夜店でひとしきり騒いだ後、何か森の前で騒いでいる一団があった。
ロッテの話によれば、どうも肝試しをやっているらしい。
……私の財布は先程の夜店で底が見えて来たので、参加無料でかつ花火が始まるまでの時間潰しとしては悪くない。

肝試しというと、私が知っているのは若い男が度胸試しで武器を持って森に入り、
証拠を持って出てくるというヤツだったのだが。
私達が参加するのだと、決められたコースを周って出口まで行く…というものらしい。
ただし、随所に脅かし役兼案内人は配置されている。

脅かし役がいる事を最初から明かしては驚くも何も無いと思ったが
本物はともかく、彼等は敵ではないから絶対に攻撃しない様に、と注意を受けて納得した。
視線に気付いたのか「何ですか？」と言わんばかりのまいらの視線を「何でも無い」と手を振って受け流す。

グループは自由で良いと言うので、どうしようかなとロッテを見る。
彼女は迷わず、皆で行きましょう、と言われた。
クーリアと二人きりになりたがるかなと思っていたので、ちょっと驚いた。
そう言えばこの子、クーリアの事で暴走気味になる事は多々あるけど、だからといって私やまいらに気を向けなかった覚えは無かった。
私が思っている以上に優しい子なのかもしれない。

……なんて思ってたら、何か顔を赤くして興奮し出した。
まあ、何を考えているかは大体想像がつくので放っておく。



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その後、私達の順番になってカンテラ1つを持って森に入ったが、怖がっているのはクーリアのみという寂しい事態となった。
ロッテはクーリアに夢中だし。私が怖がるわけもないし。
まいらにいたっては開始5分後に「明るくします？？」とか台無しな事を聞いてきた。
クーリアはもう、是非お願いしますとか言い出しそうな雰囲気だったのですぐに私が丁重に断ったが。

その後は、お化けが出る度にクーリアが小さな悲鳴を上げてロッテに飛びつき、ロッテがそれはもう嬉しそうな顔をしながらクーリアをなだめ、まいらがまるで怖がった様子もなく「わー、おばけだー」を連呼する。
約一名を除けばそこそこ肝試しっぽい反応だったと思う。
ちなみに、私は怖がっていない。急に出て来たからびっくりしたりはしたけど。

騒がしく進んでいたのだが、クーリアはそのうち物音にまで怯える状態になってきて、
さすがにそろそろ辛いかなー、と思っていたら。
後からお化けがが奇声を上げながら追いかけて来た。

筋骨隆々とした巨体！
不気味な穴が開いただけの白い仮面！
獣を彷彿とさせるような雄叫び！
両手に持つ唸るチェーンソー！

……お化けか、アレ…？
だが怖い事に変わりはない。クーリアは悲鳴を上げて、思わず一歩下がり、再び悲鳴を上げた。
何事かとそちらを見れば、生暖かい…何だろう？
黒っぽい、舌みたいな触感のモノが糸にぶら下がっていた。
私がそれに気を取られている間に、パニックになったクーリアが、ロッテの声も耳に入らない様子で、ともかく怖いものから距離を取ろうとしたのだろうか？
森の方へ一歩入ると。

「うらめしやあああああああああああああッ！！」

というやたら熱い叫びと共に、白い着物を着た長い黒髪の女に抱きつかれた。
…しかも半透明の。反射的にチェンソー仮面の方を見たら、俺こんなの知らないとばかりに手を横に振る。どうやら本物らしい。
これはクーリア泣き出すかもなと身を硬くしていたら、叫び声一つ上げない

あれどうしたかなと思って見ていると、そのまま背後に倒れてしまった。
慌ててロッテが抱き止めて必死に名前を呼びかける。
私もさすがに慌ててクーリアを見るが、単に驚いて気絶してしまっただけらしい。

チェンソー仮面も雄叫びを止めて、ヴォォォ？　と心配そうに見ている。
大丈夫だと手を振ると嬉しそうにチェンソーを振り回した。危ないから止めろ。
一方まいらはと言えば、クーリアが気絶しただけと知るや、幽霊に近づき、触ろうとして空を切り「ほんとにさわれなーい」とか言っている。
ついでに幽霊は……髪に隠れているせいで、表情は解らなかった。
が、今はまいらに触られるままとなっていて動く気配は無い。視線の先にはクーリア。

で、そんな事をしている間にクーリアが目を覚ました。
目を覚ますや否や、ロッテが力いっぱい抱きつく。
寝起きだからか、寝惚け眼のクーリアはぼーっとした様子で周囲を見ていたが、ある一点で動きが止まる。

視線の先を追うと、幽霊がいた。
そいつはクーリアが起きたと気付くや、黒髪の間から三日月の様な真っ赤な口を釣り上げて
「うらめしやあああああああああああッ！！」
…と、叫ぼうとしたんだと思う。多分。
だが、それよりも早く、クーリアの方が森を切り裂く様な大声で
「きゃあああああああああああっ！！」
と叫び、身体が眩く輝いた。

——もしこの日、森を空から見ている人がいたのなら。
森の入口付近から眩い光が立ち上がり、その直後、凄い衝撃が光を中心に放たれたのを見ただろう。

…まあ、考えてみれば大惨事一歩手前だったのだが。
幽霊はいなくなったし、ムーンライトインパルス（仮）の衝撃も、まいらが食べてくれた様だし。
終わってみれば、クーリアも怖かったけど楽しかったと言ってくれたから良かったのだろう。
私は

ただこれ以上謝ろうものなら、何か言おうものなら余計な泥沼と化しそうだった。

世界を頻繁に渡れど、一堂にこんなものらと会すればおっかなびっくりにもなる。
魔王。そんな風格を表すあなたほどの存在……とは矢張り言い過ぎか、強大な者として畏怖しうつろうのは彼女の性。

フィーグルさんの話を真剣な顔つきで聴き

元来、超がつくほどのお人好しであった。

軽くふいっと視線を逸らし、それから手を伸ばしてエティの髪を撫でた。宥めるように。

空から遠慮がちに妖精が近づいてきた。

堂々と平気でうそをついている。
しかし、その右手にはプレゼントと称した悪戯のためのちょっと辛いソーセージセット（贈呈用）が…

何だかおかしなことを言いながら、全力であさっての方向へ飛んで行った。