▼閑話　〜 Long Long Ago. The story of Thousand cherry blossoms.


むかしむかし——

　あるところで、とても大きな戦が起こりました。
　戦はやがて、片方の勝利となって長き時代を終わります。

　ですが、戦を勝利に導いた若将は、なぜか総大将たる兄君さまより疎まれてしまいました。
　兄君さまに責め立てられ、若将は諸国を逃げ回ります。

　ある時、若将は長らく離れていた忠臣と合流を果たしました。
　再会を喜ぶ若将でしたが、ふと首を傾げます。

　忠臣がひとりだったからです。
　若将は、自分が愛する女を、彼に護るよう託していたはずなのです。

　不思議に思い尋ねるも、忠臣は知らぬ存ぜぬと繰り返すばかり。
　もしや兄将へ叛心したかと、愛刀薄緑を抜き放ちました。
　敬慕する主人に刀を向けられ、惑う忠臣は平伏して弁解を繰り返します。

　そこへ取り次ぎが、もうひとりの忠臣が女を伴って現れた、と伝えてきました。
　同じ顔の忠臣が２人に増え。
　されば混乱と騒乱の最中に片方が消え、再び１人に戻ってしまいました。

　１人が２人に、２人が１人に。
　本物が見分けられず、若将は抜いた刀の納め処を見失い、困り果てます。

　彼の刀を抑えしは、後の者に付き添われてやってきた若将の愛妾でした。
　彼女は言います。私が、消えた忠臣を呼び戻してみせましょう。

　先の戦のおりに若将から与えられた宝鼓。これを、愛妾は見事な手並みで打ちました。
　澄んだ音色が響くと、不意に現れしはもうひとりの忠臣。
　愛妾は、若将より預かりし薄緑にて切り掛かります。

　不思議に現れし忠臣は、刀筋をひらりと躱して叫びました。

「おのれ白拍子。其の鼓、我等が姫の現身と知っての狼藉か！」

　鼓の音色がまとわりつき、偽の忠臣は遂に正体を曝け出します。
　その姿、紅緋に燃える逆毛をなびかせた、口蓋裂けし大狐。

『聲を聴け、我が紅の壱尾。いまや憎むは人に在らず。
　我は静と共に在り。空海との約定を果たさんが為、そなたの回帰を望むものなり』

　鳴り響く音色は白焔となりて、大狐の身を熱く焦がします。
　やがて大狐は敗北を悟り、一声嘶くと、愛妾の元へ深く頭を垂れました。

「我が名は "燈"、薔薇の燈なり。
　我が姫、"鼓" に刻まれし古き契縛に基づき、不承ながら恭順せん」

　憎々しげに伝えると、大狐はふつりと消え失せました。
　白と緑と黄の色を持つ宝鼓に、何故か、ほのかな赤の輝きが混ざります。

　かくして忠臣の疑念は晴らされて、若将は愛する女性を強く抱きしめたそうな。

——めでたし、めでたし

　手を振って遠慮する。
　夏祭り以前のポポロは、飲み物を差し出されても断っていた。
　そして、「人ではないのか」というツヅミの言葉に、意外そうな顔をして、

　何でもないことのように、あっさりとそう言ってのける。

どちらかというと使う側だが、飼うという概念は理解できる様子

狐としては外せない食べ物、
しっかり出汁をきかせて煮込まれたものらしくわずかに芳香も広がっている気がする

ちなは嬉しそうに素手でつかみ
フェウの方は抱き付くわけにも行かず念動力でつかんで受け取る

二人とも油揚げほおばっていく

たとえばーと言いながら髪の毛の中から紅く鈍く光る硬貨を取り出して見せる

どうやらツヅミさんもそこそこ長い間生きいる感じがして、直球で聞いてみるちなさん

耳元に息を吹きかけてつつそう甘く囁いた

月をつまらない星と思うか？というツヅミの問いには首を横に振り

ツヅミの顔を見つめて問う。
そしてお茶を飲むのを眺めながら話の続きを待ち。

よくわからないままにもツヅミの言葉を繰り返し

その質問には大きく目を見開いた後に笑うと

先生に教え込まれた答えをなんの疑問も抱かずそのまま復唱した。

軽く会釈をしてから、自分の名前に苦戦している様子に苦笑を浮かべる。

そう語る青年の足元、彼の膝丈くらいの背丈の少女が背後に隠れるようにして見上げている。

少し躊躇いがちの告白。内容に比べ、その表情はさほど深刻そうではない、が。

そういう意味では、反対する者がいるだけ、この国の方々は幸せかもしれませんねぇ・・・と、暗い笑みを浮かべながら、呟く。