「守るために戦う、っていう動機がそもそも後ろ向きなんだよ」











隊長室でこんな話をしたことがあった。

もう随分と昔──俺が入隊してそんなに立たない頃だった気がする。



「世の勇者様方を敵に回しそうな台詞だねぇ…」

「あン？そんな受動的な腰抜け勇者なんざ、剣も心も折られちまえ」



二人で挟んだ机の上の空き皿には、
先程まではウォートフラック産のレモンパイが載っていた。

パイ職人◯◯の手による逸品で、都市部においてはかなり有名な高級品。
あの世界に住んでいた頃には、まさか自分に食べる機会が訪れるとは思っていなかった。




「じゃ、隊長は何のために戦ってんの？」

ちなみに、パイは名に恥じない美味しさで、細かいカスまで綺麗に平らげてしまった。



「そんなもんお前、決まってんだろ」



同様にパイを完食した隊長は、ティーカップを片手に答える。



「手に入れるため、だ」


なおティーカップの中身は、これまたウォートフラック産の紅茶である。



「手に入れるって、何を？」


「欲しいものをだよ」


「欲しいものって？」


「俺が欲しいと感じるもの全てだ」



紅茶職人の何とかさんの逸品だった気がするが、こちらに関しては詳しく知らない。


「漠然としてんなぁ…」

「んだとぉ？………あっ、しまった」



ただ、レモンパイによく合うというのは、明確な事実だった。



「今のはアレだな？゛お前が欲しい゛って言われたいがための振りだったんだよな？」

「いや違いますけど」

「隊長様としたことが不覚をとったぜ…というわけではい、もう一回」

「あの、俺、割と真面目に聞いてるんだけど」

「真面目キャラはやめとけ、ジェイと被るぞ」



ちなみに隊で一番紅茶を淹れるのが巧いのは副隊長である。

紅茶以外にも緑茶や烏龍茶等々、茶と付くものならば大体彼は詳しかった。



「で、ルハ、お前はどうなんだよ」



隊長は、空になったティーカップをソーサーの上に置く。

このティーセットは何処の世界のものだったか、
隊長のお気に入りのコレクションの一つだ。


「どうって？」


派手好きな隊長にしては、このカップは割と落ち着いている。


「まず、守るもんなんかお前にはない」

「…あるかも知れないじゃん」


持ち手の部分の滑らかな曲線が、俺も気に入っていた。


「ないな」

「何でさ」

「そうじゃなきゃ俺の隊に誘ってないからな」

「…」

「というわけで、守るためという理由は使えない」




自分も、空になったティーカップを置く。

それはカチャリと音を立てて、次の言葉を待つ。






「さぁ、お前は何のために戦うんだ？」



「………俺は、」












…俺は────






































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隊商ギュネス　業務日誌記入用紙
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■本部より連絡欄■（記入者：パナイオテス）
　　入手品は全てエルデムの改造用。
　　余ったら条件付きでお前にやる。
　　もしくはお前の右腕に使う。

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■報告事項■

　○とくに

■詳細■
　○なし


■その他感想等■

　　はい。

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　　　　　　　と言って左手を差し伸べる。

　　　　　　　その腕に大した負傷はしていないようだが、所々自分で治療した痕跡がある。

　

　

約束通り、砂地で再開した四人。
互いの無事を喜び合い、ビブリオバベルは涙をこぼす。

そして誰彼ともなく、その日の残った時間を、
鍛錬に費やすことを提案し、皆頷いた。

ある者は己の仲間を護る為。
ある者は己の力不足を補う為。
武器を手に取り、構える。