『美味しく食べてね。』


マッチョな芋男は、爽やか系笑顔でそう言い残すと
まるで操り糸が切れたように、その場へごろごろと崩れ落ちる。

「……お芋さん、動かなくなったね。」
「あぁ、元は普通の芋だったみたいだな、コイツは。」

多分何かしらに動かされていたんだろう、すっかり静かになった元芋男の表面には
戦闘中や、つい先程まで見ていた「顔」が跡形もなく消えていた。
試しに爪で軽く割いてみるが、中身も普通の芋と全く同じだ。

味はどうであれ、食べても支障はなさそうだ。

「よし、ディル。後は任せた。」
「はーい！」


───


ひょいひょいと手際良く、炊飯の準備をこなしていくディル。
煮込まれた具材の良い香りが鼻をくすぐり、一際空腹感を誘ってくる。

邪魔にならないよう気を付けつつ、付近を警戒するブラン。


ふと、こちらに近付いてくる人影が遠くに見えた。
かち合う金属の音も混じって聞こえる。鎧の音だろうか？
食料の匂いに釣られてやって来た獣の類いではなさそうだ。

だんだんと近付いてくる影は、徐々に陰影を帯びてくる。
どうやら真っ黒い甲冑を着込んだ兵士のようだ。
雰囲気からして、悠長に食事が終わるを待ってくれそうにはない。


「こりゃあ、飯はもうひと運動した後か…？」