(ちょっと後れたサマーバケーション日記　総括)

　絶望。　まさしくこの二文字に塗り固められた記憶。

「まさか、あの修道女の歌があれほど酷いとは……」

　この夏を振り返ると必ず思い出す忌まわしき過去。耳栓があれほど欲しくなるとは。見た目麗しいからといって安易に引き受けてはいけない。次はあのアイドル娘を呼ぼうと固く決意する。

「それに比べ、夜は静かでよいものでしたねェ」

　水着を売って歩いた甲斐あってか、目に優しい一時を過ごせた。花火大会で屋台を出したのも悪くはなかった。一部ボロボロだった商いもあったが総じて利益はトントン、といったところである。

「やはり祭りは絶好の機会。次こそ準備万端で臨まねばなりません」

　男の調べでは有力な候補がはろうぃんと呼ばれる南瓜の祭りである。売れ筋を読み、在庫をもっておかなくてはならない。





「その為にも合成を成功させねば、ですねェ」

　先ほどから取り組んでいるのが合成による石鹸の生産だ。妙な液体としての油の合成には成功したが石鹸とは程遠い。

　そしてもうひとつ。

「発酵自体はうまくいってるようですから、後は材料と工夫次第で……」

　乾酪が合成で作れることに目をつけた男。醤油や味噌、あるいは酒ができぬかと色々試している。酒は質の低いものならたまに造れるようになっていた。さらに酷く失敗すると酢になる。

　「ふう。合成の技を磨くべきでしょうかねぇ。装備とどちらを優先するか……」

　本来なら生産に力を注ぎたいところだがそうも言ってられない。人狩りが本格的に活動を始めていた。降りかかる火の粉は払える程度の力が必要である。

　「まったく、護衛も雇えないなんて嘆かわしい」

　商会が徐々に大きくなっている実感があるだけに、危機感も強かった。特に女を攫われる訳には行かない。何より人に奪われるのを嫌う男である。視界の片隅で歩くエロ本がはためいて主張しているが無視。ため息をつく日々は当分続きそうであり。


　「って駄犬、魚をくわえて逃げるんじゃありません！！」

　ただでさえ後退している毛髪が余計減っていく気がしてならない男でもあった。
　

ラグナルなんやらに対して非常にツッコみたかった。
しかし面倒なことになるとしか思えない。

などと言っているのも、つかの間……

レニーは走り去っていった！！

女の意識よりは、戦士の意識が強いようだが、同時にシンプルなものを好んでいるようだ。

待ち合わせは黒尽くめがいた場所の前で良いかしら？と、段取りについて、
メモを取りながら話し始めた。

二人が話をしていると、そこにぽつり…と小さく、男がつぶやいた。
ミルフィーユには聞こえなかったようだが、
シロの犬の耳がぴくりと動く。

男のほうをじっと見ながら、シロもぽつりとつぶやく。
男の耳にその呟きが届いたかどうかはわからないが、
男がつぶやいた後に、じっと見つめるシロのその動作で
言葉が届いたかどうかがわかるかもしれない。

ずい、と近づく男に合わせて、ミルフィーユは軽やかに一歩下がる。
必要以上に男を近づかせず——しかし話には耳を傾けている。

うーん、とミルフィーユは一考する。

そう言うや否や、シロの背負っていた大きな荷物から、いくつか道具を取り出す。

取り出したのは、「蓋のついた鉄製の筒」、「色とりどりのクレヨン」、「小型のペンのようなもの」
の3つを取り出し、一つ一つ男に説明してみせた。

そういいながら、ミルフィーユは桃色のクレヨンを手にして空中で文字を書く。
桃色のハートマークがその場に浮かんで固定された。

ペンのようなものは、カチリという音を立てて先端が光りだした。

そういいながらミルフィーユはライトをアナタに向けた。
それほど強い光ではないが、
ちょっとした暗闇を探索するには手ごろな明かりかもしれない。

小娘がテントの中をそーっと覗いてからそーっと入ってきた。片手に小銭を握りこんでいる模様。
連れの男はいないようだ。

疲労で喋るのも億劫のようだ。

──ラグナル・アクセリナは、光の中に消えていった。

問答無用で戦いが始まった！

妖精さんズに陣形を指示しつつ、刀を構えた。