SummerVacation -夜の部-（Halshuggning -3-）


海岸の岩場に立ち、海を見下ろす。
久しぶりに、陽に晒された肌に冷えた潮風が気持ち良い。
フリント領のアフターヌーンパレードに参加した後、クロマ・セロシアと言う店に連れられて、ドレスを着せられた。
その後は、北方刑吏組合の少女—僕の遠縁でもある—に色々と連れ回される羽目になってしまった。


密度の濃い一日だった。
その熱を冷ますために今、こうして一人海を見下ろしている。
規則的に響く波の音が、心地よい。
初めて見たが、夜の海というもは嫌いではない。
暗く果てしなく広がっている。
このまま落ちてしまえば、僕の全てを飲み込んでくれるのだろう。
何もかも全てを。


風に揺らされたドレスの裾を押さえる。
こんな、可愛らしい少女が身に纏うようなドレスを着たのは生まれて初めてだ。
イマイチ、慣れないし。
多分、もう、二度と着ることも無いだろう。
それでも、汚してしまうのは忍びない。
早く帰って着替えることにしよう。
その時、背後から声が聞こえた。


振り返ったそこには、一人の男が居た。
グリゴリ・ドミトリエヴィチ・ラージン。
最悪だ。
よりにもよって、この男に、こんな姿を見られるなんて。
逃げるようにして横をすり抜けようとしたところで、腕を掴まれた。


激高。
問い詰めるような声。
乱暴に手を引かれる。


いつものように、地面を見つめ聞き流し、やり過ごそうとした。
親友。
その一言に、不覚にも体が小さく反応してしまう。
胸がチクリと痛む。
ゆっくりと顔を上げると、グリゴリは笑っていた。
夜の海岸にグリゴリの笑い声が響く。


気づいた時には、僕は海に落とされていた。


遠い月が泡に揺れる。
海に包み込まれ、沈んでいく。
生まれてくる前も、こんな感じだったのだろうか。
そうだったのならば、何も問題はない。
元に戻るだけだ。
私の全てが飲み込まれて、無に帰るだけ。
ただ、それだけのこと。
……ドレス、汚しちゃったな。


目が覚めると、そこは砂浜だった。
傍らには、心配そうに僕を見下ろす人形。
クリスティーナ、だ。

「……クリスが、引き上げたの？」

呟くような問いかけに、小さく首を振ってクリスが答える。

「私じゃ流石にね、助けを探して……通りすがりのガリバルディアが助けてくれたのよ！クールに去っていったわ！」

ガリバルディア……といえば、思いつくのは一人しか居ない。
背の高い、浅黒い肌をした男。
余計なことを、とは口にしないでおく。

「クリスちゃん。グリちゃんに、本当の事を……。ううん、早く帰ってお風呂に入りましょう？濡れたままじゃ、風邪を引いちゃうわ」

何かを言いかけてやめる、クリス。
その先を続けても、僕が頷くことはないと言う事を分かっているのだろう。
促されるままに、立ち上がり、歩き始める。

「ねぇクリスちゃん、約束、忘れないでね？」

潮風が濡れたドレスを纏った肌の、温度を奪っていった。

(今回の日記は ENo.44　グリゴリ・ドミトリエヴィチ・ラージンの日記とリンクしています)

頭をなでやすいように頭を垂れる。
はにかむような、照れるような、若干の落ち着かなさ。
同世代、多少年上、であろう男性（だと思い込んでいる人物）に撫でられるというあまり経験のない事のせいもあり。
そして、あまり、柔らかな笑いを浮かべない相手が、自分のやった事によって、そんな表情を浮かべているとなれば、余計に。

……普段から、格好いいなあ、と思っている人ならば余計だ。
そんな事、決して口には出さないけれど。そもそも出してもわからないけれど。

つい先ほども言った言葉を繰り返す。
両手を前に出して、何やらストップ！といった仕草を。
慌てふためいた様子で鞄を手元に引き寄せれば、ペンケースと、メモ帳と、を取り出し。

1＝いち　2＝に　3＝さん　4＝よん　5＝ご
そんな風に数字にフリガナを。
クリスの言葉の通り、書き進めていく事だろう。

すっ、と指をさす

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そう言って立ち上がると、少女を追ってきた女に向き直り、問いかける

肩ごしに振り向きながら少女に言葉を掛ける

森と縁がないことになにかしらの興味を示す

まとまった考えがまた少し頭の中で複雑になり始め混乱した様子

納得はいっていないようだが渋々頷いた

—覚醒の後日—

〜ギルドホーム・吹き抜けのある通路〜

部屋に続く通路から分かれた先、普段嗅ぎ慣れない匂いに目を向けると、
リレッタが煙草をすってぼんやりと空を眺めていた。

時折、長く吐く煙はふわりと甘い香りをして付近に漂い、やがて空へと吸い込まれていく。

彼女はこちらには気が付いていないようで、携帯灰皿か何かを出して火を揉み消すと
またもう一本、懐から出して吸い始めた。


——貴女は直接話しかけてもいいし、また後日厨房にいるときのリレッタに問いてもいい。

　　　　　　　背の低い人形が挨拶していった。
　　　　　　　あっけにとられてごきげんようと返して……自分のふわりとした衣の後ろに回られれば、ははぁ、と納得した。
　　　　　　　よく似た容貌の女を見れば、なにかもうほほえましくなってしまう。
　　　　　　　しかしそこは神妙な顔をして、

　　　　　　　と、そこでとたんに相好を崩した。

ガスン (※カバン蹴る音)

隠されることのない怒りに彩られ、金の虹彩を帯びた青い瞳が真っすぐにクリストファーを見据えている。

そこまで言って、下唇を噛み締める。その先の言葉は飲み込まれたまま。

本来の目的も忘れないようにしないとな、と小声で付け足す

声をかけてきた少女に向かい挨拶を返すと、話しやすいようにその場に屈んだ

人形ということに気づいていないのか興味深そうにその容姿を眺める
一揆のことについて聞かれれば少し考えてから、小さく頷いた

と訪ねたところで、宙に浮いた少女の行先を見送れば、
そこには眼鏡をかけた少年（のように見える）が自分を見下ろしていた

　お人形君はどこか納得いかなさそうなそぶり。それはわかる。この人たち、普通に話しているけれど何か不思議な……何か、普通じゃない気がする。
　こんな言い方をしたら失礼だけど、関わっちゃいけないような。

　お人形君が無邪気に声を張り上げている。
　　不信が滲んでしまわないように、気づかれないように距離を取って、私は微かに微笑んだ。警戒が彼らに気づかれないだろうか？　私にはわからなかった。

一歩引く様に呆れたように半眼を送り溜息ひとつ。

幾分皮肉気に尋ねやって、ばかばかしいと言いたげに、
ごつりと顎の横に拳をあてた。

話す間に払われた分だけ、煙は吐き出される。

そう口にしてから、理解できないように、修道士服の男は薄く目を細めた。

『動く人形を見かけませんでしたか？』。そう声をかけてきたのは女性…否、男性だろうか？
整った服装と、印象的なメガネにいかにも生真面目そうな印象を受ける。

彼（？）の問いかけに、咄嗟に今さっき背後にまわりこんだ人形を見下ろした。
人形と少し目が合うのを確認して、ユリアは悪戯ぽく微笑む。

少しわざとらしく、はぐらかすように笑う青年の足元では、
赤い頭巾のエンブリオが、『ここは自分の場所だ』とでも言いたげな目でじっと人形を見つめている。

へえ、みたいな様子で。

メープルは突然話しかけられそちらを見たが、人影など見当たらない。
声の主が「御機嫌よう」と言い終わるとほぼ同時に、その小さな存在に気付いた。

しゃがんでぺこりと頭を下げて、言った。

人形がつまみあげられた先を見て、立ち上がった。

りんごを落とさずに居られた竜は、
言葉の意味を正確に解したとは評しがたいが、取りあえず誇らしそうではあった。

ふんふんとまた一度匂いを嗅いでから、思い出したように言葉をなぞる。

しばらくの空白。
思い出そうとしているのか、考えているのか。
傍から見ればぼーっとしているようにしかみえない。
たっぷり一呼吸、二呼吸の間を浪費する。

言葉を落として、ぐるると鳴いて。
竜は落とさずに済んだ方のりんごを、爪のある翼でつかみとってぱきんと割った。

そのまま半分を差し出してくる。
口腔で咥えこんだ割、その表面に曇りは見られなかった。

そう言うと金髪の少女は地面に座り話を続ける

そう言って優しい手つきで貴方の頭を撫ぜた

荷物の中から自分のCDを取り出してきて、すかさず営業をかけはじめた

驚いてまじまじと二人を見つめる
いろいろ聞きたいことはあったが、いきなり質問攻めはよくないと思い、当たり障りのない話題をふる

ふと足元をみやれば、青い髪の綺麗な人形がひとつ。いや、一人と呼んだほうがいいのだろうか。カタリナに話しかけるように届いた声は、どうやらこの人形がしゃべっているようだ。

行儀のいい礼につられて、カタリナもまたスカートの裾をつまみ、礼を返す。

お人形の世界でもいろいろと大変なのかしら、とカタリナが首を傾げていると、すらりとした眼鏡の女性が現れてカタリナの話し相手をひょいと抱き上げる。

現れたエルフの女性にもまた、スカートの裾をつまみ、先ほど覚えたばかりのお辞儀をしてみせた。

小さな来訪者の突然の行動に、ミハイユは首をかしげる。

遅れてやってきた相手の姿を見て、状況は何とか理解する。
……が、どちらの味方をするべきかまでは頭の処理が追いつかなかったらしい。
悲しいことに、後方にちらちらと視線を移しながらの狼狽が、受けた質問に対する答えになっていた。

突如、トガノは大笑いを始めた。

笑いが止まらない、といった様子で腹を抱えている。
少し呼吸と姿勢を整え、再び口を開き始めた。

どうやら自分に正当性があることを強調したいようだ。
…反応を待たぬまま、話を続ける。

普段のそれとは比べ物にならないほど強烈な威圧感を放っている…。
そのまま様子を伺いつつ、更に話を続けようとしたが。
唐突にクリスの方へと目線をやり、相手がよく見えるように屈んでみせた。
その姿からは、先程の威圧感は嘘のように消え失せている。

差し出された手に掴まり、ゆっくりたちあがる。
顔が赤いのは、鼻を打ち付けたせいだけではないだろう。

土と落ち葉のくっついたワンピースをパタパタとはらい、は〜っと大きく一呼吸してなんとか照れを引っ込め、ぺこりとお辞儀をする。

すまぬ主、止められなんだ・・・と無表情でしょんぼりと呟くゴレムに、
ハニさんのせいじゃあないわ、と言って苦笑する。
その後ろでは、人形に背中に飛び乗られたケット・シーが、毛を逆立ててにゃうにゃう文句を言っている。

ちょこんとお辞儀した人形を見て。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。