野外で寝ることにだけは、いつまで経っても慣れそうにないと思う。
風を避けるものも無いし、地面は固くて目が覚めると体中が痛かった。

それでも、睡眠を取らなければ明日の活動に差し支えること位はちえりにも大いに理解できた。
だからぶちぶちと不満を漏らしつつも、野営の準備を手伝ってから、おやすみと一言告げて毛布に潜り込む。

毛布を被ってもやっぱりすぐには眠れなくて、目を閉じてひたすら眠気が来るのを待つ。
だけどそうやって寝よう寝ようとするほど眠れなくなるもので。
おまけにスズメとそのエンブリオ達が何やら囀っている……うるさい。


「皆寝てるんだから静かにしてくれよー。案山子さんが寝るかは知らないけどちえりは起こすと面倒だぞ、うるさいし」


……ちえりのことをそんな風に思っていたのか。
起きて怒鳴りこんでやろうかと思ったけど、やめた。
一度寝る姿勢に入ったのを覆して起き上がるのは、思いの外気力がいるのだ。
明日の朝に抗議しよう、と心の底で固く決意する。

……明日の朝に。
赤の他人がこうやって自分の生活に入り込んでいるのは、改めて考えると不思議な気分だった。
朝起きてから夜寝るまでずっと一緒にいるなんて、まるで家族みたいだと思う。
そういえば、さっき何気なく「おやすみ」と告げたけれど、パパとママ以外に言ったことがあったっけ？
そして朝が来たら「おはよう」を言って、また一緒に活動するんだ。
道を違えるまでは（それがいつになるのか分からないが）こうしてずっと一緒にいるのだろうか。


家族じゃないのにずっと一緒にいる人達って、なんて呼べばいいんだろう。


…
……チカリ

いつの間にか落ちた浅い眠りの中、閉じた視界に小さく光が映ったような気がして目を開けると、
遠く地平線に次々と花火が上がるのが微かに見えた。
そういえば、祭りがどうのと誰かが話していたような気がする。
手を引いて一緒に行く両親が今傍にいないので、ちえりは祭りには行かなかったのだが、
こうして花火だけでも見られたのは運が良かったのかもしれない。

同行者達は今どうしているだろう。
気付かず寝ているのだろうか？
それとも抜けだして祭りに参加していたりするのだろうか。
振り向いて確認すればすぐにわかることだけど、ちえりはそれをしなかった。


なんとなく、彼女たちも起きて自分と同じようにあの光を見ているのではないかと、そう思った。
特に根拠はないのだけど。

>>カカシ

冷たく昏い憎悪の光を、確かに瞳に灯しながらそう言った。
無論、その対象はちえりではなく、彼女の言うところの「ゴミ虫」なのだろう

先の発言を誤魔化すように、そんな冗談を口にする。

そう謝ると、少しの間、手で目を覆いながら顔を逸らした。
声が微かに震えていたのは、気のせいかもしれないし、あるいはそうでないかもしれない。

ちえりの問い掛けに対しては、小首を傾げて見せて。

そのまま押し黙る。

瞳が中空を追い掛け、瞼が小さくヒクヒクと動く。
俄かに瞳孔がギョロりと開くも、直ぐに収縮して、元の大きさへ。

かぶりを振って否定する。

自らの言葉に併せ、腰に差した刀を抜き放つ。
そのまま柄を両手に、高く上段に構えた。
両腕が力み、地を強く捉えた全身が大きく撓る。

依然として呼吸も穏やかに、静謐な面持ちで、ちえりを正面に見下ろす。

黒くて大きなそれに登り、何度か手で叩き。

そう言うと目を閉じ、早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が彼女の前に歩み出た。

どんな目的であろうと、意地があるのです。女の子には！