クリスマスの朝早くから、てちてちとおしりを揺らせて歩き回る姿があった。
砂糖をたっぷり使ったシロップをかまどの上で煮詰める傍ら、天板の上にパイ生地を薄く伸ばして、
その上に砕いた胡桃を散らしてはまたパイ生地を重ねて胡桃を散らし……。
幾度も繰り返したあと、斜め格子に切り目を入れて、こちらはかまどの中へ。
作業が一段落したところで、先日購入したあと大事にしまっていた袋を取り出す。
「クロマ・セロシア」と店名の書かれたその袋から取り出したのは、赤いコート。
ふわんとしたAラインのシルエットで、夕日のような赤に南国を思わせる花のあしらわれた生地の切り替えが鮮やかで、
緩やかに広がった袖と、穏やかなグレイの襟とが見ているだけで暖かそうだ。

袖を通す前にもう一度広げ、目の高さまで差し上げて、まじまじと見つめる。

鼻歌交じりに袖を通す。髪を撫で、整える。
てち、とおしりを振りながらその場で回る。

そわそわ、うずうず。
鏡に映してみたい誘惑に耐え切れず、かまどを離れて水際へと足を向ける。
ちょっとだけ、ちょっとだけ。すぐに戻って火の番しなくちゃ。
そんな、少しばかり急いだ足は、ふと頬をくすぐる風に止まった。

食べてきた物を色々と思い出しているようだ。

ママゲタンに舌鼓を打っていたが。
ふと、彼の顔を見上げた途端、くすくすと笑い出した。

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そして、それから少し日が経ったある日の夜。
いつもと違う赤いコートでおめかしして、何かを後ろ手に隠して、うきうきと彼の後をついて歩いている。

出してきたのは胡桃のパイ。
薄く薄く伸ばしたパイ生地にバターを塗り、砕いた胡桃を散らしてまたパイ生地を重ねて…を繰り返した後、
格子状に斜めの切り目を入れて、焼いたもの。
それに甘いシロップをたっぷりかけて、冷ましてある。
口に運べば柔らかく、じゅわっとシロップが溢れてくる、甘い甘いお菓子。

どうやら、故郷ではクリスマスにこれを食べる習慣があるらしい。

(おいしそうなイカ料理を聞いて—)

嘘じゃないのがメルンテーゼ怖いです。

◆

(ジンジャーマンクッキーを見ると—）

食べるのが勿体無いのか、とっかえひっかえ手にとって眺めている—

　どこか納得した風にそう呟いた。
　確かに、目の前の彼女がテキパキ動いてる様を想像するのは難しい。

　なんて、こちらもくすりと笑ってそう返した。

　澱み無く楽しげに述べられる店と特徴を聞いて、感心した風に言う。

　それから説明したものの、想定しない姿勢を取られ、次いで座るだなんて言われれば。

　実演する気らしかった。

　兵士は怖い、と言う言葉に、やや視線を落とす。

鞄から飛び出してきたエンブリオが、くるくると回る。
回る。
回る。
２人の周りをひと回りするたび、翠の風のように透き通ったその姿が、少しずつ伸びてくる。
まるで影のように、長く、長く。
風が吹き上がる。
髪を揺らす。
ケープが巻き上がる。
たまご色の羽毛があたりに散った。
２人に並ぶように、いつの間にか並ぶ影があった。