人には皆様々な事情がある。

良い事も悪い事も両方抱えて人生を歩む。
良い事だけ、悪い事だけってのはないが、人によってその比率は様々なんだと…
ここに来る以前に杯を交わした獅子の名を持つ爺さんがそんな事を言っていた。

己の背負った業により運の比率は変わるらしい。
運の悪い奴はその生を受ける以前の行いが相当悪いからだとか何とか。爺さんは酒を
煽りながらそんな事を言った。

「まるで神様のような口ぶりだな。爺さん酔いが回ったか？」

そんな俺の言葉を聞いて爺さんはほくほくと笑い

「ま、似たようなもんじゃなぁ？」

と　オレの質問を煙に巻いてしまった。
だが、狭間の世で何度も出会うんだから普通の人間でない事は確かだ。
飄々としてただの爺に見せかけてはいるが、その裏にある顔は多分只人ではないだろう。

そう、このオレと同じにだ。



メルンテーゼに来て数日が経ち、組んでいる連中にも色んな事情がある事が薄ぼんやり
と見えてくる。
ツンケンしていて頭の回るグレンにも、もの静かに佇む清水にも、いつもにこやかに
振る舞うレクシーダにも…表に出さない顔がある、表に出せない心がある。

基本的にあまり踏み込んではならん領域ではあるが、レクシーダとグレンはどうにも
放ってはおけない匂いがしてならなかった。深く関わる事は出来ずとも、縁がある以上
そのライン内で出来る事だけはしておかねば自分が納得出来んのだろう。

ったく…どうにもオレはお節介でイカンな。

そんな事に思い巡らせつつ新しく契約する事の出来たミニドラゴンのエンブリオを膝に
乗せ、わしゃわしゃと背中と頭を撫でてやる。　
オレの強さを認めてくれたのかミニドラゴンは素直に契約に応じてくれた。
ああ、名前をつけてやらねばならんな。どんな名前が良いだろうか？　
ミニドラゴンを撫でながらぼんやりと考えを巡らせると、頭の中に言葉が浮かぶ。

「ラセツ…　お前の名はラセツだ。よろしく頼むぜ相棒」

その言葉に応えるようにミニドラゴンは一声鳴き、オレにその身を摺り寄せる。
その様を少し離れた所からヒルダが見ていた。

新たなエンブリオにつけた【ラセツ】という名を聞いて一瞬ヒルダの身体が震えたのを
オレは見逃さなかった。
ヒルダにも色々事情があるのは分かっている。
あんな夢をオレに見せる位だからな。それに…多分ヒルダはグレンとも何か関わりを
持っているんじゃないかとみている。

ヒルダがグレンを見る眼差しは普通ではないし、何よりも…
あの夢でオレは見た。
今よりも荒んだ目をしていたグレイナード・F・ノイエンという槍使いの男を。


そして今まで何の縁もなかったレクシーダの口から出た【全ての過去がある島】という言葉。




「縁は共通するモノを持った者の間に紡がれる。そしてその繋がりによって生まれる縁は
　良い目に転ぶ事もあれば悪い目に転がる事もあるでな…」

獅子の名を持つ爺さん、アルシンハが初めて会った時にオレに言った言葉を思い出した。

「どっちに転ぶのか選ぶのは人間じゃよ。
　その心が強ければ、そして真に己に必要であるモノを選びつかみ取った時は良き方向
　へと向う事が出来る」

今思うと、あれはまるで子か弟子を送り出すような雰囲気だったな。
そういやあの爺さんとは何か縁があるのかも知れんのだが…よくわからんなぁ。
ただの通りすがりという気が…しない。

まあいい、今の流れが縁によって結ばれたというならどう流れていくのか見るのも一興だ。