○月　×○月　雨

　──砂地から逃げるようにして地下牢に飛び込んだ私たちだけど。

　その薄暗くじめじめとした不気味な地下牢でも、また絶体絶命なピンチになっちゃった。

　不気味で大きな馬に、恐ろしい合成獣。動く石像の悪魔に囲まれて、どうしたら逃げ出せるかどうかを考えるような状況だったんだ。
　結局、それでも精一杯戦って突破口を開こうとみんなで頑張ったんだけど……。

　その結果、撃退に成功しちゃったのでした！
　えへへ、覚えてるよね？
　すごいよ？　まさかの大逆転だよ！

　レンドランさんが倒れちゃったけど、そうして庇ってもらったおかげで、何とか撃退できちゃったんだ！
　辛くも辛い、辛勝も辛勝だったけど、みんなが諦めなかったから勝てたんだと思う。
　嬉しくて飛び上がっちゃって、まだ地下牢の中なのにはしゃいじゃったよ。

　その後、みんなで揚羽ちゃんの治療を受けて、その不気味な地下牢を少し探索する事にした。

　地下牢って言うくらいだから、誰か捕まっていたりしないかと思ったけれど、そんなこともなかった。
　誰もいないし、なにもない。
　少なくとも、今回安全に調べられる範囲では、これと言った物は見つけられなかった。

　でも、調べてる途中に、ついさっき追い払った石像の悪魔に似てる石像があって、あからさまに帰り道を塞いでたんだ。
　……というか、擬態してるけどどこからどう見ても、さっきのガーゴイルさんだったよ。

　仕返しに意地悪しにきたのかと思って、しばらく様子を見ようとしたんだけど。

　いつの間にか妖精さんとアルラウネさんがちょっかい出しにいってた。

　というかチンピラみたいな絡みかたしてた。
　……アルラウネさん、妖精さんの真似はしないでほしいな。

　そんな妖精さんとアルラウネさんに絡まれたガーゴイルさんは、擬態を解くと困った顔で私の方に逃げてきた。

　……って、なんで私の方にくるのかな！

　目の前にまでやってきたガーゴイルさんに私が困ってると、ハニワさんまで勝手に出てきて、

　さらに勝手にネクターを掲げると踊りだしたの。
　そうしたらハニワさんとガーゴイルさんの頭の上になにか文字が浮かび上がって。

　なんて吹き出しまで現れて、唖然としちゃったよ……。

　なんだかガーゴイルさんまで踊り始めちゃってたし、そこにまた、

　こんな調子で妖精さんとアルラウネさんも混ざって、騒ぎ始めたからもう大変。

　私と天使さんでなんとかおとなしくさせたんだけど、どうやら本当にガーゴイルさんと契約してしまったらしい。
　驚いたし、困ったけど、それはそれ。
　契約するつもりは無かったんだけど、しちゃったなら仕方ないよね。

　そんなガーゴイルさんを連れてみんなと合流すると、どうやら全員ガーゴイルさんと契約してたみたいでした。

　それから地下牢を出て、私と揚羽ちゃんは一度、船に戻ってきました。
　一休みして、これからちょっとメリファンちゃんとお話です。
　たぶん、船の修理が終わった、って話なんだと思うけど……。
　なんだか、私も少し手伝う事になりそうな予感がするなぁ。



【SIDE揚羽】

「……混沌が、消えてない？」

　──ティアと共に、船の修理がおよそ終わったと話を聞いた後。
　
　別に話があるから、と、私だけ残ったのだけど。

「うん、今も消滅せずに残ってる」

　思わず聞き返していた私に、メリファンは、神妙な表情で頷いた。

　この世界に不時着したその日。
　ティアがなけなしの魔力で倒したはずの、混沌の影。
　それがまだ、消滅せずに残っているかもしれない。
　そう、メリファンは言ったのだ。

「本来なら、ティアお姉ちゃんの魔法で消えていたと思う。
　けど、【断片】の魔力を取り込んでいたなら、あの規模の魔法じゃ到底倒せるものじゃないよ」

　悩ましそうに、米神を押さえながら言うメリファン。
　それもそのはずだ。
　混沌の影が【断片】の魔力を取り込んで、その上で消えずに残っているというのなら。
　……それはもはや、影どころでなく、私たちが二年前に私たちが滅ぼした本体にすら、匹敵する力を得ているかもしれないのだから。

　【断片】というのは、いうなれば世界そのものだという。
　どこかの世界から切り離され、零れ落ちた、世界の一部。
　それが【断片】と呼ばれるマジックアイテムだ。

　一部とはいえ、間違いなく世界そのものだった【断片】は、膨大な魔力と、切り離された内容……由来に沿った特殊な能力を有している。
　たとえば、今回混沌の影に魔力を奪われた【銀翼の竜玉】ならば、世界を渡るという、特別な性質を持っている。

　そして、混沌の影は、生物の『負の感情が集まり、魔力を得る事で顕在化する』、純粋な魔力体。
　強い負の感情や、何らかの形で魔力を得る事によって、その存在はより強固な物へと変化していく。

　あの時すでに、【断片】から魔力を得ていたとすれば、今のティアにどうにかできるような存在ではなくなっていたに違いない。
　逃げられていて当然、消滅なんてしているはずがなかった。

「……それで、私に話したって事は、見つかったって事よね？」

　私の問いに、メリファンはぎこちなく頷く。

「気づいてからすぐに探し始めて、昨日、思ったよりも早く見つけることができた」

　そう話すものの、メリファンの表情は浮かない。
　嫌な予感がした。

「……三十機。私が飛ばした探査機三十機のうち、五機が混沌の影を見つけてる。
　そう簡単に見つからないと思っていたから、思わず喜んだよ。
　でも、場所を確認したら、とても喜んでるような場合じゃなかった」

　はぁ、と容姿に似合わない重苦しいため息がこぼれる。

「……五機の内、同じ地点で混沌の影を発見した物は一つもなかった。
　つまり、五機はすべて『ほぼ同時期』に『違う場所』で、混沌の影を見つけた事になる」

　もう、その先は聞かないでも、わかる。
　メリファンに先んじて、私は結論を口にした。

「……混沌は、すでに増殖し始めている」

ちょっとだけ驚いた顔をしたけど、にぱっと笑顔を向ける。

じっと語られる自分のこと、自分の血筋のことを聞いています。
静かに聞いて、時々うなずいて。
気付いたら、目の端から涙をほろほろと流したりしながら。

どんどん変なねこぞくも集まってきた！

笑顔でそう言ってのける。

　クロエはどこから拾ってきたのか不明な言葉を使い、ティアをなだめようとしている。

　クロエはもう昔の出来事のように、懐かしむような感じで話している。

　クロエはちょっとにやけながらティアにそう言い放った。

ヒナカがサイコロを振るのを見て、見よう見まねで振ってみる 3D6 = 9 ( 4 1 4 )