Day/8.0


***ちょっと前の話

　気分はいいかと聞かれたら、まあ、正直あまりよろしくはなかった。
　別に体調が悪い訳ではない。精神的な問題である。
　が、それが足を重くしているのもまた確かではあった。
「確認したいんだけどさ」
　果てしなく続く螺旋階段を下りながら、アリスシアは横に並んで歩くリキュリアに話しかける。
「なんです？解説です？」
「そういうのはいいから」
　うめきながらも続ける。
「今回は『王様』の暴走ってことになってるのよね」
「はい。……ああ」
　ここまで聞いてリキュリアは察したようではあったが。
「となると今回は『白』の話よね」
「でしょうね。早々に遭遇してリタイアとかやめてくださいね」
「それはあの糞馬に言って欲しい」
　遠慮することなく品のない言葉で毒を吐く。
　正直それを再確認できてしまっただけで既に帰りたい気分ではあるのだが、
今回は調査だ、遭遇率はきっと高くはない。と、
「言い聞かせてるところ悪いですけど、あの馬の反応ありましたよ」
「それは先に言えよ」
　皮肉を兼ねて、アリスシアは思い切り聞こえるように長々と溜息を吐いた。
ただ案の定リキュリアは聞いていなかったようだが。
「言えば前回のシアの仇を取るの準備でもしたんです？」
　揚げ足を取るように聞いてくる。長い付き合いではあるがだいたいこういう奴だ。
　色々思うことはあるものの、その返事をするのに思考する時間はいらなかった。
「あんなの相手するはずないじゃない」

またどこから出したのか、分厚い辞書をぱたんとしまい。

考察を聞き終えると、いつもより目を大きく開かせて興奮気味の様子。

目を閉じ、呼吸を調えて神経を集中させる。
早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が魔女の前に立った。