（※ショートバージョンでお送りします）




「私はあなたが来るのを待っていた、アレキサンドライトよ」

そう言葉を紡いだのは、目の前のエンブリオだった。
攻城戦を終えたあたし達の前に、新たなユニコーンが姿を現したのだ。

「…唐突にそんなことを言われてもね。貴方は一体？」
「待ってくださいアレックス、このエンブリオは……」

戦闘の直後であったがために、警戒の色を示すあたしや仲間たちを遮ったのは妖精レーヴェ。
碧の瞳を瞬かせて息を呑む。

「……"運命の星"です」

　"運命の星"。
　レーヴェが仕え、あたしがその力を借りている妖精女王が、『闇』を退けるために自らの"羽"を世界を超えてばらまき、
その力を以って探している選ばれしもの。


　これまでにもあたしは幾人かの"運命の星"と出会ってきている。
　彼らの内部に眠る"羽"の力は、根源を正せばあたしがゲートを開く際に行使する力と同質のもの。
　だからあたし自身も注意をすれば相手が選ばれしものであるかどうかくらいの判別はつく。
　彼らを『闇』を殲滅するために必要な世界へと送り届けることも、レーヴェ、ひいては妖精女王から与えられたあたしの役割の一つであるからだ。

　とはいえ、これまで出会ってきた"運命の星"はすべて人の姿をしていた。
　エンブリオの、しかも動物の形をとって姿を現すなどということは、聞いたことがない。
　それは、妖精であるレーヴェも同じらしく、驚きを隠すことができない様子であった。


「…説明をいただけますか？」
「そうだな、おじさんにはさっぱりワケがわからん」
「うむ。聞かせるといい」

　一揆の仲間たちの疑問はさらにもっともで、とはいえ自分たちで答えを持っているわけでもない状態のあたしやレーヴェも眉を寄せるばかりだ。

　そうこうするうちに、再び一角獣の姿をしたエンブリオが念話のように話しかけてきた。


　「アレキサンドライト。私は貴女に仕えよう。我がディーンと交わせし盟約に従って」



　その名前に、衝撃が走った。

　まさか、このような形でその名を聞くとは。






　ディーン。




　あえて姓をつけるなら、ディーン・シルヴェスタ。



　

　かつて、時を共にした、彼の名前を。

手を引かれ、店内へ。体温の温かさを感じながら、微かに苦笑する。
そうか、彼女にとっては儂は年下に見えるのじゃな、と思いながら。

席に座り、メニューを開く。
想像以上にたくさんの品目が並んでいるのを見て、目を丸くしながら。

注文を伺いに来たウェイトレスへ、《お好み焼きパフェ》を注文する。
まったくどんな味か想像がつかない。楽しみだ。
それで、お主は何を注文するのじゃ？　と、目線で軽くプレッシャーを与えながら、

そこでアレックス嬢の横槍を受けて、くす、と意地悪く笑った。

冗談だとわかる、明らかな棒読みで凄む。
妖怪だし、闇の領域に属しておることには違いないのじゃが、と嘯きながら。

言われて自分の周囲をくるりと見回し。
仲間の位置を確認するように空に鼻を向けると匂いを辿りながら距離を測る。
……どうやら少し遠くまで来すぎてしまったようだ。

ここで水浴びしていたように毛並みのお手入れには結構気を使っているので、褒められると照れくさそうな笑みを零す。

吸い寄せられるような紫の瞳を見つめて言った直後にはっと慌てふためき。