深々と頭を下げ、そして笑顔を見せるのであった。

シエラの状態にようやく気付いたサイネル。普通ならば話している途中で気付けただろう。
耐性はあるものの、酔っていたのはサイネルも同様だったのだ。
なにせ見せ付ける為とはいえ、度の強い酒を何度も飲んでいたのだから。

遠い世界へと旅立ってしまったシエラを、何度も呼び戻すサイネル。

そうしている内に辺りはすっかり暗くなっていた。
これ以上大声を出すのは危険だ。サイネルは叫ぶのをやめて、その場に座り込む。

ここまで酔わせてしまったのだから、そう簡単には戻らないだろう。
少なくともサイネルはそう考えた。

組んだ両手で頭を抱える。
正直自分も酒気がやばい。このままでは最悪共倒れしてしまう。
……今動けるのは自分だけだ。自分が何とかしなければ。

手順！

１．その辺にシエラを寝かせる。腹に布くらいはかけといてやる。
２．サイネルは外敵を見張る。こちらを補足された時は無理せず退く。
３．起き続ける。寝たら死ぬと思え。…え、朝まで？
４．起き続ける。寝不足なんかに絶対負けない！
５．眠ってしまいたいです……ぽ○○先生……
６．シエラが起きる。今のこの様子では、起きた後の頭痛も酷い筈。まともに動けはしないだろう。
７．シエラに見張らせる。自分だって、こんな状態で動き回るのは危険でしかない。


今、金目の物は全て”あの場所”に置いている。
ゆえに盗まれて困る物などない。そこに置いてある酒と、この…ウィムの形見を除いては。
しかし見た目は骨で作られた白い刃なので、まず欲しがらないだろう。

ディグリース製の無線機……は、また注文すればいいや。

……自分だけ助かる方法が無いわけでもないのだ。
自分は生きて、クズは死ぬ。”怪傑X”なら喜んでその道を選ぶだろう。
サイネルは腰に携えた白い刃を見やり、「殺せ、殺せ」と心の中で自分に言い聞かせる。

……座ったままでは眠ってしまいそうだ。
サイネルは立ち上がり、手順をこなさんと動き出した。

それでも”サイネル”は、この道を選ぶ。


殺し合う可能性のある相手に無防備な姿を晒す、未熟なシエラに呆れ果てた。
そして”怪傑X”になりきれぬ、未熟な自分に呆れていた。



　　　　　　　 ———未熟者でいるのも、悪くない。


そういう風に思えたのはきっと、この意地の悪い酒の所為だろう。


……このまま何事も無ければ、サイネルは手順通りに事を成す筈だ。

なんだか偉そうな狼にしがみついたまま、もぞもぞ、娘は半分その背中から降り始める。
——相手が躊躇しなければ、恐らく素直に抱かれるなり何なりして、うまいこと地上に降りられるでしょう。

—そういいながら、なまなはシエラの左肩にもたれかかった

—左手で、ギクシャクした撫でていると

—という突っ込みが入り、シエラは右手を使うために身を捻る
　自然となまなの頭が右腕と胸に支えられる体勢になった
　鼓動はマッハを超え、周りを気にしながら、経験のためだと自身に言い訳をしていると—

—なんだ！変なところでも触ったか！？

頭を撫でられて、笑顔を返し。

シエラの「策なんて必要ない、本物を見せてやる」の発言を受けて、社長はえらく上機嫌になった。

その発言をした時、彼の瞳が僅かに遠くを見つめたものとなる。
大方、元の世界のことを思い出しているのだろう。


彼は元の世界では間違いなく敗者であった。
敗者であることの惨めさを知っており、そこから抜け出すことの難しさも同時に知っていた。

だからこそ、彼はこの世界では人一倍勝者になることを欲している。
豚になることなく、英雄であり続けていることを欲している。
そして、その道を示せる人間も同時に求めていた。

彼はシエラの後を追うように歩み始める。

シエラが力を示し続ければ、彼から信頼と信用を得るのに時間は掛からないだろう。
ただし、それが出来なかった時は……


空を見上げると、真上にあった太陽は西へと移動し、二人の進む道に僅かな影を落としていた。
以上が、彼がアラビアンナイツに所属するまでの出来事である。

大きなジョッキになみなみと注がれた酒を、豪気にも少女は一気に飲み干した……


そして盛大に噴き出した。

テーブルの上の料理は、少女の吐き出した酒によって見事に水浸しになってしまった。
両脇に陣取っていた男達は、唐突に訪れた惨状に言葉を失って顔を見合わせ、

—— 一拍の後、弾けるように笑い出した。

たまたま味が口に合わなかったのか、それとも酒精の強さに驚いたのかは定かでないが、
兎にも角にも出されたものを一口も飲み干すことが叶わなかったあなたに、
二人は 「これじゃ勝負にならないな」 と、呆れたような苦笑を漏らす。

そう言って料理と服の洗濯代としては随分多いように見える額の金貨を机の端に置くと、
またも二人はゲラゲラと笑い声をあげる。

「じゃあな！！」とそれぞれに片手を上げて、
そうして男達はまるでつむじ風のように去ってしまった。


——その場に　あなた一人を残して。

　

と冗談っぽく笑った

深々と一礼…

やさしい笑顔の女性であったが、刀を構えると目の色が変わる