私の村を襲ったあの魔物——確か、将軍を名乗っていたが、頭に血が昇っていたので覚えていない——を、今日、殺した。
みんなの、仇を討った。
私達が通る事を予想していたのだろう。山間に布陣し、待ち伏せていたが、此方も来るのは読めていた。
この霊峰を越えれば後はオリニヴィスの王都が間近となる。
そうなれば軍もいるし、行動に一気に制限がかかってしまう。
奴の目的がこちらの宝玉である以上、どうしても狙わざるを得ない。

奴は将軍を名乗るだけあって恐ろしく手強かった。
出てくる事を予想し、対策を取っていなければ負けていただろうと思う。
それでも勝てたのは、まず相手が油断していた事が大きい。
たかだか人間相手に全力を出す事は恥とばかりに手を抜き、追い詰められてからやっと本気を出した。

もう一つは、土地。霊峰と言うだけあって、此処は水の魔力が非常に強い。
奴が得意とする炎のブレスは、威力が大きく損なわれ、逆に私の得意とする氷や水の魔術は普段の倍近い威力となった。

戦闘は予想以上に上手くいき、始終一方的な展開だったと言えるだろう。
本人よりも、むしろ配下の魔物の方が厄介だったと言えるくらいには。


書いていて思ったが、私は今、気分が良い。
戦闘の高揚が過ぎた後、報復に恐怖したり死した村人達へ涙を流したりするかと思ったが、それもない。
この日記を私は笑顔で、肩の荷が下りた気分で書いている。

みんなの仇を討てて、最大の障害もこれで無くなった。
後は王に宝玉を渡せば、ディラックとグリフの使命も果たされる。
魔族の侵攻にも大きな影響を与えるはずだ。
まだ到着したわけではないけど、二人も同じ気持ちなのだろう。表情は明るかった。
宝玉を渡したのは二人の国の王だと言うから、これで将来安泰じゃない？　と冗談を言うと、グリフもそれに同調し、ディラックは少し暗い顔をしながらも、嬉しそうだった。

後3日も歩けば到着できるらしい。
ここまで悪路ばかりだったし、王都に到着したらまず柔らかいベッドでゆっくり休もう。







信じられない。信じられない。許せない。今思い出しても腸が煮えくり返りそうだ。
宝玉を王に届ける為、衛兵に伝え、王に面会した。ここまでは良い。
だが、宝玉を渡し、控えていた魔術師は「贋物だ」と言い、私達は牢に入れられた。

最初は魔術師が嘘を言っているのだと思った。
奴は魔族か、魔物に憑かれていて、私達をハメるつもりなのだと。

だが、牢に入れられてすぐに、何を思ったのかそいつは牢に入れられた私の所にやってきて、偽の宝玉と、一冊の魔道書を渡してきて、魔導書のページを開いた。
そこに書かれていたのは、魔力がかけられた品か、それとも普通の品かを見分ける初歩の魔術——鑑定の魔術だ。
自分で調べてみろ、という事なのだろう。
そいつは他の二人も無事だし、恐らく数日もすれば出られるだろうと言って出て行った。
幸い、時間はたっぷりあったし鑑定の魔術を使い、自分が納得のいくまで調べ上げた。


そして、確信した。

これは、間違いなく贋物だ。


私は混乱した。
ディラックやグリフが嘘をついていたとは思えないし、そんな事をする意味が分からない。
すり替えられたのか？
それとも、条件を整えないとただの宝石でしか無いのか？

混乱していると、私は牢から出された。
ディラックとグリフも。グリフは疲れた様子だったが元気で、けれどディラックは暗い顔だった。

私達は兵士に連れられて、王の前に連れて来られた。
牢獄からいきなり王の前？　何の用で？　わざわざ王が近くにいなければならない事なのか？
何かを聞くつもりなのか？
あれこれ考えながら、茫然としていると王は言った。

「ルートを逆に辿り、宝玉を探索せよ。報告は１月に１度。無ければ全滅したものとして扱う。ただし発見した時は、それをすぐに報告する事。報告はこれに話しかければ良い」

と言うと、牢に来た魔術師が私に石造りの置物を渡してくる。
私がそれを見ている間に、王は「以上、諸君等の健闘を祈る」とだけ言って立ち去ってしまった。
魔術師も後に続こうとして、私に一言「嘘をついてすまない」と言った。

私には全貌が見えていなかったのだ、その時は。
だから怒りもしなかったし、ディラックの行こう、という声に、首を傾げながらも従った。
グリフは、さっきの話で何か分かったらしい。唇を噛み締めていた。


その日、宿を取った私は二人から説明を受けた。

ディラックは、ネフリティスの王子だった。
宝玉を渡したのはディラックの父親であり、その時は「魔族の侵攻を食い止めるのに必要な品だから、息子であるお前に託す。必ずオリニヴィスの王に渡して欲しい」
そう言われたのだそうだ。

…グリフが後でこっそり話してくれたのだが、ディラックは末の、妾の子で、兄と違って武勇にも政治にも突出した才能を見せず、王からはどうでも良い存在としてひどい扱いを受けていたのだそうだ。
だから今回の使命を聞いて「これで認めてくれる」と、とても喜んでいたらしい。

…だが、その気持ちは裏切られた。
ディラックの父王は、偽の宝玉を渡し、その情報を魔族側の内通者に密かに流したのだという。
つまり、囮だったのだ。

本物の宝玉は武勇に優れた兄王子に渡し、そちらには護衛もつけて別ルートで向かわせたのだと言う。
ディラックには、護衛などつかなかった。
グリフが同行しているのも、彼の里が魔物に襲われ、ディラックに助けられたからなのだと言う。


しかし、結局着いたのは私達だけだった。
兄王子の方は連絡が取れず、予定をずっと過ぎた今でも辿り着かない。
トラブルに巻き込まれているのか、それとも死んでしまったか、宝玉を奪われたか。
それを調べる為にも彼が通るはずだったルートを逆に辿り、兄王子を、駄目ならば宝玉を見つけろと。

見つけたら見つけたで、それを取って来いと言うのだろうな、と何となく思った。
私は王様を今まで絵物語でしか知らなかったけど、王様は勇敢で、可哀想なお姫様や怯える民衆を助ける存在なのだろうなと心のどこかで思ってた。

それは間違いだった。
奴等にとって、私達は道具だった。
国にとっては取るに足らない、価値の無い存在。死んでも補充が効くもの。
牢から出た時だって、ディラックが王子でなければ兵士を通して一方的に命じていただろうと確信する。

私はすごく頭に来た。
今すぐに宿を出て、王をブン殴ってやろうと思ったくらいには。
でもそれは、ディラックが瞳に涙を湛えて、私に何度も謝ったせいでどっかに消えてしまった。

ディラックは自分のせいで、君の故郷をあんな事にしてしまってすまないと言った。
自分を恨んでも良いし殴っても良い。気が晴れるのなら、この使命を果たしたら殺しても良いとまで。

もちろんディラックを恨むわけがない。
悪いのは全て、その父王だ。
そう言うと——ディラックは、とても悲しそうな目をした。

その目を見て、思ったのだ。
ディラックはきっと、自分が父にとって取るに足らない、価値の無い道具だと知っている。
彼がどれだけ頑張っても、報われる日など来ないと知っている。
けれど。それでも。
彼は父王を敬愛していて、彼の役に立ちたいのだろう。
そう、思った。







明け方に、ディラックは一人で出て行ってしまった。

夜、私は「足が速いから追いつくのが大変だった」と文句を言いながら笑って
グリフは「少しは鍛えろ」と呆れたように笑って
ディラックも、嬉しそうに笑っていた。

また、しばらくの間は野宿生活になりそうだ。

　そう言いながら、ロッテは頭上で棒をくるくると回してみせた
　とても危ない

　大人しく説明を聞いていたクーリアだったが、話を聞いてるうちに、徐々に顔が赤くなって

　思った以上に『刺激的な話』のハードルが低かったようである。

ほうほう、とフィーグルのマシンガントークを黙って聞いていた後、口を開く。

ほうほう、とフィーグルのマシンガントークを黙って聞いていた後、口を開く。

　

「魔王の友達が出来てしかもちゃん付けできるなんて、皆に自慢できるじゃん〜」
とはしゃいでます。

自分の事をおばさんと呼んでけらけら笑います。
場を和ませる冗談のつもりの様です。

前向きな言葉の聞いて信頼したのか、身体がこうなった理由を躊躇いなく話し始めます。

そんなことがあったんだ…と、興味深そうに魔王関係の話を聞いています。

何かを言い掛けつつも話すのを止めてしまった様子と表情に気付いて、「んーーーー」と多少わざとらしく悩むような仕草をします。

興味はある様ですが、基本的に気を使って無理強いはしないスタイルの様です。

この世界では珍しくないようだけど、とその言葉に軽く肩を竦め。

　そう言えば、持っていた杖を軽く掲げた。
　これが彼女の武器らしい。