ENo.934 アルシア=フィアス

――第一回セルフォリーフ総合報告書――
まさしくファンタジーの世界ともいうべき其処は、
魔法が存在ではなく、
科学、その他分野においても、
私達の世界の最高基準を上回った存在が確認された。
異世界というのも多様に満ちていて、
それが一所に集まったが故の結果。
恐ろしさと同時に、
情報等を持ち帰れば、
今後の我が国家にとって有益である事は間違いない。
――ならば、
このセルフォリーフという世界に元来あるもののみではどうだろうか？
文明レベルは残念ながらそう高いという訳ではない。
が、様々な異世界を分割世界として呼び、
全ての世界は元々は一つであり、
分かたれたものであるともとれるような名称をつけた事は興味深く、
この世界に来た者は言語の壁を越え、
意思疎通が容易である事も興味深いともいえる。
元々の世界がそうなるべくして出来ているのか、
それとも、この世界を救いたい何者かの意志が働いてるだけなのか……
――定かではないが、
前者であり、分割世界という概念が、
私達の世界でも通用するのであれば、
私達の世界でも同じような事が出来るのではないかと思われる。
残念ながら私は軍人であり、
専門的な知識や、
論理的な説明も出来ず、
実際の所それが本当に可能なのかは分からないが、
可能性の一つとして視野にいれてもよいと思われる。
しかし、
それによってもたらせる恩恵は必ずあるはずである。
言葉の壁というのは大きい。
それが完全に解消出来る事による利益は不利益を上回るはずである。
後者であるならば、
その何者かの調査をすれば、
同様の結果をもたらせるであろうが、
交渉以外によって成そうとするのは難しいと思われる。
ここで、戦力的な話を記述する。
はっきりいって、
通常の軍隊戦力では、太刀打ちできない可能性が高い。
何故ならば、
火力兵器が無力化、
そうでなくとも大幅に威力を減ずる結果となるからである。
この世界では練度、個々人の能力と意志こそが力となるらしく、
私達の世界の常識は通用しない。
また、そうであるが故に、
この世界が力を持つ者達相手に、
生半可な部隊を送っても瞬時に全滅されかねないと思われる。
少数精鋭という選択肢もないではないだろうが、
この世界でその精鋭の力が役に立つかも疑わしい。
故に、
軍事的な介入は意味を成さない可能性が高く、
手を出さないのが最善であると思われる。
結論として、
この世界で特殊な技術・節理を奪う場合は、
危険性・難易度は高い。
しかし、交渉面においては、
まだ余地はあるという結論をここに報告するものである。
次に、かの世界を危機に陥れる生物について。
いずれも巨大なだけでなく、
特殊な能力をもっている強敵ではあるものの、
先ほどあげたように、
それが絶対な力ではないものとなっている為、
打破は可能。
また、その力を利用する手段は可能ではあるが、
どうして巨大化しているのかが分からない以上、
問題は多いものと思われる。
土地の肥沃(ひよく)さ等が関わっているものと思われるため、
別途土地の土壌、水質等を添付する。
少なくとも、
これによって土地の肥沃化の手助けとなり、
我が国の食料等について恩恵があるはずである。
敵対勢力については、
現在確認されてはいない。
今後も出ない事を祈るばかりである。
……

筆記者：アルシア=フィアス
記入日：２０×〇年〇月△日

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

「……第一回報告書、か。」
内容については十分満足のいくものだった。
送られてきた資材についても、
現行の様々なものと比べ質は高く、
独特のものであった。
それが役に立つかどうかは別として、
異世界という存在、
それがもたらすものは、
研究次第では、
大きく恩恵をもたらし、
自国に有利なものをもたらす事に満足していた。
だが――
「……」
報告書を送られた彼――
少尉殿とよばれる男は天井を眺め続けていた。
和平と同時に、
小国であるが故の劣勢。
闘いとなれば今度は防ぎきれないかもしれない。
彼女を戻したとしても、
今はまだそれ以上の問題がでる。
即物的な成果が欲しい。
悩みは多い。
だが、
解決の糸口も見つけられないようでは、
手の打ちようがない。
誰のせいでもない。
彼女はよくやってくれている。
そして、
自分の地位についても安泰とはいえる。
「……どうするか……」
だが、このままでいいのか、
それとも何か別のアクションを起こすか。
それが今は問題である。
しかし、
ふんぎりがつかない。
特に――
(……国家への反逆となりかねない道が、
一番確実で楽な道だというのだから、
困ったものだ……)
それが、自国の為になるとはいえ、
自国に対する反逆ともいえるのであれば尚更である。
「……」
決断する時間はまだある。
彼は保留した。
――近い将来、決断しなければならない事だとしても――
今は、まだ時期尚早であると信じて――

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

「報告書は届けてくれたかい？」
「ええ、勿論。
　随分な量ね？」
「――ま、一種の総まとめだったからね。
　そりゃあ分量も多くなるさ。
　今までは小さなデータを小まめに送ってたから少なかっただけで。」
「成程ね。
　それにしてもどうしてまた？
　何か必要性でもない限り、
　貴女はそんなもの用意しなかったのではないかしら？」
魅月がアリアに対し、
報告書とその他資材の送付を終えた事を連絡する。
だが、その量はいつもと違って量が多かったため、
魅月が疑問を投げかける。
それを聞くや否や、
アリアは苦笑を浮かべ――
「……そろそろ本国の方が心配でね。
　向こうからの具体的な便りがないって事は、
　そうとう緊迫した状態にあるはずだから……
　動けるようにってね。」
「……あら、それじゃあ――」
「……うちの上官殿は、
　大人しくしてるタマじゃない。
　地位は低くても、
　最大限に生かせる方法を見つけて実行する。
　まぁ、流石にすぐは動けないだろうけどね。
　動く特に報告書は重宝するはずさ。
　彼には気づくように一つ仕込みをしといたからね。」
「……そつがないわね。
　まぁ、それが貴女らしいといえばらしいのだけど……
　実務とかは完全に苦手なのにね。」
「……まぁ、行動予測には慣れてるからね。
　これを狙撃以外で応用しようと思ったのは、
　今回が初めてだけど、
　どうにもあの時の敗戦が響いてねぇ――」
「ああ、成程。
　確かにね。
　――合流も果たして、
　戦闘も無事終えて――
　これからまた挑みに行くのでしょう？
　勝算はあって？
　前回と同じような展開は色々不味いわよ？」
「……分かってるさ。
　だから、準備は十分にしていくよ。
　今回はもう一つ大きな戦いも待っているしね……
　問題があるとすれば、
　宛が完全に外れる事だけれど、
　こればっかりはどうしょうもないしねぇ…」
苦笑するアリアに、
薄らと笑みを浮かべる魅月。
そして――
「確かにね。
　……ねぇ。一つ聞きたいの。
　例え話なのだけど――
　……もし、故国に戻れない、
　そうなったなら、貴女はどうするの？」
一つの問いを投げかける。
意味は特にはない。今は。
けれど、
魅月は知っている。
例え話とはいえど、
それがありえる可能性のある話であると。
だからこそ、アリアは苦笑いを浮かべ――
「答えないとだめかねぇ？」
答える事を拒否しようとする。
が、
それを許す魅月ではない。
「駄目よ？」
アリアからため息がもれる。
こうなってしまっては、
答えるのが一番面倒が少ない。
「……いっそ別の世界に……
　とも思ったんだけどね。
　その時は他国へ放浪しようと思ってるよ。
　特にあんたの国には絶対にいってみようと思ってる？」
「――へぇ？
　どうして？」
「……あんたの国が一番、
　この異世界に近い世界だと思うからさ。
　折角ここでいろんなものを得たんだから、
　もっとも生かせる土地にいってみるのも面白いだろう？」
「……成る程、ね。
　それじゃあ、
　その時は――
　貴女を私が案内するわ。」
「――ありがとう。
　まぁ、ない事を祈るけどね。」
肩をすくめるアリア。
はたしてこれからどうなっていくのか、
幾許の不安を抱えつつ、
アリアのセルフォリーフ探索は続く――