[ side of Krisna　]

わたしは、わかっていた。
負けるとわかっていて、仲間が倒れるまで退却を判断できなかった。
圧倒的な暴虐にさらされた背中を見て、引くのではなく踏み込んだ。
渾身の一撃が、たいした意味を成さなかったことも動揺はなく。
二人目の仲間が倒れる音を聞いて、残った一人と目配せをした。

「ヴァルナの加護を……」

ギュゥと胸元で握り、エンブリオという力はそれに応えると信じて力を振り絞った。
溢れた力が洪水となり押し流したのは、敵だけじゃない。味方ごと押し流した。
うまく逃げ延びるようにと願う。それがわたしたちの二度目の、敗北だ。

＜＊　＊　＊＞

後悔を噛み締める間もなく……わたし達、二人は森に逃げ延びたのだ。

「ヴィクラム……」

声をかけるが反応がない。
ひどい傷だ。致命傷。治っても痕が残らないようになるかわからない。
わたし自身も疲労感に苛まれていつ意識が途切れてもおかしくはない。
それでも、一番手ひどい傷を負い眠っている男の頬に手を添える。

「わたしが守ってあげる」

祈るように。
応急処置をして口元に残った力を振り絞って彼女の血を注ぎ込んだ。
胸元に耳を寄せてその鼓動を確認すると、わたしの意識は途切れた。

　

約束通り、砂地で再開した四人。
互いの無事を喜び合い、ビブリオバベルは涙をこぼす。

そして誰彼ともなく、その日の残った時間を、
鍛錬に費やすことを提案し、皆頷いた。

ある者は己の仲間を護る為。
ある者は己の力不足を補う為。
武器を手に取り、構える。