カチリと、ある瞬間の時計の針の動きがふと耳に付いた。
目を向けた先にある壁掛け時計に刻まれた時刻は、午前十一時頃。

（……そろそろお昼の用意をしよう）

いつもなら、それだけの時間。



———何かを忘れている気がする———



ふと、何も中身のない疑念を抱く。
”何か”なんて思いだすものでも無いし、
そもそもこんなちょっとした思いつきのようなことに時間をとられていれば準備が遅れてしまう。

「……考え込んでる場合じゃないよね。急がないと。」

口に出して、思考を切り替える。

昼はちょうど厨房に居たリセナちゃんに少し手伝って貰い、結局少し早いぐらいに料理も完成した。


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夜半、個人的に書き溜めている日誌を手に取る。


別に、何か調査した事や秘密を書き込むわけでもない。
今日もただリセナに手伝って貰った事を書いているだけである。

「……………」

カリカリ　カリカリ

そういえば、厨房に鰻が置いてあったりした。
おかげで一品増やせたのはちょっとした幸せだった。

それを思い出すと、文脈も特に考えずに書き込んでいく。


（……？）


そこで、ぱたりと手が止まる。

「……午後4時から6時……」

いわゆる、リレッタにとっての自由時間。
この日は、誰と約束している時間でもなく何をするわけでもない時間。

だから、何をしていても問題は無いのだけれど。

（私は、何をしていた……？）

内容を一切覚えていないというのも、どこか変な話だった。

（———厨房から、移動して……）

確か、部屋に戻ろうとしていたはずだ。廊下に移動して、それから……

階段を、昇って

　　　　　　　　吹き抜けで、

「—————」

そこから、まるで途切れるように記憶が無い。そこまでは、思い出せるのに。
次に思い出せたのは、また階段を下りたところから。

日誌を巻き戻すように捲っていく。
気付けば、一日一日を繰り返すように書き込まれた日誌には
時折『抜けている』と感じる空白の時間に関する記述があった。
何故、急にその”空白の時間”のことが気になったかは不明だし、
実際誰かに聞いたところで今までソレについて声をかけられていないということは別段変わった事もなかったのだろう。


ただ、この時だけは






なんとなく、気になっていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　ひょい
　


　　　　　　　　　　　　　　　　　　＆
　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぱく

はぁ、と溜息をついて汗を拭う。

相手の表情が笑顔になる。よかった。美味しい、が伝わったと安堵……する間もなく。
両手を広げ相手に抱きしめられれば、少しばかり驚いたようなへんな声をあげつつ、フォーク、ナイフを持っていた手を慌てて後ろに向けた。間違っても、相手を傷つけたりせぬように。

慌てた様子で声を荒げ。ナイフとフォークの存在を相手に訴えてはみるが。
うーんと何か悩むように首を捻った後、指を指す、ないし視線で訴えるホットケーキ。
まだバターが溶ける程度には温かいであろうそれを示し。

椅子に腰掛け足をパタパタと揺らす
その間テキパキ右往左往動き回るリレッタのことをジッと見つめる



一通り作業が終わったのか
シルマリィの向かいに座る

聞き慣れなかった単語を聞いたらしく首を傾げて問いに対して問いを返す

　クロエは興味津々といった感じのようだ。

どうやらチャチャカはリレッタ本人が人斬りとして手配されていることはまだ知らないようだ

突然頭を撫でられ、苺香は驚いた様子を見せた。

拒否するような言葉は漏らすも、拒絶するような様子は見られない。
ぶすっとした顔をしながら、しかしされるがまま撫でられている。

話を逸らすように訪ねてみるのだった。

マァムブのテラスに煙草ケースを伴って姿を見せた男は、
ベンチ手前で一度、先客の姿に足を止めた。

軽く顎を撫ぜやった後、歩みを再開する。片手で押えた懐には、
銀製のジッポの形を確認できたが、少し間をおいてから、
ベンチに座る相手に空手で有る事を示すようにひらひらと手を振って見せる。

ゆっくりと歩を進めるが、赤いジッポライターを
手で受け取りはせずに、直接顔を近づけた。

三白眼が確認を挟むような上目遣いで女の顔を見やる。
咥えた新しい煙草から細い煙が登りはじめるあたりで、
一度視線をそちらへ落としてから、ゆっくりと折っていた上半身を戻す
。

ベンチには腰を下ろさずに、立ったまま相手を見下ろすようにして、
一言、端的に質問が飛ばされた。

煙草の匂い。
グレイマンかと思ったけれど、違うようだ。

通りすがって、一言。

そんな問いを投げかける。

黙々と食べている。　　好きでも嫌いでも無いらしい。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。

薄く血の付いた包丁を振り払う。

二つの手で象られた猫箱がゆっくりと開かれ、
その下から運命の行く末を定める標が姿を現す

皮膚を突き破る羽根の痛みか、異物感か、
それとも体がつくりかわることへの焦燥…強くなる事への高揚感。
目の前の小柄な男は自らの体を抱くようにして、叫んでいた。

重なり合ったふたつの鳥の影から、大きな鳥が。

そして、ひとまわり小さな鳥が。

開かれたコインの裏。
つい舌打ちが、漏れた。

十三の瞳が、目覚める。
放つ金色の光は旧き黄金郷の記憶だろうか。
運命の糸に絡め取られた者達の刻が、今、動き始める。

それは他の者達と同様に、女の体へも変革をもたらす。

絲間之は酒瓶を取り出し、それがマイクであるかのように構え

そう叫ぶと、踊りながら歌い始めた！