■Area：星屑の山

城の裏手を覆う、大きな山。
いくつもの星が降るその山は、強大な魔物達が蠢く魔境だ。
それだけに強力なエンブリオを得るにはうってつけの場所だった。
此処はその、ほんの入り口。

風を切る音。
けたたましい歌声。
暴風と共に訪れる略奪者たち。

二本足の竜が地表すれすれを飛ぶと強烈な疾風の一撃を叩き付ける。
だが、イヨルはおどけるようにそれをすり抜け、駆けていく。
すれ違い様に、比較的柔らかい鱗の隙間へとナイフを投げ入れ、鋭く貫く。
竜は苛立たしげにぎろりと睨め付け、宙へと戻り、旋回。

飛竜だ。竜騎士の騎獣ともなる下位の竜。
しかし

「悪いな。私はお前に用は無い。」

虚無の刃の一撃が無慈悲に飛竜の巨体を地面へと叩き落とす。
更にもう一撃。飛竜は、完全に沈黙。
残りの女怪たちを遊撃隊がじりじりと追いつめていく。
一匹。また一匹。
地へと墜ちていく。

地に倒れ伏したうちの一匹の女怪をミチエが見下ろす。

「さて。このまま死ぬか、私に従うか。選べ。」
「……貴女は力を示した。私はそれに従おう。」

エンブリオとして選定された者が契約を拒むことはあまり無い。
力は既に示した。強者には大人しく従うか、従えないのならばその場を去るだけだ。
相性が劣悪な場合は拒んで自害することもあるらしいが。

ネクターの花を取り出し、跪くハーピィの頭上に掲げた。
右手に掴んだ儀式短剣で手の甲を裂き、鮮血を滴らせる。
凛とした声が星降る山に響き渡る。

「血と生命の花を捧ぐ！
　いにしえの盟約により血肉を分け、我は汝を受け入れる。
　暴風の眷属よ。お前の疾き翼とその鋭さを我に与えよ。
　血の兄弟姉妹よ。我は汝と共に在り、共に往こう。」

契約は成された。
ハーピィが風の霊力の粒子の奔流となり、ネクターの花びらと入り交じる。
紅い花の嵐がミチエの身体へと取り込まれていく。

背から腰にかけての一帯をその住処として開き、受け入れる。
その内で再構築されていく。
精神を交わし、血肉を交わし、より主に相応しい形へと。
拍動と共に真鍮色の輝きが鈍く明滅する。
互いに馴染むには今暫くの時間を要するだろう。


悪魔を基に
陰りの闇たちを左手に
暴風と共に飛ぶ真鍮の翼を背に広げ
人と魔の垣根の上で
魔女は嘲笑う。

にゅいん、と触腕を動かしてみせたりしつつ。