かつ、かつと無機質な足音が響く。周囲を覆う壁は堅く、道行きは長い。城内へと続く道の一つ、がらんとした兵舎の中。
……私たちは砂地を暫く進んだ後、この場所へと足を踏み入れた。理由はそれぞれだろうが、名目としては様子見のため、それで一致している。
……本当は暑かったから屋内で涼みたかっただけだと思う。でも私以外は過酷な環境に慣れていそうな気がしたので、めげないためにも口には出さない。誰かほめて。
この場所を進むのは、少しだけだ。暫く進んだ後は、すぐに此処から脱け出すことになっている。仮にも『兵舎』だ、囲まれてはたまらない。少なくとも私はか弱い一般人なのだ。

「……しかし本当、思い思いに進んでいる。城攻めとはとても思えないね」

のんびりと歩きながら、小さな声でそう呟く。とても一揆とは思えないほど、参加者はバラバラだし、私たちも能天気だ。ごめん訂正する、私。それこそ、先の計画もあまり立てていないくらいに。
それは私がそんなに一揆に対して積極的ではないせいか、この世界の気質のせいか。もしかしたら、久しぶりに見知らぬものに触れて、高揚しているのかもしれない。この世界は知らないこと、知らないものだらけだから。

「まあ、能天気に看板なんて出しているくらいだしな」

期待していなかった返事がある。ヘイアンにしても、その気持ちは同様だったようで。革命やそれに類するものにしては、気が抜けすぎている。気分はピクニックも同然だ。同意の言葉を返し、会話をしながら、外回りに出かけたミモザが追いつくのを待つ。
この後はどうするのかっていうのは、よく決まってないけれど……山の方面へ進むことになっている。会話の流れはよく覚えていない。何故か、シィルがしきりにそちらへ行きたがっていたから何となく賛同しただけだ。考えていることといえば……山って、何が出るんだろう。鳥とかかな？


暫く話をしているうちに、外回りに出ていたミモザが帰ってきた。おかえりと、そう声をかけようとして。

「…………ミモザ？」

口をついて出る、心配の声。見れば、彼女の様子がいつもと違っていた。何か不安定な表情で、言動も怪しい。何より、顔色が悪い。
風邪だろうか……いや、少し違う気もする。今日は少し、気をつけなきゃいけないかもしれない。そんな、少し前にはなかった思考が過る。

前回はヘイアン。今回はミモザ。呪われでもしたかな、なんて思いながら、先を見つめる。薄暗い道の先には、敵の影。
……嫌な予感はしていたけど。もしかすると私が立っているのは、地面なんかじゃなくて——

そう言って示す先には。

額を抑えながら、深いため息を溢してフィアに視線を送る。

　そう言って簡単にフィアをリリースした

　そう言うと人魚の腹の部分が開き、中に入っていた脚を出し地に足をつけると
　人魚の下半身だった部分がもとのスリムな尻尾に戻り最初に見た時の姿となった

　地上からいい匂いが漂ってきた。
先ほど献上したポテトが焼かれているのだろうか。
通常なら、その香りは食欲を掻き立て、幸せな気持ちにしてくれただろう。

　しかし、今は違う。
ポテトを受け取って帰らずに、すぐさまこの場で焼き始めた。
これが意味することは一つしかないだろう

『次はお前が火炙りになる番だ』

そう、これはおそらく、死刑宣告のメッセージ。
ポテトなど受け取るに値しないという、怒りの表れなのだろう。
しかし。しかしポテト以上に価値のあるものは何も持っていない。
財布の中どころか装備も財布も先日強盗に奪われてしまった。
正真正銘の一文無しだ。

かくなる上は。

　上空から、糸電話にくくりつけられた雑草の束が下りてきた。

＼結局人力／

　
戸惑っていた顔から、力が抜ける。
穏やかな笑みが浮かんだ。

　

　

魔法とはいえ少々理屈っぽいものなのか、フィアの想像した所謂プログラムと類似した物のようだ。

少年は、忌み子として生まれた自身を守る為に、両親がその名をつけたのだと語る。
魔に異なる、真実なる子。それが、マコトという名の意味だと。

私は周囲をきょろきょろと見渡す。
ただ赤と緑と黄色の歪んだ空間があるばかり。
私の周りには、だれもいない。

困惑する視線の先には、混乱の真っ只中たる少女が一人。

快活な、いや狂ったような笑みを浮かべる少女。
先日食べたにんじんの効果によるものなのだろうか——。

そう言う彼女の隣には、青年と女性、バイクの姿だけがあった。

太もものホルスターから、呪いのこもった短剣を抜き放ち。
それで軽く左腕に傷をつけると、少女は凶暴に微笑んだ。

件の少女の視線。その先にある、喋るにんじんを見て押し黙り。

さんざん叫んだ。