち。
それらがライゼに向かって襲い掛かって来る。
弱っている敵を本能的に嗅ぎ付けるのであろう。
これこそがライゼを前線に配置した狙いであった。

みどり「こちらの回復力からして、負けは１００％無いと言ってもいい。でも、勝つには少々小細工が必要だったわ。」

　ライゼに群がってくる毒蛇の群れ。それを歩行雑草らが護衛するも、完全には食い止めきれない。

みどり「巨大ミミズ本体を落とさない限り勝つことはできない。しかし、巨大ミミズを攻撃しようとすれば、あの毒蛇たちが邪魔になる。毒蛇たちを巨大ミミズから遠ざけるために、ライゼさんには囮になってもらった。」

えにし「モッサアアアアアッ！」

　縁が手近な歩行雑草を掴み上げ、巨大ミミズ目掛けて投げ付けた。
歩行雑草の突き出した拳を通じ、全体重、全速力が巨大ミミズに叩き込まれる。
これも本来であれば毒蛇らに阻まれて巨大ミミズに当たることは無かっただろう。
だが、今や巨大ミミズに攻撃を撃ち込むことは、無人のゴールにシュートを蹴り込むようなものだ。
阻むものが居なければ、自分で外さない限り入る。

　歩行雑草が次々に投げ込まれ、ライゼの方からもぬいぐるみ型爆弾が投げ込まれる。
歩行雑草とぬいぐるみが乱れ飛ぶカオスの中に、遂に巨大ミミズは沈んだ。

みどり「切り札を出すまでも無く終わってしまったのは少々残念だけど・・・まあ、構わないわ。次に同じような敵が出て来たら試すとしましょう。それに、下手をすると木端微塵にしていたかもしれない。捕獲依頼だから原形を留めない状態だとミッション達成とも言えないしね。」

　それまでもそうだったが、巨大ミミズが戦闘不能に陥ってからは更に一方的な殺戮劇の様相を呈してきた。
動かなくなった巨大ミミズを守る毒蛇らの姿は親を守る子のように見えなくも無い。
それが一層、この光景の凄惨さを際立たせるのか。

　最後の毒蛇が死に絶え、戦闘は終了した。
虫の息の巨大ミミズが依頼人によって搬送されて行く様を確認し、依頼料を受け取ると、虹色天幕一行はその場を後にした。

みどり「さあ、次の依頼ね。行きましょう。」

　緑が踵を返したその時、ひらひらと舞うひとひらの花びら。

えにし「この世界にもあるんだね。桜・・・」

　それは緑に過去の記憶を呼び起こさせた。

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　母に殺された兄を歩行雑草として蘇生させてから後、緑は疲労から寝入ってしまった。
初めて能力を使用したこの時は、そもそも能力の使い方も把握できていない。
後先など考えずに必死でありったけの力を注ぎこんだ。
今でも、マナを使用した後は酷い疲労感と眠気に襲われがちだ。
そんな時は、決まって兄の手を寝床にして眠るのだ。
恐らくは、この日の原体験が、その後の緑の習慣を決定づけたのではないか。

「ん・・・」

歩行雑草「モッサアアア・・・」

　目が覚めると、そこには歩行雑草が居た。
緑は歩行雑草の胸の内に抱かれている。
今や歩行雑草化すると６メートルを超える縁だが、この時は精々２メートル。
とはいえ、緑からすれば十分に大きい。
しかし、恐怖も無ければ驚きも無い。
緑にはわかっていた。
これが兄だと。
どうやったかまで詳しくはわからないが、自分が兄を、縁をこのような姿にしたのだと。

　

えにし「モッサアアアア・・・」

「うん。だいじょうぶ。どこもいたくないよ。えにしは？」

　他者にとってみればただの鳴き声でしかないのだが、幻聴ではなく、それは緑の耳に確かに声として伝わっていた。
しかし、緑はまだそのことの異常さに気付いていない。

えにし「モッサアアアア・・・」

「よかった・・・」

　言い掛けて気付く。
確かに縁の命は助かったかもしれない。
だが、このような姿になってしまって生き永らえることが、果たして良いことなのか。
もはや普通に暮らしていくことは無理ではないのか。
そもそも、元に戻ることができるのか。

　死んだと思った兄が生きているという安心とは一転、今度は不安が過ぎる。

えにし「モッサアアアア・・・」

「ううん、みどりはだいじょうぶだから・・・でも、えにしが・・・」

えにし「モッサアアアア・・・」

　風が吹いた。
兄妹の周りが桜吹雪で覆われる。

えにし「モッサアアアア・・・」

「えにし・・・うえっ、えっ、うぇにじいいいい・・・」

　縁は胸の内で咽び泣く緑を、極めて優しく、包み込むように、優しく抱いた。

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「みどりさん？どうしたの？」

　緑の頬を一筋の涙が伝っていることに、ライゼが気付いた。

みどり「気にしないで。ただの花粉症よ。」

　初めて能力を発現させたその時から、身長も体重も変わらない緑だが、
あどけない表情で、舌っ足らずの声でたどたどしく喋っていた緑はもういない。
今ならさらりと悪びれず嘘も吐ける。

「そう、それならいいんだけど・・・」

みどり「ええ、気にしないで。本当に大丈夫よ。さて、街が近くなってきたわね。そろそろだと思うわ。」

えにし「でも、神出鬼没の殺人鬼、なんだよね？」

みどり「そうよ。でも被害者には幾つか共通点があるの。そこからある程度目星を付けることは可能だわ。」

えにし「プロファイリングとか？」

みどり「そうね。とは言っても、私は専門家ではないんだけど・・・まず犯行が起こった場所だけど、凡そオルゼの街付近で起こっているわ。」

　緑が地図上で犯行が起こった場所をチェックし、それらを包括する円を描き示す。
縁の中心部は街より少し上だ。

みどり「街が中心ではなく、街の少し上。そして、被害者は犯行現場に至る前に必ずこの円の中心点を通過しているわ。」

えにし「それって丁度この辺だよね・・・」

みどり「あと犯行時間は日の入りから日の出まで。」

えにし「そろそろ日が沈みそうだね・・・」

みどり「あくまで私の予想だけれど、殺人鬼はこのあたりで獲物を物色して、適当な場所を見計らってから犯行に及ぶんじゃないかしら？」

「なるほど・・・一理あるわね。」

　ライゼが頷く。

みどり「仮説の域を出ないし、確証が持てるとまではいかないのだけれど、他に方法が無いのなら、この付近を洗ってみるということでどうかしら？」

「緑・・・女の勘というのは大したものだな。」

　ＹＫＩＭＲＡが沈む夕日を見ながら言った。

みどり「勘というよりは大雑把な推理だけど・・・どうしたの？」

「あれって、まさか・・・」

　チャチャが夕陽を背にした人影を指差す。
奇妙な仮面をし、血塗られたマントを身に纏っている。
ただ静かに笑いを浮かべている。
噂に聞いた殺人鬼マッドスマイルそのものの風体。

みどり「縁、準備を。打ち合わせ通りやるわよ。」

えにし「うん・・・」

　縁がみるみる歩行雑草へと変化していく・・・

えにし「モッサアアアアアアッ！」

　緑を手に載せた縁が、ライゼが、ＡＫＡＺＯＮＡＥの両名が、一目散に街へと走り去る。

みどり「街に逃げ込んだとしても、人目も憚らず犯行に及ぶ。記録が確かなら追ってくるはず。」

　緑の予想はまたも的中した。

みどり「追って来てくれたわ・・・しかし、速いわね。骨が折れそうだわ。尚のこと街に入って正解ね。」

　緑が引き抜いた髪の毛にふっと息を吹きかけると、髪の毛は空中でみるみる歩行雑草へと変化し、大地に降り立つ。
さしもの殺人鬼マッドスマイルもその醜悪さに面食らったか、一瞬その勢いを弱めた。

みどり「さあ、それじゃ今のうちに仕込みをさせてもらうとしましょう。」

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歩行雑草「モッサアアアアアッ！」

　山を越え谷を越え、僕らの街へやって来た。歩行雑草がやって来た。
殺人鬼マッドスマイルに次々と倒される雑草軍団。
果たして雑草王女は生き延びることができるのか！？

　お馴染み雑草軍団が今度は街を巻き込んでの大暴れ！
斬殺！刺殺！絞殺！爆殺！
歩行雑草が次から次に、右から左に死ぬ！死ぬ！死ぬ！
歩行雑草シリーズ初、市街地を舞台にした異色の最新作。

『雑草王女ＶＳ殺人鬼〜オルゼ街の悪夢〜』

　近日大公開！乞うご期待！
先着順で喋る歩行雑草ストラップがもらえます。
歩行雑草の断末魔が聞ける！