※ENo.391の日記よりも後かも！

赤くなった頬は鼻の頭。
腕や足の辺りをさすっている。
とはいえ、テンションはそこまで低くはなさそうだ。

大きい物音、声、そういったものは得意でないらしい。
彼が声を荒げた途端、びくりと肩を竦ませた。

手を掴まれる。引き剥がされる。詰め寄られる。
その全てが終わる頃には完全に表情は怯えたもので、完全に萎縮しきった様子で小刻みに震えており。

後半になるにつれて、意味不明な言葉の羅列を紡ぐ唇は閉じがちになり。
まだ自由のきく手の方で、もう一度、先ほどぶつかった肩を指差して誤解をとこうとするも、ケガ、も、痛い、も、言葉を知らない。
…つい先日、意味のわからぬまま習った言葉を、——謝罪の言葉なのだと、相手の怒り方から察する事が出来れば涙をいっぱいに瞳にためながら、頭を、垂れて。

　
　静かに頷き、二人に聞こえるよう話し始めた。

　
　観察されるような視線に嫌悪を示す事もない。
　マント状の謎生物は見物料取るぞゴラァとか叫んでいるが気にしなくていいだろう。

　
　ふと、レグルスの装備を見る。

放たれた弾丸は、無防備な魔女の頭蓋を貫いた。

左頭部が抉れるように消し飛ぶ。衝撃で、小さな身体も吹き飛んで行った。
けれどその身体はやはり空中に固定されたまま。
頭の衝撃を吸収するように、ふわりと縦に一回転し、再び同じ場所へと立ち止まる。

周囲には、血肉の臭いが立ち込めて。
魔女の残骸は、ゆっくりと近付いて来る。

何でもない　ある日の出来事


あなたたちの前に　なんだかとってもあやしい人たちが現れました

そのうちの一人　黒い布で　体を　顔を　覆い隠した　こわい雰囲気の女は　あるものを取り出します
それは一枚のコインのようなものでした
コイン状の石＜メルンストゥーラ＞を　女は爪で空高くに打ち上げます



くるり　くるり
コインは宙を舞い　表　裏　と　結果を入れ替えながら落ちていきました

ぱしん

二つの手で捕えた運命の行く末を　女は示すように　両腕を前に……



　　　　——　　Ⅵ.鈴蘭　＜裏＞
　


コインの真ん中にある石が　夕焼け色に　ぴかぴか　光りだします
光に揺り起こされ　山のように　おおきな　おおきな生き物は十三の眼を開きました

かつての黄金郷　カダイエの守護者 エンブリオ・マァムブ

たくさんの瞳は　目を眩ませるほどに強烈な輝きを放って　すべてを黄金の夕焼けに染め上げます

マァムブの光を背に受けるは一組の＜メルンストゥーラ＞を持つ十二人の使徒
あなたたちには見えるでしょうか　黒い影が　ながく　ながく——




　　　　　——　マァムブの覚醒が契約者達に変転をもたらす！





女は黒い布を捨て　刃を　構えた

それは鳥の声だったでしょうか
ひとの叫ぶ声———泣き声だったかもしれません

黄金色を背にして　たくさんの、大きな、小さな　鳥のはねが舞い散りました
大きなひとつの鳥のかげが、まばゆい光に混ざり　とけて、はなれて
やがてふたつの像を結びます。

仮面のおくから　ぎらぎらとひかる瞳をのぞかせる小さい鳥。
そして、それを守ろうとするかのように、大きなつばさをひろげた、大きい鳥。

一瞬。音のないつよい、つよい風が、黄金のマァムブの方角からふきぬけました。
あたりの草木はゆれ、小さな石が転がり、髪を乱します。
やがて、風はやみ——

　ゆらり　ふわり

風のやむ、その一瞬…黄金の夕焼け色をさえぎってたゆたうのは、しろく輝く三対のつばさでした。
その中心には、辺りを染める光とはまた別に、小さく燃える太陽が——ひとつきりの金色のひとみが、じっとあなたを見つめています。

けれども黄金の光に飲み込まれ、金のひとみはしろく羽ばたくつばさとともにかききえました。
————つばさの前にたたずんでいた、一つの影にかさなるように。

黄金色を背負った影が、ゆらりと長く、高く のびあがります。

ずんずんと伸び上がった影のひとつが、くぐもってしゃがれた男の声で　がらがらと笑いました。

横へ広げた袖先からは、蔦のような蔓のようなものが蛇のようにしゅるしゅると動いています。
見上げてみれば、牙のような歯をのぞかせた口が、にぃいっと 大きく横に裂けました。