ひどく体が重い。
混濁した意識の中で、誰かが私に声をかけながら何かをしようとしているのを感じた。
ともすれば閉じようとするまぶたを押し上げ、薄目でその人物を確認する。
浅黒い肌に強気な瞳、そしていつものように世話を焼こうとする——
——いや、違う。彼女ではない、クリシュナだ。
そこでようやく守りきれなかったことに気付くとともに、悔しさと申し訳なさが襲いかかってきた。
しかし思い出してみれば、なるほど、似た雰囲気がある気がする。
彼女は元気にしているだろうか、などと、そんなことを考えながら。
懐かしさを感じる心地よさに身を任せ、私は意識を手放した。


ガリバルディアとして見初められた10歳になるまでは、自分も他の子供たちと同じように、遊んだり、ケンカをしたり、イタズラをしたり、そんな他愛のない日々を過ごしていた。
ひときわ仲が良かったのが隣家に住んでいた少女で、少し気弱な自分を妙に気にかけてくれる世話焼きな娘だった。
同い年ということもあってか、いつも一緒に遊んでいたように思う。
自分が新たなガリバルディアとして選ばれたとき、皆が喜んでくれていた中で、一人だけ残念そうにしていた。
「私、会いに行くからね！」
別れ際にそう言った彼女は、本当にガリバルディアの庵に何度も足を運んだ。
庵に住むようになった12歳の頃は月に数回。
成長期を経て体格差が顕著になった15歳の頃は月に一度程。
自分がガリバルディアの仕事を一通りこなせるようになった18の頃には年に数回。
それからしばらく、顔を見せない年月が過ぎた。
師匠がいきなり引退して旅立ち、それでも手探りでどうにかガリバルディアの勤めを果たして数年。
25歳になった彼女はとても大人びて、静かな美しさを湛える女性になっていた。
「ねえ、ヴィクラム。私、来月結婚するの。」
おめでとうと答えたとき、彼女はこのときも少し残念そうな表情をした。
「ありがとう……さよなら、ヴィクラム。」
最後に彼女の声を聞いたのは、寂しげに呟かれたその言葉だった。


その後彼女は子宝に恵まれ、今もジャドゥーラで生活していると他の者から聞いている。
彼女やその子らを、ジャドゥーラを守るために立ち上がらなければならない。
けれどそれとは別に、私のために力を尽くしてくれた者達のためにも。

希望の灯は絶えることなく、何度でも輝く。

約束通り、砂地で再開した四人。
互いの無事を喜び合い、ビブリオバベルは涙をこぼす。

そして誰彼ともなく、その日の残った時間を、
鍛錬に費やすことを提案し、皆頷いた。

ある者は己の仲間を護る為。
ある者は己の力不足を補う為。
武器を手に取り、構える。