SummerVacation -昼の部-（tie cadaie -3-）

「以上が計画の全てだ」

宿の中にある、薄暗い一室。
目の前に座る赤い毛並みの男——ヘクター・ブレイズバースはそう言うと、テーブルの上、幾重にも折り重なった紙を指先でトン、と叩いた。

「必要な物は全てこちらで用意する」

その言葉に、テーブルの上へと落としていた目線をあげ、小さく頷きを返す。
一枚、空白の部分を破り、手早く書き込みをして返す。

「しかし、まさかそちらから名乗り出てくるとは思わなかったが……協力感謝しよう」

椅子を引く音。
話すことは、もう無いようだ。

「それでは、決行当日に」

入室してから、表情を一切崩さずに彼は部屋を去る。
そう言えば、まだ彼の笑顔というものを見たことが無いような気がする。
手早くテーブルの上の書類を纏め、僕も部屋を出ることにしよう。


これからやるべき事がある。
何人か、誘いに乗りそうなものに声をかけてみよう。
もちろん、あの男には気取られないように。


■


日差しが眩しい。
波の打ち寄せる音と共に軽快な音楽、そしてシャンパンの泡が弾ける音。
フリント領主催のアフタヌーンパレード。
盛り上がりは上々のようだ。


暑い。
眩しい。
人の群れは嫌いだ。
慣れない砂に脚を取られる。
既に、一度グラスを落としてしまった。


そんな苦難を味わいながら、何故ボランティアとして働いているのか。
それには理由がある。
人混みに紛れていたほうが都合がいいこともあるのだ。


最初の接触は中央から。
大柄な隻眼、そして隻腕の男。
残念ながら情報は何も得られなかったようだ。

「リセナ・D・ルーモに関して、情報は何も得られなかった。得られなかった、そのことに意味があることもある」

短くそう言い残して、去っていった。
どうやら少し、視点を変えて当たってみる必要が有るようだ。


次に接触してきたのは西方。
こんな糞暑いのに、高価そうなスーツをきっちりと着込んだメガネの男だ。

「リレッタ・ベルフォード。集合自治村ヴォレア出身の孤児、ですね。もう少し時間をもらえれば、何か出てくるかもしれませんし、出てこないかもしれません」

「もう一人の、ペドロ・ドメネク・イ・ジュジョール。すぐに出てきましたよ。傷害罪で過去に投獄されていました。詳細は文書にまとめていますが……まあ、重々お気を付け下さい」

挨拶もそこそこに、忙しそうに立ち去っていく。
どうやら、ここは当たりだったようだ。


三人目は黒衣の男。
頭を丸めあげ、何枚もの衣に身を包んでいる、東方から来た男。
情報無し、とだけ告げ、シャンパンの注がれたグラスを二つほど持って行った。
ここは完全に空振りのようだ。


次に来るは、北方。つまり僕の実家から。
どこで入手したのか、僕と全く同じセーラー服を着た少女。
サイズは全然違うけれど。

「お姉様ーっ！レグルス＝レグルスの情報をお持ちしましたー！」

勢い良く腰に飛びついてきた。
グラスの割れる音と鈍い骨の音。

「狩人ということで、以前から街の方に獲物を売りに来てたみたいですね。一年前にちょっとした事件を起こしたそうで、それ以降は姿を見せなくなったようですが。所属していた集落について特定できたので、そのうち接触してみますね。それと、お姉様の近況の方の報告がほしいって組合長が言ってましたよー？」

そんな風に早口でまくし立て、嵐のように去っていった。


最後は南方より。
何故か水着を着て小麦色で豊満な体を晒し、何故かその長い艶やかな黒髪を水に濡らしていた。

「ウィミノイウェーブの人畜として記録が残っていたわ。値段は、892PS。まあ平均ってところ？犬のモノマネは人畜の頃からしていたみたいね。大した情報は無いけど、このくらいかな。でもまあ……次に会うときには面白い話ができるんじゃないかな？お楽しみに」

肩をぽん、と叩いてパレードの中に紛れ込んでいく。
面白い話、などと思わせぶりなことを言っていたが……何か掴んだのだろうか？あの犬のふりをした人間のしっぽを。


もっともその後彼女にその話を聞くことも、二度と会うことすらもできなくなってしまったのだが。


■


少し陽が傾いてきた。
パレードももう終盤が近づいているようだ。
そこでようやく、同行者に声をかける事にする。
金色の巻き毛、淡い褐色の瞳をした美しい少年。
スタッフとして参加しているため、今日はセーラー服に身を包んでいる。

「カミユ、これ飲みませんか？」

微細な泡を走らせる琥珀色の液体が注がれたグラスを、半ば押し付けるように手渡す。

「フリント領の領主様がわざわざ用意してくださったものなのですから、残すのは失礼でしょう？」

小さく笑みを向け、もう一つのグラスの中身を飲み干す。
清涼感を持ったその液体は、太陽と情報で火照った頭を冷やしてくれる、そんな気がした。

クリストファーとクリスティーナを見比べて、眉を寄せる。

あわてておわびのことばをボードに書きました。

すこしふしぎそうにおねえさんとにんぎょうをかわるがわるみつめていましたが、

そういうぐうぜんもあるのかなとおもったらしく、ニコニコしながらぺこりとあたまをさげました。

ためしになにかはなそうとしてみたようです。
が、どうきいてもにゃあにゃあという猫のなき声にしかきこえません。

あきらめたようにちいさくためいきをつきました。

おなじいっきのさんかしゃをみつけてうれしいのか、しっぽがゆらゆらとゆれています。

もそもそとフードを脱いで、隠していた頭を見せました。

そうしてから、フードをかぶり直します。

クリストファーさんに、異世界からの干渉が迷惑だと言われると、少し考えこみます。
味方という表現が正しくないことも理解しているからです。

今言えることをすべて言ってしまうと、アムルはぺこりとクリストファーさんに頭を下げました。
そうしてから、クリスティーナさんに視線を落とします。

そこまできて、いきなりふっとぶクリスティーナさん。

ちょっとじゃれてるだけかと思って見守っていたので、突然の暴投にびっくりです。
びっくりしてるアイコンなかったので急にガンつける始末です。なんかヤンキーみたいになってます。

それはそれとして。とにかく吹っ飛ぶクリスティーナさんを慌ててキャッチしようとしました。

軟膏のようなものが入った小瓶を二つ差し出した。

そう言ってチャチャカはサラマンを指さす

男は首をかしげ、不思議そうに少女を見下ろした。

人形の少女が持ち上げられる

あからさまな驚愕。少年はきらきらとした眼差しで人形を見つめる。

少女の前に跪き、恭しく頭を垂れる。

言いながら、小さな身体を軽々と抱え上げた。
そうして、持ち主とおぼしき女性へ向き直ると、

しばし、じっと人形を見つめる。

青年が後ろに回りこんでいた少女・・・人形を摘みあげる。
人形の陽気な様子を見るに、どうやら彼から逃げていた訳ではないらしい。

ふと過ぎった考えを、人形の言葉が遮断する。

参加者の決意や覚悟を思うと、自分の理由は随分軽いものだ。
目の前の２人（１人と１体？）に少々申し訳なくなるが、真実なのだから仕方が無い。

思ったことをそのままぶつける事にした。
制御が難しい者もいるのだろうか、と疑問を抱きながら。

小さな人影を見て、抱いた感想はまずソレだった。

くるくると、その状況に思考が動いていく中で、
言葉としては反応を返さず、人形の可憐な笑顔に視線を止めた。
背後へと、隠れるような仕種を目ではなく存在感として感じつつ、
すぐ後を追ってきた人物へと視線を返した。

一見性別の判断に迷うが、声を聞いて得心に表情を緩め、

さて、如何したものか——と、内心首を捻りつつも面には出さず。

何ともリアクションの取りづらいブラックジョーク。
不敵な笑みで、少女はそんな一言をかました。

いつもより一段階低い声でドスをきかせる。

人形の訪れに、口端を上げるような笑みで応対した。
礼を向けられれば浅く一礼を返す。

そうして、人形から現れた人物の方に向き直った。

右手の上、手のひらサイズというには少し大きい人形が乗る。

くすりと笑った女の言葉に、疑問符を浮かべながら唇を湿す。
経験則上だが、こういう時の女は怖い、と思う。

そうでない奴のことは出会ってから考えるよ、と、まこと呑気な言葉を残して離れるか。

敵を一瞥する。