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ノウァ・ルーナ

鏡の悪魔テーセウスさんによって蘇ることができた、フィーの生まれ変わりの悪魔。
鏡界を操る力を持ち『異送鏡』という過去でも何処へも行ける鏡の持ち主。
現在、ナナさん（E№8）の兄であるメイガスさんに魔術商会を託され後釜を務める。
鏡の分身を用いて、魔王であるオリフィア（E№457）と接触しているが、彼女との因果関係に興味を持った。

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　夏に遊びまくっていた深雪が、解呪を頼んでいた絵本『魔王と森の魔女』を私に返しに来た。

「……流石に深雪に任せるのは無理だったようね。他の手段を当たってみるわ。」
　
　私が溜息を付いて赤い表紙の絵本を受け取ると、深雪は膨れっ面になって私に詰め寄った。

「なにそれ！？私に期待してないみたいな言い方！ちゃんと解呪してあるんですけど！？」
　
　言われて気づいたが、私が深雪に預けたのは黒い表紙絵本だった。
　赤い表紙が、この絵本の本来の色という事なのだろう。
　どうやら私は、深雪の魔法の才能を過小評価していたようだ。　

　　
「悪かったわ。まさかこんなに早く解呪してくれるとは思わなかったから。」
「うん、なんかあっさり解けちゃった。もしかすると、呪いを掛けた主が死んじゃったのかもね。」

　深雪の解析によると、この絵本にかかっていた呪いは読んだ者の記憶を操作するというものだった。
　実は絵本自体にも魔力が篭っていて、特定の人物にしか開くことの出来ない魔導書のようなものだ
と深雪は説明した。

「だから、呪いは解けたけど魔法の鍵が掛かってて中身は読めなかったよ。そっちは解いちゃうと、絵本の魔力自体も無くなりそうだから止めといた。」
「あら、そうなの？私は普通に読めていたから、全然気にしなかったけど。」

　この絵本が、意図的に異送鏡の中に保管された魔法書だとしたら、誰が何の目的でこの絵本を作ったのか？
　少なくとも、私の父や母がこの絵本を作ったとは考えにくい。
　
「呪いが解けたってことなら、私が読めばこの本の正体も分かるかも知れないわね。助かったわ、深雪。」
　
　報酬として路銀袋から金貨を何枚か取り出すと、深雪の手のひらの上にそれを置いた。

「あっ、別にいいよ。そんなに大変じゃなかったし。でも、折角だから少しは貰っておくね。」

　深雪は一枚だけポケットに仕舞うと、残りの金貨を私の手のひらに戻した。

「遠慮したって、何の見返りもないわよ？」
「別に、見返りなんて期待してねーし。お小遣い貰えただけでも十分だよ。」
「つくづく、お人好しなのね深雪は。」

　ただのうさぎ好きな子供だった深雪が、一人前の魔法使いとして成長している現実を私は改めて認識するのだった。

　
　深雪と別れて部屋に戻った私は、椅子に腰掛けながら絵本のページを開いた。
　『魔王と森の魔女』の絵本は、私が子供の頃から何度も読んでいる絵本だ。
　私はこの絵本の中の王女、オリフィアの悲劇に共感して幼心ながらに心を傷めていた。

『簡単な取引をしよう。僕が君の願いを叶えるから、代わりに鍵を僕に渡して欲しいんだ。』
　
　男にしては細長い指が、私の髪を弄ぶように梳いていく感覚が記憶から蘇り、思わず背筋が寒くなった。
　そうだ。
　私は、テーセウスさんの兄であるオルドローズに子供の頃に会っていたのだ。
　
　（LINK　http://inertiatizza.sakura.ne.jp/youkahosoku1.jpg　参照）
　
　そして、私の願いによって絵本から生まれた少女、オリフィア……後のオリフィと夢の中で出会い、無二の親友となった。
　オリフィが悪魔との契約によって生まれた事を鑑みれば、最初から私を殺すように造られていたと考えても不思議ではない。
　あの戦いが悪魔に仕組まれていた呪いだったとしても、私はオリフィと戦う事を自ら選んだのだから後悔はしていない。
　結界の崩壊にも何らかの干渉があったかもしれないが、それが無ければ私は鏡の世界の中で外の世界を知ること無く、誰にも知られることも無く一生を終えただろう。
　今調べたいのは、私がオルドローズに渡した『鍵』の在り処。
　鍵の正体を思案しながら絵本のページを捲ると、突然絵本が輝き始めて中に引きずり込まれるような錯覚に私は陥った。
　絵本を読んでいた筈の私は気がつくと、手入れの行き届いた薔薇の庭園の真ん中に立っていた。
　少し遠くには見覚えのある白い壁の城。
　隣では紫の髪の純白のドレスを着た少女が、私に親しげに話し掛けて微笑んでいる。
　
「どうしたの、オルタンシア？急に呆けてしまって。お身体が優れなかったら、お部屋に戻りましょうか？」
　
　私の事をオルタンシアと呼んだ少女は、紛れも無くオリフィア王女だった。
　
「ここはどこなの。絵本の中の世界？それとも、過去のヴィオレット王国なのかしら？」
　
　私の声は彼女に届いていないようだったし、私はオルタンシアという人物の中に閉込められたように身体の感覚を持っていなかった。
　これではまるで、私がペンダントの中に閉込められたフィーのようだ。
　私の意志とは関係なく、オルタンシアはオリフィアに話し掛けた。

「大丈夫よ。でも、少し雲行きが怪しくなってきたわね。雨が降る前に戻りましょうか。」

　その声は、何となく私の声にも似ている様な気がした。
　頷いたオリフィアは、オルタンシアの手を握ると白い壁のお城の方へと歩き出した。
　彼女は如何なる人物なのだろう？
　『魔王と森の魔女』の絵本の中に、オルタンシアの名前は無かった。
　王女であるオリフィアと親しいということは、もしかするとオルタンシアは彼女の姉妹なのだろうか？
　部屋に戻る途中、ふと通路に置いてある鏡にオルタンシアの姿が映った。
　紫のローブに紫の髪、そして紫の目は殆ど私の映し身。
　
「何これ……私がオルタンシアの転生体だって事？」

　オルタンシアに訪ねても、返事は勿論返ってこない。
　私はただ、オルタンシアの中で目の前で起こっていることを見ているしかなかった。

　（LINK　http://inertiatizza.sakura.ne.jp/youkahosoku2.jpg　参照）

　賑やかな歓迎パーティが終わり、出見の後片付けも一段落ついた頃。
　オルタンシアは専用の個室を与えられて、すっかり王宮で暮らす流れになっていた。
　質素な中にも拘りを感じる家具が揃えられ、試しに腰掛けたベットはフカフカで横になればすぐ眠りにつけそうなぐらい心地よかった。
　部屋の外に、兵士ぐらいは立っているのかと扉を少し開けて隙間から覗いてみたが、誰も見張りは居ないようだった。

「身の上も知らない旅客に、不用心すぎるわ。」

　オルタンシアは呆れつつも、場内の散策をする事にした。
　昼間に行ったテラスの方へと歩いて行くと、テーブルにランタンを置いて地図を広げているユリシス王子に出会った。

「やぁ。ここは夜風があたって気持ちいいんだ。寝付けなかったら、少し私と話をしないかい？」

　ユリシスは席を立つと、隣の椅子を引いて手招きした。
　一瞬、ユリシスから尋問を受けるのかと身構えてしまったが、素性を聞かれるのは当たり前だと覚悟を決めて席についた。

「オルタンシアは、いろいろな国を旅してきたんだよね。他の国と比べて、この国の印象はどんな感じだろう？」

　ユリシスに尋ねられたオルタンシアは、お世辞を考えてはみたが上手く浮かばないので、素直に思ったことを告げることにした。

「そうですね……すこし、おおらか過ぎるかとは思います。これだけ平和なら、殺気立つ必要もないのでしょうけど。」

　ユリシスは頷くと、少し険しい表情になって地図を指差した。

「オルタンシアの言う通り、この国は平穏すぎると感じているんだ。他国の情報を聞く限り、人々は魔物の侵略や、隣国が攻めてくる脅威に怯えている。ヴィオレット王国だけがその被害を免れている理由が分からない。」
「魔物の事は分かりませんが、隣国とは不可侵の協定を結んでいるのではないのですか？」

　オルタンシアが尋ねると、ユリシスは首を横に振った。

「父上から、そのような話は聞いたことがないんだ。立地的にも防衛に向いた土地ではないし、それなりの資源もあり収穫もある。隣国からいつ攻め入られてもおかしくはない。」

　どうやら、ユリシス王子は平和ぼけしてる国民達とは違って、ヴィオレット王国の脅威について確りと考えているようだった。

「きっと、誰かにこの国は護られているのでしょう。」

　『魔王に』とは流石に言えなかったので、オルタンシアは言葉を濁して答えた。
　ここが魔王の住処であることは、闇の者達に言い伝えられている。
　主の敷地で暴れる下僕などいる筈がない。
　隣国が攻めてこない理由は、自国の魔物の対策に追われて他所に手を出している隙がないからだ。
　　
「誰かに護られている……か。確かに、この国で魔物が暴れて被害に遭ったという話は聞いたことがないね。それが本当なら、祠を建ててその御方を敬いたい所なのだけど。」

　ユリシスの微笑みに、オルタンシアは少し引きつった笑顔で頷いた。　
　
「万が一に備えるという、ユリシス様のお考えは素晴らしいと思います。祠を建てるよりは、来るべき敵に備えて鍛錬を積むのが宜しいのではないでしょうか。」
「確かにそうだね。神頼みは、最後の手段に私もしたいよ。話を聞いてくれてありがとう、オルタンシア。」
　
　ユリシス王子は、オルタンシアの頭をオリフィア王女にしているように優しく撫でた。
　甘い空気に慣れていないオルタンシアは、少し体が強張りつつもユリシス王子の雰囲気に、安らぎを覚えつつあった。
　
「もし、ヴィオレット王国に万が一があったなら、私の命に替えてもオリフィアとオルタンシアは護りたいと思っているよ。」
「オリフィア様と同じく扱われるなんて、恐れ多いことです。お気持ちだけでも感謝いたします。」
　
　あと一ヶ月後に迫るオリフィア王女の誕生日には、国民はきっと魔王の糧となるだろう。
　妹に優しく見識も高いユリシス王子も、国王も王妃も例外ではない。　　
　心の底から望んでいた安らぎの場所を、自分の手で終わらせてしまう事にオルタンシアの心は揺れ動いたが、魔王の復活は決定事項なのだ。
　自らを虐げた人々への復讐と、ヴィオレット王国の人々だけは守りたい葛藤がオルタンシアの胸を締め付けた。

「そ、そろそろ冷えて来ましたし、この辺でお暇させていただきますね。」
　　
　ユリシス王子の手から逃れるように席を立つと、オルタンシアは一礼して部屋へと小走りに駆けていった。

「……やれやれ、嫌われてしまったかな。オルタンシアこそが、オリフィアを救える者だって私は信じているのだけどね。」

　ユリシス王子は振り払われた手を寂しそうに見つめながら、オルタンシアの足音が聞こえなくなるまでテラスに立ち竦んでいた。
　
　オルタンシアが部屋に戻って眠りに着いた頃、私の意識はようやく本から開放されて元の部屋に戻っていた。
　どれぐらいの時間が経ったのか気になって置き時計に目をやると、時計の針は私が本を読み始めた時の時間と殆ど変わらなかった。

「驚いたわね。この絵本にこんな仕掛けがあっただなんて。」

　鍵とは、恐らく絵本となった元の世界のオルタンシアの記憶のようだ。
　絵本の内容に沿うように、過去の記憶が私に入ってくることには抵抗があるが、今この世界にいるオリフィアと私の関係にも重要な情報となるのは間違いない。
　とはいえ、一気に読むには膨大な記憶が流れ込んできて、自分自身が混乱してしまいそうだった。
　
「早く続きを読みたいけど、少し休憩したほうが良さそうね。」

　私は読みかけの絵本に栞を挟むと、机の上に本閉じて置いた。
　
「……こっちの世界のユリシスも、私の事を見て何か気づいていたのかしら。」

　まだ撫でられたような余韻が残る自分の髪に触れながら、行方不明になってしまったオリフィアの兄の事をふと思い出してみるのだった。

＞深雪ちゃん

スマホをいじりだして、フォトアルバムから一枚の写真を見せた。
萌がセーラー服を着て友人とピースをしている。

ちょこん、と手のひらサイズの和菓子の包みを取り出して、深雪ちゃんに
渡そうとした。イメージ的には↓
http://www.kitchoan.co.jp/online_shop/products/detail.php?product_id=675

＞ノウァさん

　　　　　　ゴロンと横になりお腹を見せる。

おじさま、と言われたことに肯定も否定の意も示さない。
それどころかこの人物、まだ名乗っていない。

残念そうに首を振る。

機を逃すまいと素早く懐からサンプルを取り出す。
桃や杏の香りがふわりと広がり。

そのような相手がいるかはともかく、商売の口上の１つを述べて。