□ Day 8 ： きみは何をしにここにいるの？

　アタシはひび割れた土が目立つ砂地を、ただただひたすらに走っていた。

　頭の中でさっきハナちゃんに言われたことが響いている。
　努力しろって言われたって、一揆はもちろん、人捜しも初めてだし何したらいーのかわかんないよ……
　タケノコはあんなに荷車に積んじゃったのをみると、どーしても捌かないといけないなって思ってきちゃって。
　——そう、まるで一揆で人が集まってるから、タケノコも売れるだろう。まさしくそんな考えだった。

　ハナちゃんは数日前にこんなことを言っていた。
　アタシはこれを、新王のネクター独占をやめさせることで、我が家にネクターが戻ってくる。
　するとその分契約できるエンブリオが増えるから、農業の手伝い用にあの子たちをいっぱい雇える。
　そうして我が家の農業を復活させよー、とゆー意図で言ったと思ってる。
　
　それでも、今考えたことはすぐキルマ家に貢献できるかと言えばそーでもない。
　だからアタシはタケノコをアピールして売って、そのお金を家に届けよう、って考えになったんだと思う。
　まー、実際は一つも売れてないんだけどね。
　……もっとも、今のメルンテーゼでこんなただの野菜にPS出してくれそーな人なんていなさそーだし、
　食料に金使うならいい武器を作ってくれる人に払ったほうがいい、って考えの人が多い印象かな。

　道中ずっとタケノコタケノコ言いながら歩いてたら、そりゃタケノコ売るのが目的だって勘違いされるよね。
　だからといってタケノコを長期間運ぶわけにはいかないし、家にお金を送れないのもそれはそれで申し訳ない。
　興味を持ってくれた人にだけ交渉する、って形にしてみよーかなー？

　そんなことを言いつつまだ走り続ける。目をギュッと瞑ると、瞼の裏に弟の顔が浮かんできた。
　目を開けてすぐ弟を探す、という使命について考える。

　カツマ・キルマ。アタシの弟。歳は二つ下の14歳。姉弟揃って父さんから髪の色、母さんから瞳の色を受け継いだ。
　短く切った髪に、かなり悪くて鋭い目つき。外で遊ぶのが好きだから、いつも肌は日に焼けている。
　頭がまあよくって、歳のくせに妙に物分かりがいい、って近所のおばちゃんによく言われる子。
　アタシの言う事はそれなりに聞くけど、いつも何かを諦めてるよーな冷たい視線を送ってくる。
　そんでもって、メルンテーゼ生まれメルンテーゼ育ちなのに、何故かエンブリオと契約することを頑なに拒む、変わった子。
　アタシから見た印象はあまり良くないけど、弟として、家族として、遊び相手として、とても大好き。今でも大好き。

　そんなあいつが姿を消したのは、つい最近のこと。
　父さんから薪を取ってきてほしいって言われてたのに、お腹が空くぐらい待っても、眠くなるくらい待っても、ちっとも帰ってこなかった。
　次の日慌てて隣近所の人に知らせて村中を探しまわったけど、結局カツマは見つからなかった。
　一揆に参加すると決めた日、父さんが泣きそうな顔で探すよう頼んできたこと、今でも覚えてる。

　カツマが家出しそうな原因は、アタシも父さんも母さんも検討が付かなかった。
　毎日農業の手伝いをしてくれるし、ご飯は毎日残さず食べるし、多少喧嘩することはあっても翌日には謝ってる。
　母さんはちょっと悪ぶってみたくなったんじゃないの、と笑っていたけど、それにしては妙に長い間家を離れてるわけだし
　軽い気持ちでやったものじゃないな、とアタシは睨んでる。
　——ともあれ、アイツの動向が掴めにくい状態だから、知り合った人に聞き込みするしかないなー。

　で、もう一つの使命。新王の独占を阻止すること。でも、

　つぶやくと同時に走りを止める。来た道を振り返る。
　ハナちゃんも、スタウロも、荷車も、見えなくなっていた。
　……戻らなきゃ。掌で頬を叩いてから、元いた場所へ戻ろうと歩き始めた。

　けど、その間奇妙なことが起きた。
　行きも帰りも、強い日差しの中を進んでいた、はずだった。なのにアタシは、

　汗を一つもかいていない。

　小さい頃友達と故郷の山に登ったときも同じことがあったけど、それはたまたまだと思ってた。
　でも今回は砂地。土に含まれた水分は蒸発して、そのせいで地面にひびが入っている。

　どうして。気持ち悪い。
　そー思うとゾクゾクと、脂汗をかいたような気がした。そっと背中を触ってみたけど、やっぱり汗はかいていない。

　帰りの道のりは、決していい気分で歩けるようなものではなかった。

そういうくすちゃん自身も、自分の胴体くらいの太さの立派なタケノコをかるがると担いでいる。

マツは足でぐりぐりされている

返事がない　地面にめり込んでいる

[>アク抜きをちゃんとしていなかったようだ。

警戒するように鳴いている。

警戒しすぎて魔物化したようだ。

とっさに飛んで逃げてしまった。

様子をうかがっていたが、身構えられたので驚いたようだ。

驚いてうっかり魔物化した。

（……怖イ）