森の夜は暗い。昨日まで夜営を続けていた庭のあの開けた空を過去に置き捨て、木々は現在として星空を隠す。蒼暗い闇を透かした枝の上に夜鳥の小柄な影がちらほらとうずくまっている。背を預けた高いマニョリアの木からこぼれたのだろう土の上の茶色く褪せた花びらは、枯れてもう香らない。少なくとも私の嗅覚には届かない。鼻は悪くないはずだ。それでも烟草を吸い続けるとある種の香りには鈍感になる。少しずつ銘柄を変えることで嗅げない匂いをずらしてはきたが、それにも限界はある。《ダコォ、マメール》を一本抜いて火をつけると薔薇の蕾に似た酸い香りがした。私の故郷、革命の世界レルヴォヴェールの《大革命》初期から吸われてきたというその銘柄は名前が好きで吸い始めたものだった。《オーケー、母さん D'accord, ma mère.》。疲れたような愛の響き。ほのかな薔薇の香りが添えられた軽い味の烟草、どれだけ吸ったところで糸のように軽いその取るに足らない一本をちびちびと長く吸うのが好きだった。烟草は酒よりも好ましかった、昔から……それは判断力を奪わない。少なくとも吸えているうちには。

身を隠した森だった。賞金がついたと聞いている。払えない額ではない。それでも悪名は悪名として、巷の取引に顔を出すことはどうやらできそうになかった。
人を……野生動物やエンブリオではない、人を撃ったのは初めてではなかった。メルンテーゼにおいて、と限ってさえ。それでも今度の一射はどうやら目立ちすぎたらしく、それまでの傷害や殺人のようにはいかなかった。私たちは革命の側にも、王の側にも、今や狙われ疎んじられる者となる。自ら選び取ったひとつのありかたとして。

烟草を吸いながら、思う。安いものだ。一言そう。安いものだ、この革命のなかで生まれるいくつもの迷いや決断や、心裡や信実に、その生々しい命の手触りに身を置けるなら。すべての火がそうであるように革命の火もまたそれのみでは燃え続けることができない。革命は斃すべき相手を火種として燃え続け、王の弱体や死とともに、衰弱し鎮火する。火には火が消えぬよう与え続けられる逆境の火種が必要なのだろう。対向からくべられつづけるその木が、炭が。それらが時には火自身を内部から責め苛むものへ替わるのだとしても。

それならば私は炎のための逆境でありたい——ダコォ、マメール：わかってるよ、母さん。その革命への関わり方は時に革命を内部から破壊してしまう。しかし、革命に内部批判の健全さと脅威からなる成長の二種をもたらすこともたしかにできる。革命には革命内部で今一度爆発する、革命についての革命が必要なのだ。

獣の気配がする。私は烟草の火を消す……そうして傍らの銃を執る。もうドレスではない。あの海 la mer はもうここになく、過去の向こうへ横たわっていった。すべては一瞬ごとに旧びていく。だからこそ一瞬ごとに目覚めねばならない。遠い未来の墜落を羽ばたきに変えるには、羽ばたき続けるよりほかにないのだ。その闘争がどれだけの世界を摩滅させるとしても。