「…貴様は、何者だ？」
　問う。声音には、僅かながら苛立ちが含まれていた。

周囲は、激しい光と熱に包まれていた。全ての生あるものを拒むかのように、室内は燃え盛り、空間が歪み、揺らいでいる。そんな状況下において、二つの人影が伸び、対面していた。火の勢いを気に留めることもなく。

「炎は、神聖なものだ。一切を灰燼に帰す。何人とたりとも入りこめない聖域に、土足で踏みこむ貴様は…一体何者なのだ？」
　男が、問いを繰り返す。それは寡黙な男にとって、稀にみる感情の揺らぎであった。眼前の影を刺すように睨みつける。この予期せぬ邪魔者をどのような手段で排除するか。湧き立つ憎悪が思考を加速させた。殺害の手順は、いくらでもある。

「恥ずかしい御託並べてんじゃねぇよ」
　正面から放たれた言葉に、息を止める。
　そこにいるのは、長身の青年だった。体全体を炎に巻かれながらも、苦しむどころか、平然と、不敵な表情で男の前に立ちはだかっている。年は十代後半だろうか。髪は赤く染まり、逆立っていた。ボロ切れをまとったような衣服は、激しく燃え上がりながらも、どこか一定の形状を保ったままであり、まるで炎の鎧のようである。炎が青年を護っている——そんな連想が、さらに男の感情を逆撫でした。

「単純な話さ。アンタにとって、俺は越えるべき障害だ。終わりたくなけりゃ、全力でぶつかって突破すればいい。最後に燃え尽きるのはアンタか俺か、どっちかだろうよ」

　青年はゆっくりと腰を低くして、独特の構えの姿勢をとった。
「拳法か…？知らぬ型だ」
「ああ。こいつは俺のオリジナルだ」
　それは男からすれば、隙だらけの状態だった。即座の体勢の切り替えや相手の動きへの対応など、まるで出来そうにない。素人の構えである。…しかし、目の前の青年の発するそれは、若年であるとはいえ、決して素人の迫力ではなかった。

　なにもかもが、矛盾した存在。男が次に感じたのは、憤怒ではなく、困惑であった。声に出さず、今一度問いかける。自分は、何と対峙しているのか？

「武刃館が武閣が一人、トウカ」
　応えるかのように、青年が言い放った。
「感謝するぜ…アンタのおかげで、俺は自分が見えてきた。俺自身が掴めてきた。俺の、俺だけの力が…そうだな。『炎陣舞闘』とでも名付けようか？」

　これは、記憶。
「『炎陣武闘』、トウカ」
　遥か遠い世界、時の彼方。
「いざ戦場に、推し参る！」
　炎陣舞闘の誕生する、まさにその瞬間の。

フローリアは最前列に実体化した！

いつもと違う騒がしい様子に気づく。

周囲を見回すとどうもいつもの見知った数人が騒いでいるようだ。