（ENo.349 ウィルフレッド＝ヒルテンベルガーとの合同日記です
　ぜひそちらもお読み下さい！日記絵も提供しています。
　ENo.1195 ミハウ・クワイアトコウスキさんと
　ENo.1196 コトカ・ラヤヤルヴィさんをお借りしています）



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ミハウとコトカの２人と合流し、また４人になった透子たち。
離れていても気にかけてくれる彼らのことが、透子もウィルもとても好きだった。
透子が彼らに、別れ際に渡していたものがある。
それはプロフィールシート——“友達”に書いてもらうもの。

暗い地下牢の中、明かりの下で、受け取ったシートを眺めている。
もらった瞬間には、読むのよりもお礼を言う方に一生懸命だったから。

カンテラの炎が、音のない風でふらりと揺れる。
あ、と声が出そうになり、口を押さえた。
ミハウもコトカも休んでいる。起こしてはいけない。

透子は静かに立ち上がると、見張りの番で廊下にいるはずの
ウィルの元へと歩き出した。


　　「ちょっとうぃーーるっ！たいへん！大変だよ！」


小声で呼びかけながら近づく。
声を出せない分、大変さは、その動作の大きさで伝えようとしていた。
ウィルはすぐには振り返らず、ゆっくりと口元から煙草を離し
灰を落としてから、両手をじたばたと動かす透子の方へと首を巡らせた。


　　「また、そんなに慌ててどうしたいお嬢？」


透子は隣にぺたりと座り込むと、シートを差し出した。
ウィルにも見覚えのある、オレンジ色のプロフィールシート。


　　「これ見て！」

　　「おぉ」


にやり、彼が笑う。


　　「書いてもらったのか良かったじゃねぇか……へぇ、あの２人か」

　　「うん、すごく嬉しい」


ウィルが嬉しそうに眺めるのを見て、トーコも顔が緩んだ。
ついでにうっかり声が震えて、何度も瞬きをする。

　　「——あ、それでさ、ここ見てよ、ほら」

それを誤魔化そうと、自分の顔を見られないようにと、コトカが書いたシートの一点を指した。
ウィルはシートを見、自分の腕時計を見——。


　　「１２月１日、ねぇ……あれ、今日何日だぁ？……こないだじゃねぇか」

　　「そうなの、もっと早く知ってればさ。おめでとうも言ってないよ僕」


透子にとっては、“誕生日を祝う”ことも、やってみたいことの１つだった。
ウィルの誕生日に双眼鏡を贈る時も、とても楽しかったのだ。


　　「そんなしょげんなよお嬢、別に今からでも言やいいじゃねぇか？
　　　なんかプレゼントでもするとかさ」


ウィルの言葉に、透子は目を輝かせる。
さすが、分かってるぅ、とにっこりした。


　　「うん！僕、それを相談しようと思って来たんだ」

　　「ははーん、さすがお嬢だぁ、そうこなくっちゃねぇ」


ウィルの乗り気な声に透子のテンションが上がる。
しかし声をできるだけ抑えなければ、地下牢はすぐに声が反響するのだ。
努めて呼吸を落ち着けると、肩にかけたトートを膝の前へ。
中から、それだけで武器になりそうな分厚い通販雑誌を取り出した。
カバンの改良を頼むときにうっかり雑誌を入れっぱなしにし、職人さんを重さで困らせたこともある。
ウィルもどれどれ、と雑誌を覗き込んだ。


　　「お嬢この通販大好きだよなぁ」

　　「だってカワイイの一杯あるし、頼んだら明日来るし！」


支払いはファルもちだし、と舌を出す透子。
ウィルは、依頼主の財布の心配をしながら苦笑した。


　　「文明の発展たぁ恐ろしいもんだ……お嬢も恐ろしいが」


慣れた手つきで、女性用の服飾雑貨のページにあたりをつけて開く。


　　「僕ならアクセサリーかなー
　　　……あれ、コトカの耳につけてる飾りって、
　　　ピアスだっけイヤリングだっけ」

　　「いいねぇ、俺がアクセサリー送ってもなぁ
　　　……ん？あれだけチャームがデカイなら
　　　ピアスじゃねぇか？」

　　「じゃあウィル何にするの？
　　　……ピアスかあ、でもあれずっとつけてるから
　　　外して別のつけたりしないかも」

　　「んー、女の子にねぇ。何がいいんだぁ？」


思案するウィルをよそに、透子はヘアピンにしようかな、ブローチかな、
などと呟きながらどんどんページをめくっていく。


　　　「あ、お嬢今のページの可愛くねぇかい？」


すっ、とウィルの手が雑誌に伸びる。
透子は眼が良い。ページを繰る速度は速かったが
ウィルの動体視力も流石であった。
あ、カワイイ、と声を上げる透子。
指でヘアピンのサイズをつくり、自分の髪にあてたり胸元にあてたりと忙しい。
透子の賑やかな動きや雑誌の賑やかなページを眺めながら、ウィルがぽつりと呟いた。


　　「こう言うのは俺が渡すよりも
　　　……そういや、ミハウのヤツ何かしたんかねぇ？」

　　「あ、そうだねぇ、何かしてたらいいなぁ」


特に深い意味があるとは思ってないであろう、透子の返事。


　　「後でこそっと聞いてみよっか」

　　「よし、後で２人で『こそっと』聞いて見るか……」


だな、と頷くウィル。


　　「でもさっきのページのブローチも……ううん、両方にしようかな」

　　「お、両方いくのかい？」


透子は呻くと、荷物の底から見慣れない財布を引っ張り出した。
ぱちんと開いて中身を確認する。
なんだぁ？という顔で財布を眺めるウィル。
財布の中を見つめて勘定しながら、透子は硬い声で応えた。


　　「“友達”にプレゼントするのに
　　　ファルに払ってもらうなんてナイじゃん。
　　　前に、手伝いして貰ったお金があるんだ。
　　　ここじゃ使えないっていうから仕舞ってたけど」


”友達”と言うのに、その単語を使うのに、ちょっと緊張したようだった。
表情も強張っていた。照れたような、泣きそうなような。


　　「お、感心だねぇ……“友達”の為に使えるなら良い事じゃねぇか」

　　「うん」


ひゅう、と口笛を一つ吹いてみせるウィル。
だがその表情はとても優しげだった。
透子はそちらをしっかりと見ることが出来なかったが。


　　「——足りそう。よし
　　　……ウィルどうする？一緒にプレゼントってことにする？」

　　「良かった良かった、きっと喜んでもらえるさ
　　　……ん、あーちょっと待ってくれぇ」


よっ、とウィルが通販雑誌に手を伸ばす。


　　「ちょっと見せてもらってもいいかい？」

　　「うん、いいよー」


透子は既に雑誌から眼を離し、スマホを片手でぽちぽちと操作していた。


　　「おいおい、カートで止めといてくれよ？
　　　バラバラになったら送料無駄になっちまうぜぇ？」

　　「うん。詳しいねウィル？」

　　「なぁに、大人を舐めるんじゃねぇって事さ……」


くつくつ笑うウィルだったが、ふと一つのページで表情が真剣になった。
閃いた！と言う表情でその商品を指し示し、透子を呼ぶ。


　　「なぁ、なぁなぁ、お嬢これでどうよ？
　　　ほら、使った事もないんじゃねぇかなぁ」

　　「え？」


示されたページを見、きょとんとする透子。
ウィルの意図を図りかねたのだ。


　　「多分、こういうのは使ったことないと思うけど。
　　　……これ渡しても、使うところに悩むんじゃないかな、どうだろ」


その言葉にふふん、と鼻を鳴らすウィル。
そっと透子の耳に口を寄せる。


　　「だから、こいつでぇ……——」

　　「——それ、僕だったら絶対”ずるい、もう一回！”って言うよ」


透子は向き直ると、とても楽しそうな顔で、ウィルに人差し指一本立ててみせる。


　　「注文しておくね、明日まで２人には内緒で！」

　　「だろぉ？ＯＫ、そうと決まりゃ善は急げだ！」


ウィルも応えて、グッと親指を立てた。



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　　「プレゼント包装よし、——ウィル、そっちもセットできた？」


壊れた牢の１つでこそこそと、届いたばかりの箱を開封し準備する２人。
箱の受け渡しはコトカやミハウも見ていたが、一揆参加者との取引と思っただろう。


　　「ばっちりよん」


下準備を終え、ウインクするウィル。


　　「まずは一発驚かせないとねぇ」

　　「じゃん」


一緒に通販したのだろう、得意げに見せたのは、パーティー用のクラッカーだった。
ウィルに２つほど渡すと、自分も２つ構える。


　　「だいじょぶ、音ひかえめのやつ」

　　「お、ちゃんとゴミ回収できるタイプだな……よーし、行くかい？」

　　「オッケー」


牢を出て、しずしずと２人の方へ歩き出す。
コトカもミハウも、まだこちらを振り向かない。
ウィルに眼で合図する——。


　　「コトカ！」


透子は呼びかけると、両腕を伸ばしてクラッカーの紐を引いた。
ぽんぽん、と可愛い音を立ててクラッカーがテープを飛ばす。
驚いて振り返る顔に、更にウィルの放つクラッカーが降り注いだ。


　　「遅くなってごめんね、お誕生日おめでとう！」


プレゼントの包みを、顔の横で構えて見せる。
駆け寄って渡したいのは山々だが、まだ透子は前に出てはダメだった。
ウィルの邪魔になるから。


　　「はい、お二人さんいただきぃ」


パシャッ……ジー……
機械音とともに、ウィルの持つポラロイドカメラから写真が出てくる。
透子は抜き取ると、２人に向かって掲げて見せた。

二人の姿が見えれば、ぱっと表情を明るくして。

それから、あ、と小さく声を上げて、トーコへ目を向ける。

海に全身を入れるという概念自体、稀な故か。
真相は至極簡単なところにあったのだった。

フェチについては、ふぅん、と興味があるのか無いのか分かり辛い呟きを漏らして。

魔物、と答えなかったのは幸運だった。
まったく　別の意味に　聞こえてしまう！

遠い昔を懐かしむように、少女は語った。
それから、トーコのサングラスを見て。興味深そうに

魔法について問われれば

つらつらと並び立てる。実に楽しそうだった。
魔法フェチは伊達ではないらしい。

愛おしむ様に、目を細めた。
母親が娘を想う様な。老婆が孫の事を語る様な——そんな瞳。
少女には似つかわしくない瞳だった。
しかし、海にはいなかった、という言葉を聞けば。やっぱりね、と若者らしい苦笑を浮かべて。

なんて話をするのだった。

付き合わされる方の身にもなって欲しいんだけどな、と軽口を叩きながらも、
少年の声音には棘は感じられない。
それから、少女の様子に目を丸くして。

　立ち塞がる敵は、いつもより一層、異形さが際立っていた。思わず身構える。
　それから、ふるふると首を横に振った。

　イヌワシは羽ばたき、杖に括りつけられた結晶がきらりと輝いた。