ふう、と私は溜息を吐く。
先ほどの呪いを見てもなおこう言ってくれるのなら、彼女の決意は本物だ。

太腿のホルスターに仕舞ったナイフを一度、二度撫でて。
それから私は、口を開いた。

ある種突き放しているようにも取れる言葉。
彼女がそれで私を拒絶するのであれば、それでいい。
誤まった存在の私は、そうされて然るべきなのだから。

ニコレットはシセに一歩大きく歩み寄る。

澄み切った凛の星空。
無数に煌めく昏青の天幕。
それを見上げる君は、果たして何を想うのだろうか。
現か夢か、目先か周囲かそれとも後背か、此処か、何処か。
空は鏡に似ている。それは見たままに心を映し出す複製の其れではない。
即ち、空を捉えた際に去来したその感情の行方こそが鏡たる所以なのだ。
ならば果たして、この黒のその先に、君は何を想うのだろうか——

という長ったらしい前置きはそれとしてだ。


親方！　空から女の子が！


何を言っているかわからねーと思うが、私も分からない。
ともあれたった一つの事実が在る。空から人が降ってきた。
深々帽子にぶかぶか上着。極めつけに、顔にお札。
何処ぞのキョンシーを彷彿とされる其れは、君を見つけるとゆっくりと振り向いて。
まるで人形のように無機質に微笑んでから、ゆるりと口を開いた。

無機質どこいった。

……君はこのわけのわからない生き物を相手にしても良いし、
関わり合いにならない方が身の為と踏んで退散しても良い。