8.


　ピアンタ・ディペントーラの朝は早い。
　そもそも半神半人であるピアは毎日眠る必要がない。それなのにピアは毎夜眠ろうとするものだから、小さな物音で目覚めたり、寝つくことができず夜を過ごすことがままある。ようするに「眠った」と思えない。それなら開き直って疲れるまで起きていればいいのだが、人らしい生活を望むピアはそうしようとはしない。そんなことをもう何百年と続けてきたのだから今さら気分が悪いなどとは思わないが、それでも一睡もしないまま迎える朝はいつまで経っても好きになれそうにない。
　が、一揆に参加するようになってから少々事情が変わった。戦いに明け暮れる日々のせいだろう。短時間ではあるがピアはまともに眠れるようになっていた。一揆が終わっても、身体を動かすようにしようかな——ピアは背筋を伸ばしながらそんなことを思う。
　たいして家具もなく、過剰と言えるほどに整理整頓が行き届いたピアの部屋は一見すると無感動で冷たいものに見えるが、よく見れば食器棚はティーカップが取り出しやすいように置かれていて、部屋の片隅に飾られた花と植物は熱心に育てなければこうはなるまいと思うほどにみずみずしい。わかりにくいが、それでも確かな「生活」がこの部屋にはある。
　目覚めたピアは、すぐに自室を出る。「朝の準備」というやつも不要のため、ピアの部屋には姿見すらない。
　部屋の外には、フェアリーとノームがいた。

　この二匹は頼んでもいないのに、こうして朝に待っていることがある。お節介だとピアは思う。思うのだが、エンブリオには極力干渉はせず戦闘時に力を貸してもらっているだけなので、純粋な好意からきているであろうこの行動を、適当にあしらえないでいる。
　——まあ、悪い気はしないが。
　そんなことを考えていると、視界の端でノームが動いているのが見えた。

　フェアリーもノームも言葉を使えない。エンブリオ同士の意思疎通は可能なようだが、言語とは根本的に違うもののようだ。
　まあそれでも案外なんとかなるもので、共に戦っているうちに言いたいことはなんとなくわかるようになった。とくにノームは身ぶり手ぶりが派手なためわかりやすい。

　ピアはポポロの部屋の扉を一瞥してからそう言って、さっさと歩き出す。フェアリーは慌ててピアの後を追い、ノームはどこからともなく白いハンカチを取り出して手を振ってピアを見送る。
　一歩分の距離をとってついてくるフェアリーの気配を背後に感じながら、ピアは歩く。

　沈黙が少し気まずい。
　それは相手のことを気にしているが故の気まずさだ。少し前のピアならそんなこと考えもしなかっただろう。
　こういうとき、ポポロとはどうしてたかな——そんなことを考えていたら、リチェッタの扉はもう目の前だ。ピアは思わずホッとしてしまう。スタンド黒板には「本日のオススメ『りぽぽたんD』」の文字。ちょっとため息が出てしまう。扉にかけられた両面板の「CLOSE」の文字を指で弾いてから、ピアは店内へと入っていく。フェアリーもその後を追う。
　夏祭りから数日後。
　何かが変わった気がするが、それが何かはわからない。
　それでも結局はいつもと同じ、少しだけ慣れてきたメルンテーゼの日常がはじまる。
　——さて、今日は一体どんな騒ぎが起こるやら。
　先のことを想像する。ピアの口元が、少しだけ吊り上がった。

　　　＊

　ポポロ・ダンドリオンに時間の概念はない。
　皆が寝静まる時間にポポロも姿を消すのは大抵の人が——主にピアが——活動していないからだ。では実際何をしているかと言えば不明で、ポポロの自室を見てもその姿はどこにも見えない。目に見える調度はどれもこれも真新しく、部屋の中には「生活」がどこにも感じられない——いや、唯一食器だけは、使用した形跡があった。それはタンポポ荘の住人が、稀にポポロを訪ねてくることがあるからだ。しかしそれだけでは、この部屋から伝わってくる「誰も住んでいない」というイメージは拭いきれない。
　音もなく、ポポロが天井から出現した。
　重力を感じさせない着地。ふう、と深い息を吐いてから、閉じていた翠緑の瞳を開く。
　そして、花のような笑顔。
　そのまままっすぐ部屋を出る。
　部屋の外には、ノームがいた。

　言っておくが、ポポロはノームの「言葉」をわかるわけではない。ただなんとなくで言っているだけだ。

　……なぜか会話が成立しているように見えるのは、陽気な性格の者同士、通じる部分があるのかもしれない。
　ポポロは上機嫌に歩き出し、ノームは嬉しそうにポポロの頭に飛び移る。
　ポポロとピアの自室である管理人室とリチェッタは目と鼻の先だ。少し歩いて、二つ角を折れればもう見えてくる。
　最初の角を曲がったところで、アルラウネがいた。ノームの身体が見て取れるほどに硬直する。

　ポポロの声にアルラウネが振り向く。フェアリーやノームよりも一回り大きい、アンティークドールと同じぐらいの背丈。口をへの字に曲げていて、とても不機嫌そうな印象。

　明瞭で鋭い声色。どうやらアルラウネはしゃべれるようだ。
　そしてその口調にはさして機嫌の悪さは感じられない。もしかしたらこういう顔つきなのかもしれない。

　それこそ朝の挨拶のような気やすさで、アルラウネはそう言った。
　ポポロをマスターと呼んだにも関わらず、明らかに見下した態度。くすくすと笑うことを隠そうともしない。
　頭上にいるノームが手足をばたばたと激しく動かすと、アルラウネはさらに機嫌悪そうに眉根を寄せる。

　舌打ち。苛立ちと敵意が均等にアルラウネの表情にあらわれる。

　ポポロの疑問の表情が、今のアルラウネには馬鹿にされているようにしか見えない。
　攻撃的で棘のある、相手にどう思われようが知ったことではないという言葉が、アルラウネの口から漏れ出る。

　言葉とは裏腹に、アルラウネは不愉快そうに背を向けて、その場から立ち去ろうとする。
　しかしポポロは、場の空気などまるで知ったことではないという感じの笑みを浮かべ、

　直後。
　弾丸と同じ速度で、薔薇の棘がポポロの頬をかすめた。
　普通なら血が出るはずが、ポポロの顔には傷一つつかない。

　そう言い残して、今度こそアルラウネは立ち去った。
　ポポロはその場で少しだけ呆然としてから、にへらと笑って、

　それに、と言葉を付け足して、

　ふふ、と子供がいたずらを思いついたときに浮かべるような表情をするポポロ。ノームが再び頭の上に飛び移って、その場で妙なリズムの足踏みをする。

　踊り出しそうな足取りで、ポポロは歩き出す。すぐ先の角を曲がって進めば、見慣れたリチェッタの扉がそこにある。スタンド黒板には「本日のオススメ『りぽぽたんD』」の文字。思い出し笑いが出る。扉にかけられた両面板を「CLOSE」から「OPEN」にひっくり返して、ポポロは店内へと入っていく。ノームが頭の上で踊っている。
　ポポロが大好きなカフェバーに、ポポロが大好きなピアがいる。

　さて、開店はしたが、しばらく客はこないだろう。
　なら今のうちに、話してしまおう。
　ポポロが嬉しそうにピアに駆け寄る。ピアはその気配に気づいて不審な顔をする。何百年も付き合っていれば、足取りだけで察するものがあるのかもしれない。つまり、またロクでもないことを思いついたに違いないという予感だ。
　手を伸ばせば触れあえる距離まで近づいて、ポポロは「いいこと」を語りはじめた。

　星屑の小川に案内してもらったポポロが、物珍しそうに周囲を見回している。
　そんなポポロを嬉しそうに眺めているロッテ。
　そして、ピアとクーリアは——なぜかどこにも見当たらない。二人はまだそのことに気づいていないようだ。

　ポポロに上目遣いからのお願い
　こんなことをされてしまってはロッテも上機嫌にならざるを得ない

動きにくそうにしているのを感じて少し拘束をゆるめ、空中で支える程度にする
もうゆるめても大丈夫だと判断したようだ
支えつつも、表情を見れる程度には離れ　前よりは安心出来る距離感になった気もする

"タンポポ荘はポポロ"と言われ、何かつながってるのかな、と観察をする
もちろん成果は上がらないが調べることに意味があるのだ

緑の推進機の光をチカチカさせながらいつでも発射できるよアピールをする
このまま良い返事をすれば連れて行ってくれるかも知れない

どんな修羅場を潜ってきたのやら・・・
　

まるで反省がないようだ。（きっとまだまだ逝ける）

突如出てきたもう一つのサングラスにびっくりしつつも返されたサングラスを受け取り、かける

ウン万円のサングラスがわずか数秒で複製されてしまった！

うずくまりながらも技術者根性かプライドからか、説明を始める。
しかしどうしようもない機械だったようだ。

しかもなかなかに物騒である。

今更気付いた。

そう言いながらラゼルの方を指し

名乗ってもらったことでようやく違和感を覚え

ゆっくりと喋りながら確認してみて、逆だった事に気付きます。

ようやく間違いに気がついて、頭を下げます。
頭を下げると耳が当たりそうになるかもしれませんが。

周囲の様子を見回しながら質問してみます。
そもそも箱に入って運ばれてきたのでここが何処かもわかりませんでした。

入ってきた箱を指し、それが部屋でも良いから、と言い出しました。
どうやら住居自体よりもその住環境に興味を持ってやってきたようです。

妙な回り道をした気がしますが、ようやく希望を直接伝える事か出来ました。
首を傾げて、お返事を待つのみです。

　※カッパにかけられた水です

ポポロとロッテの姿を認めたピアはそちらに合図を送ると、
すっかり萎縮してしまっているクーリアのほうに向き直った。

　まともに顔も合わせられず、俯いてしまう。
　気にするなと言われて、それができるような性格でもなかった。

　しばらくはこの調子だろう。
　もう放っておこう。