サマーバケーションは夜まで続いていたらしい。
俺が何していたのかは聞くだけ野暮ってものだ。
……あ、いやすみません。危ないの分かってて夜の海で飛び込みして遊んでました。
昼間いろいろ拾ってるときに手頃な足場を見つけたんだ。
材料渡してから遊びに行こうと思ったら、気づいたら鍋食べた後だった。
小さい頃田舎に遊びに行ってたときによく飛び込んでいたのを思い出して、つい。

ユディタと話してたら妹のことになった。
一揆を終わらせないと帰れないと認識してからは努めて家族のことを考えないようにしていた。
どんだけ案を練ろうとも、言葉の一言も伝えられない現状では意味が無い。
あっちに帰ったときは一晩しか経ってなくて、「あれは夢だったのか…？」的なことになってるかもしれないし、時間の流れについてはいくら考えてももう仕方ない。自分でどうしようもないことだ。
もし、こちらとあちらの世界で同じ速度で時が流れてるとしたら。
家の中で忽然と失踪したんだから、母や妹は酷く取り乱しそうだな。
父がそこら辺フォローしてくれていると信じよう。
うん、やはり考えても仕方の無いことだ。頭がもやもやするだけだ。

またどこから出したのか、分厚い辞書をぱたんとしまい。

(「ううん」と首を振って—)

そう言って、「おばあさまから教えてもらった」という話を始める。その内容は—

【Der Gevatter Tod】
ある所に、男がいました。男は貧しい生まれでしたが、死神に成功を約束されていました。
死神は男を医者にしてやると言い、薬草の群生地へと案内しました。

「横たわる病人を診るときは、まずは私を探しなさい。」
「私が病人の足下にいれば、この薬草を飲ませなさい。その人間の命は助かる。」
「私が病人の枕元にいれば、その人間の命は私のものだ。」

男は死神の教えを守り、名医になりました。男はとても裕福になりました。

ある日、王様が病気になりました。男が呼ばれると、死神は枕元にいました。
男は王様に生きていて欲しくて—　王様の足を枕の上に乗せて、助けてしまいます。
死神は怒りましたが、「一度だけだぞ」と許してくれました。

しばらくして、お姫様が病気になりました。男が呼ばれると、死神は枕元にいました。
男はお姫様に生きていて欲しくて—　お姫様の足を枕の上に乗せて、助けてしまいます。
死神はもう許してくれません。死神は、男を命の灯火の在り処へと連れて行きます。

男の命の灯火は王様とお姫様に分けてあげてしまったため、今にも消えそうでした。
男が生きるには、誰かから灯火を分けて貰わなければいけません。
しかし、死神はそんなことを許してはくれないのでした。

—おしまい—

目を閉じ、呼吸を調えて神経を集中させる。
早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が魔女の前に立った。

そう言うと、たくあんとルリアンナ材を大鍋に放り投げ、どこから出したのか大きな火かき棒で3回混ぜる。
棒の先端にのって鍋からでてきたたくあんは、ちょっとだけみずみずしい。