「一本、貰ったっ！」
　チハヤの繰り出した一撃がトキサメに直撃し、彼女は砂地にうずくまった。
　トキサメが次々と繰り出す毒は私に深い傷を負わせた。チハヤと協力しなければ勝てたかどうかも怪しい。

　間違いなく強敵だったのだが……。
「……すみませんでした、ちょっと調子乗ってました……。これで……許してください……」
　そう言われ、金銭とたくあんを差し出された時には少し憐れみを感じた。


　ともかく、地下牢への隠し通路を発見することが出来た。後は仲間の三人と合流し、地下牢へ乗り込むだけなのだが、三人は山岳、私は砂地と離れているため合流には時間がかかる。
　私はその間どうしようか、と考えていたら手元にあった通信符が鳴る。確か同じ一揆参加者である風斬東が渡してきた物だ。
　風斬東はトキサメを回避し、砂地を進みたいと提案した。確かに、強くなるためにはトキサメよりは多くの敵と戦い、生命力を貰うほうが早いのだろう。

　ついでだ。私は彼に大剣の作製の依頼をした。そして彼は想像以上の武器を作ってくれた。
　一振りすれば風を斬る。二振りすればつむじ風。なんと扱いやすい剣だろうか。

「旋風、風紀……。良し！　この剣を『旋風紀』と名付けるッ！」
　新たな武器を手にし、私は意気揚々と前へと進んでいった。

　眼前の少年は恭しく頭を下げると、爛々と目を輝かせた。
　その瞳にはあなたの鎧が映っている辺り、きちんとした防具は見慣れていないようだ。

　

　
　そう言った少年だったが。ぽつりと「ああ、そういえば」と呟く。

トキサメを破り、砂地を進む君の行く手から、誰かが歩いて来る。
敵かと思い警戒するが、どうやらそれは杞憂のようだ。
やって来たのは以前に手合わせした少女——たしか名はアムルイといったか。
彼女も君に気付くと、挨拶代わりに手を振った。

まったくだ。一揆に加わってからというもの、味方よりも敵に多く出遭っている。
君は簡単に挨拶をしてから、彼女に何故ここにいるのかを尋ねた。

なるほど、と思う。
余計な荷物は戦いの邪魔になってしまう。
ならば必要になった時、こうして調達に行くのがいいのだろう。
そのまま二言三言ほど世間話をしていると、ふと思い出したようにアムルイが言う。

何だろう。騎士といっても、君は辺境貴族の家臣だ。
この一揆に関わるような情報——例えば王城の構造などは知らない。
だから何を知りたがっているのだろう、と君は問いを待った。
アムルイは「間違ってたらごめんね」と前置きをして、

それは——どうなのだろう。
君は自分の主君が間違っているとは思わない。
この一揆にも、修行という建前で参加できるよう取り計らってくれた、正しい人だ。
どう答えればいいのか迷っていると、アムルイはさらに言葉を続けた。

そこで彼女は、だから、と挟んで、

彼女の言葉を、君は理解する。
戦いが避けられないのなら、どう相対すべきかを決めるために、彼女は知りたがっているのだ。
だが君は、果たして考えたことがあるだろうか？
民の為とは言え——同じ騎士と戦うことを、考えたことが。
一揆に参加するとは、そういうことだった。
いつか君自身の手で、誰かの忠義を捻じ伏せなければならない時がくる。
君にとって騎士との戦いは善悪を超えたところにあり、騎士としての在り方を問うものなのだ。
だからこそ、彼女の問いに即答することができない。
君は今まで、自らの在り方に疑問を抱かず進んで来たのだから。

君が考え込んでしまったことに気付き、アムルイが言う。

そうして別れの挨拶をすると、彼女は立ち去って行った。
残された君は、何を思うだろう。
君は義憤という正義に衝き動かされてきた。
しかしこの先、そんな外付けの正義では、立てなくなる時があるかもしれない。
騎士とは何か。
正義とは何か。
戦いの日々が、君に問いかけていた。

突然あなたに声がかけられる。
その声の主である少女は少し顔を赤らめつつ話を続けた。

そこまで話して自己紹介もしていないことに気付いたらしく、
しかし動揺を悟らせない態度で名前を告げた。

そう言ってチハヤは握手を求める。