戦闘は苛烈を極めた。
魔王がただ一言発するだけで最上位の炎熱魔法たるインフェルノの炎が周囲を焦土へと変え、指先を向ければ光線が放たれありとあらゆる防御を貫き通す。
何より、こちらの攻撃はあのバリアとやらに阻まれて全く通じない。
唯一、ディラックの"聖剣"を除いて

必然、戦闘の中心はディラックとなる。
こちらはディラックが攻撃できる様にサポートをし、魔王はディラックの攻撃をいなしながら彼を倒そうとする。
聖剣を扱えるのは"勇者"たるディラックしかいない以上、必然であると言えた。

ただ、このままではまずいと、全員が確信する。

——司祭の話によれば。聖剣とは魔王に対しての特効性を有する唯一にして究極の兵器。
魔王が持つ、ありとあらゆる魔術を、武器を、異能を無効にし、神の名の下に切り伏せる絶対の一。
事実、グリフの破魔矢も、私のあらゆる魔術も難なく防いだバリアなる異能は、聖剣の一撃の前には薄紙も同然だった。

ただ、魔王もさるもの。
逆に言えば、聖剣以外の攻撃は魔王に通用しないのだから、聖剣にさえ注意を払えば良い。
他のすべては彼に届かないのだから。
そして、聖剣の弱点はあまりにも単純明快だった。

「…一撃受けてから、遠距離戦に持ち込んできたな」

グリフの言葉に、頷きを返す。冷や汗が首筋を流れた。
何の事もない。剣である以上近づかなければ攻撃はできない。
ならば、距離を保ち続けられれば攻撃を受ける事もない。

それを知っているからこそ、広範囲の大魔法を壁にして牽制し、動きが鈍ったところで距離を離し、光線で確実にディラックを仕留めにかかる。
聖剣は魔王の魔術である、光線や大魔法も破壊する事は可能なのだが、光線は見てからの回避が不可能な程に速く、大魔法は破壊しながら前進するにしても、広範囲を一度に攻撃する事はできない。

かくして、この攻防が二度続いたところで、詰みを悟った。
大魔法に対してグリフが破魔矢、私がディスペルマジックを仕掛けてみるも弱まる気配すらない。
魔力の量が桁違い過ぎるのだ。
ヴィルムの法術や私の魔法でディラックを護ってはいるが、正直なところ、焼け石に水でしかない。

ディラックを肉薄させない限り、魔王に傷一つ与える事はできない。
しかし、魔王のあらゆる行動に対して効果があるのは、ディラックの聖剣だけなのだ。
私達にできるのはディラックのサポートをする事だけで、しかしディラックのみでの突破は絶対にできない。

二度の攻防でそれを悟り、心に絶望感が広がる。
今までも何度も危機的状況になった事はあったが、それでも皆がいたから乗り越えられた。
だが、それはその状況下において自分が何かできたからに他ならない。
何一つできない。ディラックが命懸けで戦っているというのに、自分は。

「すみません、ディラックさん。私、私は、何もできないで……」

何度目か分からない回復を終えて、ディラックが心中の絶望を謝罪という形で吐露する。
…それは、私やグリフの心にあるのと同じもの。
だから攻める事はできない。
たとえ彼が、否定の言葉を返す事を知っていて——浅ましくもそれを欲しているとしても。
正直なところ、何でも良かった。
子の絶望を一時でも跳ね除けられるのであれば、仮初の許しでも何でも。

「……いや」

ディラックが剣を構え、向かってくる光線を引き裂き滅ぼす。
目線は真正面に、剣を水平に構えて。
やはり否定してくれた。
安堵と、嬉しさと、僅かな罪悪感が胸を打つ。
だが

「まだ、できる。俺一人では突破は不可能だ。
　いつもの様に、頼む。俺も力の限り期待に応えよう」

「————」

その言葉で、彼は絶望を吹き飛ばした。
何の事はない言葉だ。
彼は事実をありのままに言って、助けを求めているだけにすぎない。
——だが。それで十分！

まだディラックは、私達がこの状況でも何かできると信じてくれた。
私達の期待に応えると言ってくれた。
なら、私達が期待に応えなくてどうするというのか！

間髪入れずに即答する反応(食付き)の良さ。
そのままだとまたトリップしかねないのでよじ登った人形もまた髪をグイグイ。
なんとも健気（？）な光景である。

言ってることがお花畑…に聞こえて、何故かゾクッとするような黒さも滲み出ている様にも…。

そうですねぇー…と呟きながら、頭を捻って考え…

確かに服装から見てみれば形状や色はちょっと違えど似ていた。
違うところはシトロンは白い服。フレーズは黒い服でケープをしている。

フレーズは相手を呼ぶときあだ名で呼ぶことが多い。

妙に感がするどい二人である…。
もしかして魔王なのを気づき始めてる気がする。

ある意味厄介なタイプだった。

　目をぱちぱちさせながら言う顔を、よくよく眺めれば黙ってさえいればある程度大人っぽい顔立ちをしています。
表情や口調、動作がゆるーいのでそうは思いませんが。

　現地民にもまったくさっぱり。そもそも王様についてなどド田舎娘が知るような事はありません。
変わったぞー、しかもなんかやらかすぞー大変だーくらいの勢い。

　捉え方が軽いですが、案外的は射ているのかどうなのか？
外に出る≒いたずらなのは性分でしょうが。いずれにせよ深刻には聞こえません。

そう言いながらも、わざわざ目の前でメモをした。

次々とパーソナルデータが書き込まれていく。これが、次回以降の悪戯などに活かされます。

だんだんと杖に集まっていく魔力を見て、1歩ずつ後ずさりし逃げる態勢に入ろうとしている。