森の中、野営場所。

「……どうも、森での拾い物が多い気がするけれど」

呟く私の手の中には、一体の人形。服が所々破れており、髪も汚れて乱れたまま。何故こんな場所に転がっているのかは、分からないけれど。
その人形を見て、シィルが声をかけてくる。

「……随分と強い力を感じるな。契約できるかもしれんぞ」
「え、うそ……本当だ。……拾っていく？」
「このまま打ち棄てていくよりはマシだろうさ」

そういえば、魔道具屋のエンブリオは人形だった。この子も同じ類なのかもしれない。
イヤなら逃げ出すだろう、とシィルも言っていることだし、とりあえず繕ってあげる事にした。

——・——・——・——・——・——・——・——・——・——・——・——・——

さて、作業を終えても当然のように暇が残る。
装飾品を作り終え、エンジンを調整して、人形を繕った。その後装甲にちょこっと手を入れ、ついでに服なんぞを試しに作ってみたりして、尚暇である。このパーカーはミモザに進呈しよう。

少し息を抜こうと、立ち上がって軽く伸びをする。背骨がぽきりと音を鳴らし、喉の奥から年寄りくさい響きが漏れる。その後軽く肩を回し、身体を捻って軽くほぐす。
重苦しく凝り固まった身体に、新鮮な空気が巡ってゆく。濃密に感じるほどに澄んだそれは、心身への清涼剤として機能した。

気持ちの切り替えが済んだころ、再び地に腰を下ろして楽な姿勢になる。
やることはやった。考え事をする気分でもない。……こんな日には、私は何をしていただろうか。
思い返せば暇な時間には、機械を弄り回し、時に日曜大工をし、時には鍛冶の真似事をしていた。全て、趣味の一言で片付けられることばかり。今持っている槍は、その時に作ったもの。……今ならもう少し、と、ふと思った。
その他には、何があっただろう。顔なじみの店での交流。数少ない友人との団欒。恩人との対話。深く知り合った人との……話していて気楽な人との、関わりの時間。
今現在で言うならば、先ずは自らのエンブリオ。それから、整備をしていたバイクの管理精霊。……ちょっと甘い目に見積もって、魔異君。自分のコミュニケーション能力の低さを実感して、ちょっと悲しい気持ちになる。お店で言うのなら、リチェッタなんかはすごく好きなのだけれど、行くのも一苦労なので今から行くにはちょっと向かないので除外。

「…………うん」

落ち着く結論は残念なことに、何か作りながら雑談をする、といういつも通りのところ。
娯楽を考えようにも手持ちでは何も出来ない、精々謎掛けを考える程度だがそれにも相手が必要である。
申し訳ないが、またしても暇つぶしの犠牲になってもらうよ、ナビ。ごめんちょっと上からだった、是非話し相手にさせてください。

——・——・——・——・——・——・——・——・——・——・——・——・——

一歩一歩、前へと進む。歩いただけ、時が迫る。

『つらいかもしれないけれど』

無意識の底、繋がりを通じて、言葉が届く。

『どうか、逃げないで』

その言葉はきっと、目が覚めたら忘れてしまうけれど。

『あなたにしか出来ないことが、あるはずだから』

道しるべだけは。深く深く、胸の奥に刻まれて——

戦闘でまで彼女に負担をかけてしまうのは悪い。
……ある程度慣れてきたし、これまでの分はきちんと返さなければ。

自分は捕まえておきながらこの言い分である

　そう言って糸電話に手を伸ばしてふと、考えを巡らせる。
自分はすでに包囲されており、身動きができない状態にある。
ここにおいて相手が求めている『通信』というものは、あらかじめ選択肢が狭められていると考えるのが妥当だろう。
そう、すなわち、相手の要望は「対話」ではなく「降伏」であるのだ、と。

　しばらくして、上空からゆっくりと、ディンが昨日道端で収穫したばかりのマッスルポテトが下りてきた。

うーん　と思案をする。どこの修理を頼もうかと悩んでいるらしい。
そして数分後…

　

　
挙げた顔は口元が緩んでいる。

　
シセは　質問を絞ること　を覚えた　！

人形も少女が注視する装飾品類に目を向け、

並んだ装飾品類のうち、懐中時計を手に取り

懐中時計を置き、

そう言って少年は、鞄に伸ばした手を止めて。

覚束ない手つきで端末を操作する。
魔異もまた、揺ぎ無きぼっちだった。