ENo.14 エルミーラ＝E＝イレイナス

コンコン

はっちん「エミー様、紅茶をお持ちしました。」

シーン

はっちん「・・・エミー様？」

ガチャッ

はっちん「エミー様、いらっしゃらないのですか？」

シーン

はっちん「荷物は置いたまま、食器もそのまま、窓も開いていて寒風が吹き込んでいますね。もしや・・・。」

ガチャッ

はっちん「窓の外のバルコニーにいらっしゃるのです？」

？？？「・・・！（びくっ）」

はっちん「・・・？」

？？？「ふ、ふぇ・・・。」

はっちん「こんな寒い場所でいかがなされました？宿で迷子にでもなりましたか？」

？？？「こっ、こわ・・・こわかっ・・・！」

ぎゅっ

はっちん「おっと、いきなり私に抱きつかれても―――。」

ヒュオォォォォ・・・

はっちん「これは、冷気・・・！」

？？？「ひっく、ひっく・・・。」

はっちん「この凍結は一体・・・冷気はあなたから―――。」

どさっ！！

　／
　　おうふッ！
　＼

？？？「ふぇっ！？」

はっちん「背後で物音！？何が・・・！」

エミー「いきなり元の世界に戻ったら着地に失敗して後頭部強打とか・・・！」

？？？「・・・？」

はっちん「エミー様？」

エミー「あー。」

なーんか部屋でくつろいでたら、アンジニティのハネズに突然召喚されて無理矢理に戦わされてさ。

元の世界に戻ってきたら、はっちんと見知らぬ少女が抱き合ってたんですけど！

どーいうことですかこれ！

エミー「えーと、うん、ごめんね。はっちんのラブロマンス邪魔しちゃった系？」

はっちん「状況はわかりませんが、誤解とだけは釈明したいです。」

？？？「ふぇぇ・・・！」

はっちん「迷子ですか？あまり私に抱きついてると誤解されてしまいますよ？」

ぎゅぅぅっ

？？？「にぅ。」

はっちん「・・・困りましたね。」

エミー「あー、いいのよいいのよ。男女間なんてそんなモノだし、エミーはこー見えて口が固いから！」

はっちん「一先ず、お互いに起きた事を一度確認しませんか？」

・・・・・

はっちん「・・・つまり、召喚されてアンジニティで交戦していたと。」

エミー「そーそー。んで、はっちんの話が本当なら、この子はバルコニーに佇んでたってコト？」

はっちん「はい、まだお名前すら伺っていないのですが・・・どうも極度の人見知りのようで、私のスーツをずっと掴んでいますね。」

？？？「・・・ふみ。」

エミー「んと、この子が着てるのって『めこ装束』ってヤツ？」

はっちん「それは『巫女（みこ）装束』ですね。」

エミー「あー、それそれ。」

はっちん「しかし、神聖な巫女さんにしては妖力のようなものを感じました。どちらかといえば、エミー様やアリア様に近い力のような・・・。」

エミー「言われてみれば、ミョーに眼力ある子よね？」

？？？「ふ・・・ぇ？」

エミー「お名前はなんてゆーの？」

？？？「あぅぅ。」

ぎゅぅぅっ

はっちん「おやおや、私に掴まられても困りますよ？さ、お名前くらいはあなたの口からでも言えるでしょう。」

？？？「み・・・。」

エミー「み？」

？？？「・・・みぞれ。」

はっちん「『みぞれ』があなたの名前、そう解釈して宜しいですね？」

みぞれ「・・・（こくこく）」

エミー「みぞれちゃんかー・・・って、『みぞれ』ってどこかで聞いた事あるよーな。」

はっちん「上空が0度よりやや低い温度の時、雨と雪が入り混じって降る雪を『霙（みぞれ）』と呼びます。」

エミー「解説どもども。」

はっちん「・・・みぞれという名前、先程の抱擁時の冷気、もしや・・・みぞれ様は『雪女』でしょうか？」

みぞれ「・・・（こく）」

エミー「んん？でも雪女って、髪も肌も真っ白な人じゃないっけ？」

はっちん「純血の雪女ならそうでしょう。しかし、雪女は伝承でも人間との子を生す事が多く、混血の特殊な力を持つハーフも多いのです。」

エミー「へー。」

はっちん「そして、『みぞれ』というお名前も、雪女でも人間でもない混血を指して名づけられたのかもしれません。」

エミー「そうなの？」

みぞれ「・・・（こくり）」

世の中には色んな種族の子がいるものね！

なーんでこんなに人見知りなのかは知らないけどさ！

はっちん「ところで、みぞれ様はなぜこの宿のバルコニーにいらっしゃったのです？」

みぞれ「・・・・・。」

エミー「間違って別の部屋から迷い込んじゃったとか？」

みぞれ「・・・（ふるふる）」

エミー「んー、迷子ではないのね。」

はっちん「ご自宅の位置はわかりますか？」

みぞれ「ふぇっ！？」

エミー「えっ、何その反応！？帰りたくないの？」

みぞれ「ぇぅ（こくり）」

はっちん「なるほど、今の反応で大方の事態は把握しました。」

エミー「わっからーん！エミーにも教えて！」

はっちん「推測するに、彼女は『忌み子』として扱われてきたのでしょう。」

みぞれ「・・・・・。」

エミー「いみご？」

はっちん「妖怪との間にできた子ともなれば、常人にはない能力を持つ事が多いです。普通とは違う彼女を見て、人間は恐怖したのでしょう。」

エミー「なーんか、よくなさそーな話ね！」

はっちん「そして、彼女が道を外さぬように神聖な宗教施設に入れ、このような巫女服を着せたのでしょうね。同時に、施設は彼女を周囲の人間から守る役割もあったと考えられます。」

エミー「じゃーさっきのみぞれちゃんの反応って？」

はっちん「彼女の住んでいた地域では『妖怪との子』は歓迎されなかったのでしょうね。ゆえに周囲は『忌み子』という烙印を押し、彼女を周囲から隔離した、そんなところでしょう。」

エミー「そっかー・・・だからこんなに人見知りなのねぇ。」

みぞれ「あぅぅ。」

エミーも悪魔だけど、生まれる場所次第ではこーゆー扱いもされてたってコト？

ゾクゾクする・・・じゃなく！やーな感じね！

エミー「どーするの？みぞれちゃん、帰りたくなさそうよ？」

はっちん「そうですね・・・そんな環境で過ごし続ければ、逆に『忌み子』として扱う人間を忌み嫌うようになってしまいます。帰すのも得策ではないでしょう。」

エミー「んー、みぞれちゃんに聞いてみるかね。」

みぞれ「・・・み？」

エミー「エミー達と一緒にくる？それとも帰る？」

みぞれ「・・・ッ！」

はっちん「しかし、突然連れて行くのは・・・。」

エミー「この子を一人で置いてくっての？きっと帰らないよ？」

はっちん「・・・わかりました。みぞれ様、あなたの人生に関わる大きな決断となるでしょう。よく考えてどうするかをお答え下さいね。」

みぞれ「・・・ぅ。」

エミー「まー、いきなりこんな決断迫られたら悩むよにゃー。」

エミーより年齢も低いのかしらん？

見た感じ6〜8歳ってところだし、見ず知らずの他人と話すだけでも怖いんでない？

みぞれ「・・・。」

はっちん「お答えは出ましたか？」

みぞれ「・・・いく。」

エミー「どっちに？」

みぞれ「・・・はっちん。」

はっちん「私？」

エミー「あーあー、エミーじゃなくはっちんご指名だよ。すっかり懐かれた？」

はっちん「道中、大変な事も辛い事もあるかもしれません。それでも、共についてくると誓えますか？」

みぞれ「がんば・・・ぅ。」

はっちん「そこまで言われては仕方ないですね。いいでしょう、一緒に行きましょうか。」

みぞれ「ん♪（こくこくこく）」

妹みたいで可愛いにゃー、みぞれちゃん。

傍から見るとパパと娘って感じ？妬けるねぇ。

・・・パパかぁ、エミーのパパってどこで何してるんだろね。

エミー「ところでさ、はっちん。ハネズが『なんとかチャンネルをフライングたまごかけごはん・クロワッサン美味しい』って伝えてくれって頼まれたけど、意味解る？」

はっちん「ああ、はい。送受信チャンネルをFTG-96830141に合わせればいいのですね、承りました。」

エミー「すげぇ、通じた！」