ENo.1118 エシャロット=グレイス

エピソード１２　人生まだまだこれからさ

「えはははは〜楽勝楽勝ですの〜♪」
「あたしの勝ち〜♪」

エシャロットとイグニは楽しそうにくるくるまわり、ワカメマンを撃退した。
素晴らしいほどにイグニゲーである。

「あたしもイグニちゃんもワカメがなかった時点で勝利は確定だったんですの！」
「ワカメってな〜に〜？」
「それはねー、大人のおねーさんだけが持ってｒ」
「やめろぉ！！？」

横からひびながすごい勢いで横槍を入れてきた。

「あ〜ん、ひびなちゃんひどいですの〜、なにするですの〜」
「なんか…とんでもないことをいいそうなきがしたんだ…」
「んふふ、勘がいいですの〜、やはりひびなちゃんは最高のめすいぬですの！」
「だからめすいぬとー！！」
「めすいぬ〜♪」
「めすいぬー」
「めすいぬどれい！」
「もうやだ」

妖精たちに囲まれて雌犬と連呼されるひびな。
もう色々と諦め切ってるような様子を見せるひびなであった。

「み、みなさん…おつかれさまです…」
「どうしたトト！もっとしゃきっとしろ！」
「は、わう…ごめん、なさい…！」

ひびなに怒られるトト。これも今となってはよくみる光景なのだが…
今日はどことなくトトの元気がいつも以上にないように見えた。

・・・

トト「…まけちゃった…」

街に戻り、一息をつく。
ここ数日はこの街付近で戦闘経験を積む方針となっていた。
強くならなければ生き残れない。そのルールに従い、少しでも訓練を励む毎日となっていた。
トトは…一人でそんなことをつぶやいていた。恐らく前日のPKのことを呟いているのだろう。

トト「…わたし、どうすればいいのかな…」

街の中はよっぽどのことがなければ安全と見ているのか、各自、次の旅の準備をしている様子。
トトはそこで、一人で考え事にふけっていた…。

エシャロット「み〜つけたですの〜〜〜♪」

トト「ひっ！？」

物陰から飛び上がるように登場したエシャロット、あまりの予測できない登場にトトは思わずびっくりしてしまった。

トト「えしゃろっと、さん…？」

エシャロット「トトちゃん、元気ないですの〜？わりといつもおどおどしてるけど〜「アレ」以来あからさまに変ですの〜」

エシャロットの「アレ」とは…別にエロいことというわけではない。
エシャロットが言うと紛らわしいが今回ばかりは違う。
PKに出会い、負けてしまってコヨートルのお金を盗られてしまったようだ。
それはつい昨日の出来事のようなものである。

エシャロット「気にするこたぁ〜ないんですの、世知辛い世の中だからしゃーないですの〜♪」

トト「……」

両手をあわせて歌うようなしぐさをしながら、ゆらゆらと動くエシャロット。
トトは、その様子を見て…ただ、呆然としている。

エシャロット「トトちゃーん」

トト「…は、はい…？」

トトの視線をエシャロットに向けさせる。
見られていることを確認すると、愛用のクワの柄に、酒瓶をくくりつけ始めた。
次に、まるで首長動物のようにクワを構える。そして…

エシャロット「キリンラガー！」

トト「……」

エシャロット「……」

トト「……」

トトは、思わず目を逸らした。
エシャロットの渾身のギャグと思われるこれを、全力で目を逸らした。
あまりにも反応に困る行為…トトの思考は停止し、本能的に見るに耐えないものだと判断された。

エシャロット「スーパーズガーーーーン！！ひどい反応ですの！深く傷ついたですの！エシャロットの心に３２０００ダメージですの〜〜！！」

トト「ええっ！？え、えと、…ごめんなさっ…」

エシャロット「どっせーーーい！！！！」

トト「ひぃぃっ！！？」

心にダメージを受けたというエシャロットの発言にとりあえず謝ろうとするトトだが…
それを止めるかのようにエシャロットは突撃して、トトに抱きついた。

トト「な、なにを…！？」

エシャロット「んもー、トトちゃんもういやつですの〜♪イグニもかわいいけどトトちゃんもかわかわですの〜♪」

ぎゅーっと、胸に押し付けて、そのままトトの頭をなでなでする。

トト「あっ…わぅ…ひぅぅん……」

エシャロット「んふふ〜、撫で心地抜群ですの〜♪」

エシャロットの抱きつく力は、とても柔らかく、抜けだそうと思えば抜け出せそうなものだった…。
しかし、エシャロットに抱きつかれる感触、そして優しく撫でてくる頭の上の手…。
トトは、その心地よさに身をまかせてしまう。

トト「んっ…んっ…」

エシャロット「トトちゃ〜ん」

トト「あう…？」

エシャロット「つらいことは胸の中に閉まったままだといつまでもでてこないですの〜、幸せがはいってこないですの」

トト「…しあわせ…」

エシャロットは、股にトトを座らせて、そのまま後ろから抱きついてなでなでし続けた。
エシャロットの身長は112cmと相当低いのだが、トトは90cmとさらに低い身長。
その体格差が、トトを安易に抱ける理由であった。

トト「…えしゃろっとさん…」

エシャロット「なんですの〜？」

トト「しあわせって、なんです…？」

こぼれ落ちるかのようなトトの言葉。
幸せとは、何か…。トトには、それがよくわからなかった。
奴隷として生きた日々。その身から解放されたのはまだ間もない。
きっと、そんなものは感じたことなく生きてきたのだろう…。

エシャロット「んー」

エシャロットはそれを考えるように指を咥える、が…

エシャロット「そんなのあたしにもよーわからんですの〜！」

わずか３秒で考えることを放棄した。

トト「…そう、ですか…」

エシャロット「でも〜」

エシャロット「幸せだ〜って思えばきっと幸せなんですの♪あたしは今幸せですの」

エシャロット「いぐに〜、こよちゃんにえぺー、め・す・い・ぬ♪そしてー」

エシャロットは、ぎゅーっと少し強めにトトを抱きしめる。

エシャロット「トトちゃん♪みんな大切な仲間ですの、こんな仲間に巡りあえて、あたしは幸せ者ですの〜♪」

トト「…えしゃろっと、さん…」

トトは、抱きついてくるエシャロットの腕を、ぎゅっと握るようにした。

トト「…わたしも…みんな、みんな、たいせつななかまだとおもってます…」

トト「…でも…わたし…なにも、まもれなくて…やっぱり、だめなこで…」

トトの目から、ポロッと涙が零れ落ちる。

トト「こよちゃんも、まきこんでぇ…」

…トトは、自分が酷い目にあったことはほとんど気にしていなかった。
ただ、仲間を守れなかったこと。それが気掛かりで仕方なかったようだ…。

エシャロット「巻き込むなんて今更ですの！」

トト「えっ…？」

エシャロット「あたし達は友達みな兄弟ですの！まきこんじゃったーとかいまさらですの！どんどん迷惑かければいいですの！」

トト「そ、そんな……」

エシャロットの回答に、戸惑いを見せるトト、しかし…。

エシャロット「それが、仲間というものですの…そして…互いに、信じあうのが仲間ですの」

トト「しんじ、あう…？」

エシャロット「トトちゃんは、コヨちゃんがそんなに弱いんだと思っているですの〜？」

コヨートル「トトーーーーーーー！！！！」

コヨートルがものすごい勢いで飛んでくる…。
…心臓を持って。

トト「ひぃぃぃっ！！？」

コヨートル「トト！げんきがないのだ！これをたべてげんきだすのだー！！」

エシャロット「もうそのネタは飽きたですの！」

コヨートル「ネタ！？」

コヨートルは、ブレないというかいつも通りの様子であった。

エシャロット「こういうことですの、コヨちゃんはあんなくらいはへこたれないですの〜」

トト「…こよちゃん…」

エシャロット「それどころか、逆に心配されてるですの〜？これはいかんですの〜？」

トト「……」

トト「……ぐしぐしっ」

トトは涙を拭き、ゆっくりと立ち上がる。
少しは迷いがなくなった。そんな目をしていた。

エシャロット「トトちゃーん」

トト「はい…？」

エシャロット「信じあうということは、一緒に生きるということですの♪それは、守って、守られて…お互いの弱点を防ぎ合うように生きていくことですの♪」

エシャロット「トトちゃんはー、守りたいですの？強くなるですの？」

トト「…つよく、なりたいです！」

エシャロット「ん、それでいいんですの♪」

きっと、これから色んな試練が待ち受けているのだろう。
だが…それを一緒に乗り越えていく、仲間がいる。
トトは今、本当に強くなりたい理由を手に入れた。

エシャロット「さぁさぁ、こんなところでうじうじ〜してても強くなれないですの、諦めたら試合終了ってスラムダンスでも言ってたですの！」

トト「すらむ、だんす…？」

エシャロット「おもしろい漫画なんですの、無事にこの世界から脱出できたら全巻貸すですのっ♪」

こういう、一文字もじってるパチモン臭っていいよね。

エシャロット「よーし、そうとなればー！」

みんな、強くなるためにがんばっている。
さぁ、エシャロットも…。

エシャロット「寝るですの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！」

トト「ええええええええっ！！？」

コヨートル「ええええええええっ！！？」

ええええええええっ！！？

続く…。

おまけ

エシャロット「ところでコヨちゃん、その心臓は何の心臓ですの？」

コヨートル「ワカメマンの心臓なのだ！」

エシャロット「あ、じゃあ食べれそう」

トト「ええっ！？」