—航海日誌十五日目—

勝った。
あの大きなイカを、屠った。
俺の手で！
俺の銛で！
鯨ほども大きいイカを屠った時、俺の中で何かの歯車がカッチリ噛み合った感覚があった。
きっと鮫に足を食われた時からずっと狂っていた歯車が、ちゃんと元に戻ったのだろう。

もっとも、ホントのホントに元に戻ったってわけじゃない。
やっぱりまだ海に対しての苦手意識というものは、心のどこかにある気がする。
しかし、帝王イカと対峙してわかった。
結局俺はどこまでいっても鯨捕りなのだ。
エラ呼吸しかできないのだから、無理に陸に上がってもしょうがない。
海に帰って、ゆっくり慣らそう。
どうせ俺は海の男だ。
そのうちひょっこりと、また海を往けるようになるだろう。

とはいえ、一揆はきっちり済まさねばなるまい。
乗り掛かった舟、というやつだ。
きちんとすべてが終わったら、漁港に帰ろうと思う。

（この日の日記はここで終わっている）

へらりと笑いながら失敗談を語るケンドリックはずいぶんと楽しそうだ。

そう言って笑うシーガルは、不思議とどこか清々しげだった。

外套の襟を合わせながら前に出た。

担いでいた銛を軽く振ってから逆手に持ち変える。
銛を撃ち出すための構え。鯨捕りが誇りとする、戦の構えだ。

ダミーボックスになにやら恨みがあるのか、ケンドリックはしばらく顔をしかめていた。

射手の縫われた眼を気にしつつ鞭を構えた。

視線の先には、目を縫ったエルフのような男。
ニヤリとサメのように笑い、担いでいた銛を軽く振ってから逆手に持ち変える。
銛を撃ち出すための構え。鯨捕りが誇りとする、戦の構えだ。