夢を見た。
　赤く色付いた森の中、私は一人でただただ歩く。夢だからか音は何も聞こえなくて、森はとても静かだった。
　これは夢だ、と思いながら見る夢だった。けれど、夢の中の私は、私じゃないみたいにひたすら歩みを進める。
　森の主様を祀る祠が見えた頃に、私は目を覚ました。

　赤色は馴染みのある色だ。秋に森を染める色であり、森に咲き誇るネクターの色でもある。
　周りを見れば、ベリーやコケの緑、青、黄。点々と見つかるキノコの茶や白。多くの色が見つかるけれど、それでも赤が一段と目を惹く。
　鮮やかで暖かな色。いのちの色。
　私たちの森は祝福の森とーーシウナウスの森と呼ばれていたけれど、その祝福は命を喜び祝うものなのだと教えられたのは、いつのことだったか。

　今頃は、雪の白が森を覆っているはずだ。紅葉の時期はとうに過ぎている。
　季節外れで、しかもただの夢だけれど、久々に見た故郷にどこか安心を覚えた。
　……母様や父様は、どうしているだろう。元気だろうか。



　***



　今日は、久々にトーコとウィルの二人と行動する。もちろん、ミハウも一緒に。
　森でその二人と別れた後に、ミハウと話をした。どちらが言い出したのかは覚えていないけどーーまたいつか会った時に、少しは頼ってもらえると良いね、と。
　トーコとウィルに頼り切っていた、なんてことは無い。けれども、頼っていなかったかと言われると、それは嘘だ。私もミハウも、同じようなことを言っていた。
　あの時と比べたら戦いの場数も少しは踏んだし、エンブリオとの契約も結んだし、できることも増えたはずだ。
　大丈夫、私はちゃんとやれる。
　だから今日は頑張ろう、と思った。

二人の姿が見えれば、ぱっと表情を明るくして。

それから、あ、と小さく声を上げて、トーコへ目を向ける。

ウルヘアの言葉に対して、
フレアサンダーも獣の言語で言葉を返す。

フレアサンダーとウルヘアの間で
完全に意思の疎通を図れていることを
コトカに悟られることは、
相手側には都合が悪いのかもしれないと、
気にしているようだ。

無感動。
そう表現できる程度には、何の感情も窺わせない声だった。

コトカの問いに対しては、一度だけ頷いてそう答えた。

客観的な、乾いた目線での物言いだった。

苗字の件はうやむやにしたようだ

もったいぶるように手を口の前に当て、輪っかをつくり口笛を吹く。
犬笛のような高周波数の音が周囲に響く……が、並の人間には聞き取ることはできず、ただ口の前に手を置いたとしか取れないだろう。

土をかきわけ、新しいにんじんが出現した。
手には槍を持っている。


槍を持つにんじんは、コトカにも目もくれず、先のにんじんに向かって歩き、

興味をそそられたように、問いを重ねて。

申し出には、笑って頷き。

ほんの少し、嬉しそうにそう言って。

　コトカに撫でられて鳴いたウルヘアを見て、つい手を上げそうになったのを抑えた。

　触りたくて仕方ないようだが、一応頑張って耐えてる。凄く耐えてる。

　立ち塞がる敵は、いつもより一層、異形さが際立っていた。思わず身構える。
　それから、ふるふると首を横に振った。

　イヌワシは羽ばたき、杖に括りつけられた結晶がきらりと輝いた。